記念
食糧を確保し、再びデビルホーンの塔へ向かった俺たち。その日の夜、丘にできた洞穴を見つけた俺たちは、そこで野宿をすることにした。
皆は走り疲れたのか、すぐに眠ってしまった。
「神裂くん」
「……先生」
丘の上で草原を見ていると、先生が丘を登ってきた。まだ、不満があるのだろうか。
「神裂くんは、その……優しい、ですよね」
「はあ? どこがだよ。勝手に決めて、勝手に動いて。恨まれるのは当然だ」
「口が悪いですよ」
「あくまでも先生ってわけか……」
普通は演じる余裕なんかないはず、本当は怖いはずだ。死ぬかもしれない旅。その上、今は俺と二人きりなのだ、怖くないはずがない。
「優しいです。あんな、クラスメイトだろうと殺せるなんて言っていたのに、バレないようにみんなを救ったりして」
「結果的にそうなっただけです」
先生は目を瞑り、深く深呼吸をした。
「目的、教えてください。神裂くんが何のためにメビウスに潜入し、何のために大魔王を倒そうとしているのか。神裂くん一人で、倒せるかもしれないじゃないですか。この世界の人間の中で、一番強いんでしょう?」
「では、目指しているものから言いましょうか。俺の目的は世界平和です」
自分で言うのもアレだが、それは間違いないだろう。
「それは、大魔王を倒して、平和にするということですか?」
大魔王を倒すと世界が平和になる? そんなことはない。それを俺は知っている。
だってそれは、世界平和ではなく、大魔王がいなかった頃に戻るだけだから。
だから、俺は考えた。どうすることが世界平和になるのか、具体的に何をすればよいのかを。
「いいえ。大魔王を倒すことは第一歩に過ぎません。実はですね、この大魔王討伐に、全世界の戦力が参加するんです」
「えっ、全世界、ですか?」
メビウス城の中で少ない情報の中過ごしてきた先生たちには、全世界がどのようなものなのか、あまりよくわからないだろう。
「はい。人も、魔族も、全てです。全ての国が、全ての種族が、大魔王という共通の敵を持ったのです」
「それが、第一歩……?」
「考えてみてください。人間と魔王魔族が共闘するんです。お互いに恨んでいたはずなのに。俺は魔族と人間の諍いを無くす、それが大魔王を倒すことに人を集めた理由です。これが、始まりなんです」
ただ闇雲に戦い、国を回っているだけでは平和なんか作れない。
「よかった、するべきこと、見つかったんだね。ユウト」
「ああ」
「ミントさん!?」
あの日、温泉でした話を思い出していた。
仲間がいるから、できることがある。俺一人じゃ上手くいかないことだって、今までいくつもあった。
過去の俺は、世界平和を静かに過ごすこと、魔族と人間の偏見を消し去ることだと思っていた。しかし、違った。
そんな曖昧な理想じゃない。偏見を消し去り、諍いを無くすことは理想ではあるが、本当の平和はそこから先だった。
あくまでスタート。俺の本当の目標は、まだ始まってすらいない。
「各国で味方を作り、共に戦う。そこに魔族が混ざれば、人と魔族が戦友になる?」
「そうだ。共通の敵さえいれば、動かすことは簡単だ。あとは魔族と人間が共闘し、お互いの考え方を変える」
その先のことは、王様とまた話し合わなきゃな。
「俺は、平和の為に大魔王を利用する」
利用できるものなら、なんでも使う。例えそれが神であっても。
「もし、もし私たちが帰れることになったら神裂くんはどうするんですか?」
「帰りませんよ。帰れたとしても帰れないです」
「どういう意味ですか?」
「俺、死んでますから」
「死ん……で、る?」
俺は先生に俺がこの世界に来た経路や、経験したことを簡単に話した。
話を聞いていくうちに、先生の目に涙が浮かぶ。
「じゃあ、じゃあ! あの朝聞いた知らせは、本当だったんですか?」
「はい」
先生が俺に近づき心臓のある場所に触れる。
「この動いている心臓は、本当は止まっているんですか!?」
「……はい」
「そんなっ……あぁ……ああ……」
泣き崩れてしまった先生の背中をポンポンと叩く。ミントも近づき、寂しそうな表情でその姿を見守っていた。
「俺のこの体は元の世界のものじゃないけど、先生たちの体はあの世界のものです。帰ったら、親に伝えてくださいね。俺は別の世界で生きてると」
「はい……必ず伝えます!」
「ありがとうございます」
最後の言葉くらい、伝えたかったからな。それなら尚更、先生を死なせるわけにはいかない。
先生には感謝してもしきれない。せめて、少しでも恩返しをしようか。
「ちょっと待ってくださいね」
俺は襟を掴み、服を脱ぎ始める。
「な! ユ、ユウト!?」
「神裂くん!?」
脱ぎ始めた瞬間、ミントと先生はすぐに後ろを向いた。下を脱ぐ前に隠蔽魔法でもかけようと思っていたのだが、必要はなさそうだ。
魔袋から服を取り出し、それを着ていく。
「いいですよ」
「いいって……何その服?」
「せ、制服……! 確か、没収されたはずですが」
俺が着たのは城の調査をしている時に回収した制服。ブレザーや白シャツ、ズボンまで揃っている。学校に通っていた頃と全く同じ格好だ。
「城の倉庫に保管されてたので回収したんです。これが最後の制服姿でしょうね」
「ほんの少し前なのに、懐かしいです……」
「ミント、スマホ、持ってるか?」
「あの光る板だよね。よいしょと、どれ?」
ミントは空間魔法から全員のスマートフォンを取り出し、俺に見せた。
「先生のは……これか。先生、写真撮りましょうか」
「……! はい!」
写真撮影には、俺の念動力を使用した。
全体を写すためには、誰かに撮ってもらう必要があったからだ。念動力があれば、遠くからでも写真を撮れる。
先生の写真のカメラロールに、ニッコリと微笑む先生と、その後で火の玉を出す俺、その隣で植物を成長させるミントの写真や動画が追加された。




