23頭の牛がいる牧場
街を出た俺たちは空をびゅんびゅん飛びながら昨日入手した情報にあった村に向かっていた。
空を自由に飛びたいなら科学より魔法の方が楽だね。
ソウルは流石に慣れてきたようで、なかなかのスピードを出している。
アイアスは元々飛べるから大丈夫だ。
武器ってやつはなんでみんな飛べるんだろうな。
「なんで村なんて調べるんだぜ?」
「この大陸の生産物を知りたくてな、何が手に入るのか、どのくらい作っているのかを知っとくだけで結構違うもんなんだ」
大陸の生産物を把握しておくに越したことはない。
俺の予想だと肉だな、ステーキ美味かったし。
もしやあれも幻覚……流石にそれはないか、街が変わる前だったからな。
それにしてもこの草原は何も無いな、変わらない景色に飽きてきたよ。
XPの壁紙みたいな感じだ。
「お、あれか?」
ソウルの言葉を聞き俺も目を凝らす。
見ると、遠くに柵を確認できる。
あれは……牧場か?
近づくにつれて民家が見え始める。
牧場、やはり家畜か。
村人に見られると面倒くさいことになるので、この辺りで着地しよう。
「よっと」
「でけぇ牧場だぜ! マールボロの4倍……いや、5倍はあるぜ!」
マールボロにも牧場はあったな、小規模だが。
それと比べたらここの牧場は大きい、家畜は……牛か、品種的にホルスタインだな。
牛だけでこの大きさなのだから恐ろしい。
「澄んだ空気ね、さっきの街とは随分違うわ」
「武器でも空気の違いわかるんだな」
「当たり前でしょ? こっちはこたつに入る武器なのよ? あ、そうよ! こたつ作りなさいよ!」
「そりゃ無理なお願いだ」
この世界に熱を発する石とか結晶があれば別だけどな。
魔力で動く機械があるこの世界なら開発できるのでは……?
「こたつってなんだ?」
「えっとな、低いテーブルに厚い毛布が挟んである家具だ。そこに熱を発する何かを取り付けたらできる」
「うーん……へんな家具だな」
せいぜい馬鹿にしているといい、完成したらその魔性に取り憑かれることになる。
コタツムリ大量製造計画始動だ。
「旅の人かい?」
牛の世話をしていた老人が話しかけてきた。
この数の牛を1人で世話しているのだろうか。
「まあそんなところだ。この村を見て回ってもいいか?」
「もちろん。といっても、ここは牧場くらいしか見るものなんてないがの」
「ここ以外にもうひとつ村があるんだろ? そっちには何があるんだ?」
「隣村は農業が盛んだの、この村の家畜の餌も隣村で作られた物だからの」
こっちは牧場で、別の村は農業。
もう一緒になれば良くないかそれ。ほら、某牧場ゲームみたいに。
「じゃあなじいさん、頑張れよ」
「お主らも頑張りなされ」
手を振りながら再び歩き始める。
ソウルとザンはゴーレム戦がかなり効いたらしく、顔に疲れが出ている。
十歩歩く度に「早く帰ろうぜ」って話しかけてくるレベルだ、俺も早く帰りたい。
* * *
あれからしばらく歩いて村に到着した。
牛や豚などを調べるだけなので俺の単独行動だ。
三人には適当に休んでもらう。
おこずかいを渡して売られていた牛乳を冷やして渡したら大喜びしていた、冷たい牛乳って美味しいよな、わかるわ。
まずは牛だ、さっきのじいさんがいた牧場に入れてもらって牛を調べる。
ホルスタインと……まじか、黒い牛がいるぞ。
さしずめ黒毛和牛か、昨日食べたステーキはこの肉だったりするのかな。
ちなみに、闘牛はいなかった。牧場だからね、仕方ないね。
闘牛って赤いものに突撃するイメージあるけどあれって単にヒラヒラしているものに突撃してるだけなんだよね、これユウトくん豆知識な。
「鳥は……鶏と鶉、七面鳥か」
鶉は分かるが七面鳥までいるとはな、これ絶対美味いやつだよ。
「物好きなにいちゃんだな、どうせだから買っていってくれよ」
「え? あー……じゃあ鶏と鶉の卵を10個ずつに、鶏と七面鳥を3羽ずつくれ」
「そんなに1度にか? よし、待ってろ」
鳥を飼育しているであろう男が話しかけてきたので食材を買うことにした。
まだ魔袋には食材がたくさん入っているが、物は試しだ、ここの肉も買っておこう。
そう、あれは料理の世界のこと……やめておこう、思い出していたらキリがない。
それにしても平和になったものだ。
昔は動物なんて魔物のせいで山奥にしかいなかったのに、今はこんなに大きな牧場が作られているのだから。
魔物については、昔の俺がマフォと協力して封印したんだよな。魔族にとっていいこととは言えないだろうが。
まだ魔物の封印は続いているみたいだし、しばらくは安心だな。
「マフォの子孫か……」
どんなやつなのだろうか、アイツに似ているということは間違いなく変態だろう。
あの頃の俺はよく汚されなかったな、朝目が覚めたら股の上にいるとか普通だったのに。
うっ、なんだか寒気が……
「えーっと、これでいいか?」
「早いな、鮮度は大丈夫なのか?」
「おう、倉庫で冷やしてたからな」
「倉庫?」
言いながら代金を渡す。
セブンスタで金貨を崩しといてよかった、細かいお金があったほうがいいよな。
とりあえず肉と卵は魔袋に入れる。
念動力で膨らんでるように見せてるから疑われる心配はない。
ないよね?
「どうもっと、村で魔法を使えるやつが氷魔法で冷やしてくれるんだ、そうでもしないと腐っちまう」
俺が鹿と猪の内臓を冷やしたのと同じ感じか。
倉庫ごと冷やす、魔法で巨大冷蔵庫を作ったわけか、マールボロでも同じことしてるのかな?
小麦村にそれがなかったのは氷魔法を使える人がいなかっただけなのかもな。
店を出て別の牧場へ向かう。
豚と、羊か。
豚は一種類だけで、羊は基本毛を刈って収益にしているようだ。
羊はあんまり食用にはしないらしい。
苦手な人は苦手だよな、臭みとかあるし。
ここでは肉と羊毛を買い込む。
これで村は一周したはずだ。
ちゃんと牛肉も買いに行ったから安心してくれ。
さすがは黒毛和牛、安くはなかったぜ。
「ただい……んん?」
咄嗟に隠れてしまった。
俺の視線の先では何やら三人組がこそこそと話をしている。
あいつら一体何をするつもりだ?
ザンがしゃがみ、ソウルが首にまたがっている。
「いくぞ……せーのっ!」
「ほいっ!」
ザンがソウルを肩車した、なんでだ。
……なんでだ。
「アイアスさん!」
「任せて!」
今度はアイアスがジャンプしながら盾に変身、ソウルがそれを見事キャッチ。
そしてソウルとザンは同時に剣を抜く。
「「無双兵士ソウルザン!」」
「アンドアイアス!」
見なかったことにしよう。
なんだその雑な合体は、ロボアニメじゃないんだぞ。
グレ○ラガンくらいわけわかんないからやめとけ、あとダサい。
昔やったRPGにそんな敵キャラいた気がする。
「いやぁ、いい感じだな!」
「俺が下ってのがなんか嫌だぜ、ソウル、今度は逆で試してみようぜ!」
「無茶言わないでくれますかね!?」
ああダメだ、二馬鹿かと思ったら三馬鹿だった。
なんでアイアスまで加わっちゃったんだ、確かにアイアスもネジぶっ飛んでるけどさ、多少は常識的だったはずじゃん。
「……ただいま」
「おかえり! 早かったな」
さっきまでザンの上に乗っていたソウルが元気な声で返事をした。
こっちは仲間がアホすぎて困ってるんだ、話しかけないでくれ。
「まあな、次の村行くぞ」
「あれー? 元気ないねユウトくーん、お姉さん悲しいよ」
やめろ近づくなバカがうつる。
俺はこいつらと居て大丈夫なのか……? 俺もアホに染まるんじゃないのか?
助けてくれミント。
最悪村長でもいい。
このままじゃいけない、このやるせない気持ちをどこかにぶつけなくては。
あとで王様一発殴ろうかな。
なんで王様がとばっちり受けてんだ。
変なものを見せられた腹いせだ、こいつらに羞恥心を与えてやる。
「ほら行くぞ無双兵士ソウルザン」
「見てたのかよ!?」




