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第1話『不羈自由』

 この世界での使命を告げられなかった俺は、ついに自由を手にした。

 もう俺は何にも縛られない、不羈自由(ふきじゆう)である。


 転移して初めにやることは決めている。

 まず発声練習。


「んんっ、あーーいーーうーーヴェッ」


 よし、声は出るな、ちょっとむせたけど。

 ていうかさっき無意識に声出してたから声が出るのは分かってたんだけど、一応な、一応。

 次に持ち物のチェック。

 動きやすいように布でできた服、見た目は安物の片手剣、この片手剣はちょっと特殊な作りになってる。

 服と剣は変わってない、次は魔袋(まてい)の確認だ。


 魔袋はものを別の空間に収納しておける便利な道具だ。

 腰につけた黒い袋(黒い布を縛って袋状にしている)を開く、腰につけてはいるがきびだんごは入ってないよ。

 中を除くと宇宙的な、銀河的な世界が広がっている。

 そこに手を突っ込んで取り出したいものを念じる。

 何かを掴む感覚、そのまま袋から手を抜く。

 出てきたのは水晶で作られた魔法少女のフィギュア、もちろん作ったのは俺だ。

 懐かしいな、俺が錬成を使って遊んでた頃のやつだ。

 魔袋はちゃんと使用できるようだ。

 とりあえずフィギュアは魔袋にしまう。


 状態の確認を済ませた俺は目の前に見えた村を目指してゆっくりと歩きだした、やばい今ならなんでもできそうな気がする。

 てか実際大抵のことはできたりする、俺一人で核兵器の数倍の威力は出せる。


 さっきまで機械のように魔王を倒していた自分が嘘のようだ。

 俺は村についたら宿屋に泊まって毎日惰眠を貪るのだ。

 軽い気持ちで異世界転生なんてするもんじゃなかった、俺は元々インドア派なんだ。


 しかし遠いな、歩きってこんなに遅かったかな。

 今まで飛行魔法と転移魔法が主な移動手段だったためか、徒歩が遅く感じる。

 今の俺は英雄じゃない。

 村についた時に英雄扱い、または化け物扱いされるなんて御免だ。

 ならば普通の人間を演じて村に入らなければならない。

 この世界の魔法がどこまで進んでいるのかは分からないが、人間が空を飛びながら村に入ってきたら大騒ぎにはなるだろう。

 だからこその歩き、歩いてくれば旅人だと思って対応してくれるはずだ。

 時間はたっぷりある、ゆっくり行こうじゃないか。


 俺はどうやって村に泊めてもらおうか考えながら歩く。

 怪しまれないためにも正当な理由が必要になる。

 まず迷い込んだ旅人、これは確定だろう。

 今着ている服は見た目は地味だが、耐久性がある布の服である。

 腰には剣をぶら下げている。

 これなら旅人だと思われるはずだ。


 とかなんとか考えてるうちに村内に入っていたらしい。

 見渡す限りの畑畑畑、世はまさに大農園時代ってか。

 これは……小麦だな、一面の小麦畑が広がっている。

 金色の小麦が風になびく姿はとても美しい、綺麗なものは好きだよ、私は。

 小麦畑が広がっているということは5月か6月くらいだろう。


 さて、村についたのはいいのだが村人が見当たらない。

 不思議に思いながら空を見ると太陽が西に沈んでいくのが見えた。

 ああ、もうすぐ夕方なのか、なら畑になんていないよな。


 人を探すなら家が集まってるところだ、それも大きい家。

 目標は村長を見つけること、多分左上あたりにテロップで村長を見つけようとか書いてあって地図に矢印がついてる。

 最近のゲームは次にやることがわかりやすくていいよね。

 なんの話だ。


 日没までに村長とコンタクトを取りたいな……くっそ、時間が無い。

 誰ださっき時間はたっぷりあるとか考えてたやつ。

 俺は早歩きで家が密集している場所に向かった。


* * *


 あの後は特になんのイベントもなく、村って感じのする場所まで行くことが出来た。

 ちょっとくらいイベントあっても良かったと思うんだけどなぁ、道中で可愛い村娘に出会う! みたいな。

 そんな淡い希望も消え、無事に村長の家っぽいところに着いた。

 多分ここだ、いちばん大きいから。

 ここは礼儀正しく、慎重に。


「あのー、すみませーん」


 しまった、この世界で言語が通じる確証はないのについ普通に声をかけてしまった。

 前までの世界では転移と同時に言語が統一されるたため、日本語でも通じた。

 だが、今回の特殊な転移で効果が発動していない可能性がある。


「む、なんじゃおぬしは……見たところ冒険者に見えるが」


 木製の扉が開くと中から白髪を生やした薄目のお爺さんが出てきた。

 言語の補正はかかっているらしい。

 冒険者、この世界には冒険者がいるのか。

 旅人とはどう違うのだろうか。


「いえ、旅人です。暗くなる前に泊まれる場所を探していたところ、この村を見つけたため寄らせていただきました」

「ほう……礼儀はなっとるようじゃな。どれ、入れ」

「ありがとうございます」


 お言葉に甘えて家の中に入れてもらう。

 藁の屋根を見てから内装が心配だったが、木材を中心に建てられた立派な木造建築だった。

 木の暖かみを感じるいい家だと思います。


「正直に話してみぃ、この村に泊めてほしい。そうじゃろ?」

「はぁ、まあそんな感じですね」


 正確にはちょっと違うんだけども。


「んん? 泊まること以外に何かあるのか?」

「えっとですね、住むところを探していまして。出来ればこの村に住みたいなーっと」

「ほほお、つまりこの村の住民になりたいということじゃな」

「そうなりますね」


 正直な話、別にこの村じゃなくてもいい。

 だけど最初に見つけた村だ、謎の愛着あるじゃん?

 そういうことだ。

 どういうことだ。


「ああ、まだ名乗ってなかったの。ワシの名はダラバ。この村の村長じゃ」


 俺はここに来る道中に自分の設定を考えていた。

 まずここで嘘を混ぜる。


「僕の名前はユウト、ちょっと記憶喪失の旅人です」

「ユウト……まあいい、記憶喪失とな」


 ユウトで少し詰まったのは珍しい名前だからか。

 確かに異世界ではユウトなんて名前のやつ居なかったからな。


「はい、東の大陸から渡ってきたのですが、この大陸に渡ってきてからこの世界の記憶が抜け落ちてしまったんです」


 東の大陸、つまりニッポンポンだ。

 この世界に東の大陸があるのかは知らないが、なかったら未開の地とでも言ってやろう。


「東大陸から来たのか……ふむ、それだけで記憶を失うなぞ聞いたこともないが……魔王が関係してくるのかもしれんな」


 東大陸という大陸がある、つまり今俺がいる大陸以外にも何個か大陸があるということだろう。


 それに。


 魔王、村長は確かに魔王と言ったな。

 この世界にもいるのか、だとしたらそいつを殺したらまた転移したりするのだろうか。

 できれば殺したくない、せっかくの自由なんだ、可能性があるなら殺したくない。


「そうかもしれませんね、東大陸から渡ってきたことだけは覚えているのですが……」

「そうか……気の毒じゃな……して、金はどのくらい持っておるのじゃ?」


 来ました、今の俺にしてはいけない質問ベストスリーに入る質問、他のふたつは知らない。

 実は幾多の異世界転移を繰り返してきた俺は金を所持しなくなったのだ。

 というのも、理由を説明してみると簡単な話だったりする。

 魔王城(またはドラゴン)まで飛行魔法で飛んで倒す、という作業をしていたため、その世界に滞在する時間が短かったからである。

 もしその世界が広く、魔王城まで数日かかる、という時でも魔袋に入った食料でどうにか出来るし、魔袋に入った宝石などを売って金にすることだって出来る。

 だから金は常備していなかった、そもそも通貨が違うことがほとんどなんだけどね。


「ごめんなさい、一文無しです」


 馬鹿正直に答えてやった。

 金を持っていないことを知れば金の代わりになにか条件を出してくれるはず。

 もっとも、無条件で出て行けと言われる可能性もあるわけだが。


「え……そうじゃな、ならばすぐそこの山で鹿か猪を狩ってきてくれんかの、そうしたら金を渡そう、流石に金を持ってない輩を村には置けないからの」


 おい爺さん、金持ってないの知って一瞬引いただろ。

 とはいえこれは好都合だ、サクッと狩って帰ってきてやろう。

 すぐそこの山ってことは俺が目覚めた森から少しのところだな。


「鹿と猪を狩ってくればいいんですか?」

「そうじゃ、最近肉が手に入らなくての、資金も少なくなって手が出せんのじゃ。あと鹿と猪じゃなくて鹿か猪のどちらか——」

「よしジジイ、ちょっと待っとけ」

「お前さん口調が変わっとるぞ、それに別に今日じゃあなくても——」


 俺は村長の話を聞かずに立ち上がり、扉を勢いよく開けると近くにある山に向かって走り出した。


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