11枚の金貨
けたたましい金属音が耳をつんざき、脳を揺らす。
ほんの数秒間で俺は覚醒した。
「ほらユウト起きな、朝食の時間だよ」
「ケイトさん……おはよう」
起きて目の前にいたのは鍋を持ったケイトさん。
金属音は鍋をお玉で叩いた音らしい。
残り湯の次はお鍋ですか……
顔が濡れないだけマシかな。
「ユウト起きたか!? よっしお前下降りろ、詳しく聞かせてもらうからな」
「なんだよ朝っぱらから」
ソウルのテンションについていけない。
なんで寝起きでこんなにテンション上げれるんだ。
ひとまず俺は階段を降り、酒場の椅子に座った。
俺一人にテーブルを挟んでソウルとザンが座っている。
面接かな。
「それで、何が聞きたいんだ?」
「全部だわ! なんで急に消えたの!? あの光はなに!? お前何者!?」
ソウルがうるさい。
大声出すなよ、他のお客さんに迷惑だぞ。
まぁ誰もいないんですけどね。
「そうだぜユウト、あんな魔法見たことねぇ」
ザンは実力者のようなので、この世界について詳しいと見た。
そのザンが転移魔法を知らないのだからこの世界にはまだ転移魔法が存在しないのだろう。
800年経っても魔法は進化してないのか?
「はぁ、実は——」
それから俺はこれまでの経緯と転移魔法について、自分が英雄だということなどを話した。
俺が大英雄だと言った時はさすがに二人とも疑っていたが、話を聞いていくにつれて信じてくれたようだ。
「ユウト、いや、ユウトさんの方がいいですか?」
「今までどおりに話してくれ、お前が敬語使うとか気色悪い」
「そこまで言うことないでしょ!?」
そうそう、お前はそうやってツッコミを入れてる時が一番輝いてるよ。
「俺らの祖先、ゼーレ、アルテのことを教えてくれねぇか? 言い伝えでしか聞いたことがなくてな」
「え、なに? ザンってアルテの子孫なの?」
「言ってなかったか? 俺はザン=ガラディンって名前だぜ」
おいおい、どうしたらあの小柄な女の血からこのガチムチが生まれてくるんだ。
いやでも騎士だし、男の場合は筋肉質になるのかもしれない。
そういうことにしておこう。
「えーっとな、ゼーレはソウルに似てうざくて、アルテは元気いっぱいの女だったな」
「うざいってなんだよ!?」
「へぇ、言い伝えではおしとやかな女性だったと聞いてんだけど……」
あの元気娘がおしとやかとかありえないだろ。
魔王城前で疲れてなかったのアイツだけだぞ、ないない。
「全くの嘘だ、おしとやかのおの字もなかったぞ。マフォの方が静かだった。そういえば、マフォの子孫は?」
「アイツはちょっと……」
「同感だ」
主語を入れてくれ、何に同感してんだ。
性格に難ありか? 今更だろ、変態の子孫だぞ。
「まあそいつのことは後でいいや、それよりお前ら今日暇?」
「暇だけど?」
だろうな、暇そうな顔してるし。
「今日は予定入ってねぇな、付き合うぜ」
「お、ならちょっと質屋の場所とか冒険者のなり方とか教えてくれ」
「質屋? なぜ? ホワーイ」
「資金集めだよ、宝石とか売るんだ」
ソウルよ、なぜとホワイは同じ意味だ。
この街のことは悔しいことにソウルの方が詳しい。
詳しいと悔しいって似てるよな。
なんの話だ。
その後ケイトさんが作った朝ごはんを食べた俺たちは質屋に向かうのだった。
朝ごはんは白米と目玉焼きにベーコンでした。
懐かしすぎて泣いた。
* * *
ソウルは質屋の場所をよく覚えていなかったので、ザンに頼ることになった。
詳しくねぇじゃねぇか。
ザンが連れていってくれるのは街一番の道具屋、とのことだ。
道具屋ねぇ……やっぱ緑の道具屋と比べちゃうよな。
店の前についたが、そもそも店がでかい。
とりあえずザンが扉を開けて入ったので、俺も店に入る。
「いらっしゃいませ」
思った通り、中も広い。
中は思ったより綺麗だな、なんだか寒いわ。
いや鬼は出てこない。
左右に階段があり、一階と二階で商品がわかれている。
一階は見たところポーションなどの道具系だ。
品揃え豊富っすね、まさに街の道具屋って感じだ。
「質屋をしているのは二階だぜ」
なるほど、二階から見える輝きからして宝石や鉱石などの石系を売っているのか。
道具屋というより万事屋だな。
「みてみて! この剣よくない?」
ソウルが壁にかけてあった剣を見せてきた。
この店剣まで売ってるのか。
というか剣の強さがわからん、全部同じに見える。
強い剣とは言えないだろうが、弱い剣なのかは判断出来ない。
「あ? あー、そう、なのかな?」
「いや、この剣は初心者向けの剣だぜ」
「マジかよ……」
露骨にがっかりするソウル。
鑑定魔法で素材を調べてみたが、安物の鉄でできているらしい。
永く武器なんてしっかり見てなかったからなぁ、昔は見てすぐに強さがわかったものだが。
「なにかお探しですか?」
わちゃわちゃしていると店員さんが話しかけてきた。
あれね、服選んでる時に圧かけてくる店員さんでしょ、わかるよ。
「物を売りたいんだけど、大丈夫か?」
「はい! こちらにどうぞ」
カウンターに用意された椅子に座る。
商談用の椅子だろうか。
「それで、何をお売りに?」
「そうだなぁ……」
とりあえず魔袋に手を突っ込む。
何を売ろうか、宝石、結晶、それとも鉱石?
どうせだからランダムで出てきたものを売ろう。
売っちゃダメな大きさだったら別のにすりゃいいし。
「よっと」
出てきたのは魔袋よりも二回りほど小さい袋。
袋から袋が出てきたぞ、マトリョーシカかよ。
なんだっけこの袋。
「これは……?」
「開けてからのお楽しみだ」
袋を逆さまにし、カウンターの中心にぶちまける。
ジャラジャラと音を立てて袋から出てきたものは金貨や銀貨、銅貨だった。
こんなの入れてたっけ?
「見たことないお金ですね……」
「あ! これ本で見たことあるぜ!」
ザンが金貨を手に取り、声を上げた。
見たことある? それに本……もしや。
「800年前の通貨か?」
「ああ、間違いねぇ、こりゃあまだ王国歴だった頃の金貨だぜ。この紋章がその印だ」
俺も金貨を手に取り紋章を見る。
金貨には0の上に×が合わさった形の紋章、それを囲むように小さな凹凸が掘られていた。
銀貨や銅貨も同様に同じ紋章が掘られている。
「確かに、本物のようですね。それにしてもこんなに汚れの少ない旧金貨など……」
いつの間にか本を取り出して鑑定魔法を使っていた店員さんがそう言った。
それは良かった。
ならこれと同じ量の金を交換してくれればいい。
「ですが、これを受け取ることはできません」
「え?」
「これだけ貴重なものだと、今店にあるお金をすべて渡しても足りません……」
なんてこった、交渉材料が高すぎなのか。
よく良く考えれば当然のことで、大昔のお金なんて何十、何百倍もの値段がつくことだってあるのだから。
「このお金ってそんなに価値あんの?」
ソウルが旧金貨でお手玉をしながら言った。
お手玉うまいな、3つだけど。
「はい、その旧金貨1枚で金貨100枚の価値がありますよ」
「ひゃっ!?」
ソウルが旧金貨を床に落とし、カランカランと音が鳴る。
今落ちてる旧金貨だけで金貨300枚か、世の中金だな。
人生ゲーム並みの金銭感覚崩壊である。
桃太郎の電車ゲームよりは金銭感覚崩壊してない。
「なら……この旧金貨1枚を金貨100枚で売るってのはどうだ?」
「それなら大丈夫です。ご用意いたしますね」
店員さんは金貨を取りに店の奥に消えていった。
にしても昔の俺はよくここのお金なんて持ってたな。
多分思い出にとか考えて魔袋が手に入るまで収納魔法に入れてたんだろうな。
「ぼ、僕もしかして金貨300枚で遊んでた……?」
「金で遊んだんだぞ、喜べよ」
「できるか!!」
ザンは他の貨幣を見ながらほーとかへーとか言っていた。
マッチョがちまちまお金数えてる姿とかちょっと微笑ましいな。
「お待たせ致しました、こちらが金貨100枚になります」
「どうも」
例のごとく魔袋に入れる。
一気に大金持ちだぜ。
一気に大金持ちになって一気に借金背負う主人公みたいなことにはならないように気をつけよう。
どこのカズ○さんですか。
店を出て次の目的を目指す。
さすがに何も買わないのはあれなので適当に葉っぱの造形品を買ったよ。
コンビニに入ってトイレだけ借りるのってなんか嫌なんだよな、わかるかな。
「次は冒険者登録だな、どこで出来る?」
「マールボロ城で出来るぜ。ところで、なんで冒険者になりたいんだ?」
「ほら、冒険者になればさ、王に心強い味方がいると思わせられるじゃん」
「味方じゃないのか?」
「俺は正義の味方だよ、安心しろ」
人間でも、魔族でも、悪は悪だからな。
いくら正義の味方でも聖杯戦争には参加しないからね?
無限に剣を出したりもしないからね?
やろうと思えばできるが。
「ソウルはAランクの冒険者って言ってたよな、ザンはどうなんだ?」
「俺は冒険者ランクはSSランクだぜ。一応、剣士としてはこの大陸で一番強い」
SSね、ショートストーリーかな。
それともストライク……やめとこう。
ザンが国で最強ってことは王国軍ピンチだな。
今度稽古つけてやるか。
「へぇ、その割には忙しくなさそうだが?」
「たまたま暇なだけだ。俺はいつも依頼があるけどソウルはいつも暇だぜ」
「そうだけど! そうだけどさ!」
いつも暇か、Aランクっていうからには依頼とか貰いそうだが。
「暇? Aランクなのにか?」
「Aランク以下の冒険者ってさ、基本依頼なんてないんだよ。たまに城に集められて命令されることがあるくらいでね。仕事なんて街のパトロールか掲示板に貼ってある依頼受ける程度しかやることがないんだ」
自由なのか、いいなそれ。俺もそこ入りたい。
でも実力的に入れなそう。
「くそっ、ソウルの弱さがうらやましい」
「なんで急に馬鹿にしたんすか!?」
そんな馬鹿話をしながら、冒険者登録ができるという城に向かった。




