草原とウサギ
森を抜け、開けた草原に出た俺たちは、全員が集まるまで休憩をする。森が横に広くて助かった。ずっと森だと抜ける前に気が狂うだろうから。
「あぁ、疲れた」
「あと数日これが続くぞ」
「ぐへぇ」
女の子にあるまじき声を出したミントは、雑草を成長させ椅子を作り、そこに腰掛けた。
便利だなおい、俺にも作ってよ。
「とう……ちゃーく!」
声のした方を見る。森から五人組が物凄いジャンプ力で飛び出してきた。
なんだなんだ、そんな魔法あったか?
というか、明らかに木の上移動してきただろ。
「あんれ、早いね」
「今のどうやったん?」
「私の能力、コントロールグラビティーで身体を軽くして枝から枝へ飛び移りながら移動したんだよー」
あ、それ俺もできます。
「身体を軽く! それ私たちにもできる?」
「うーん、私の近くにいないとできないから、別の班だと厳しいかな」
「そっかー」
楽をするべく話しかけたミントが撃沈する。残念だったな、でもここからは草原だから木の根を気にせずに走れるぞ。
だべっていると、他の班も続々と到着し始める。リビアルは……馬車!? 馬は普通の馬だな、風魔法スピードを上げているのか。
当然一緒に乗車しているのはSSランクの五人。あの五人が魔法で馬車を加速させている。くそう、魔法があれば森を抜けられるとはいえ自分だけ楽しやがって。
「お前ら! さっさと集まれ!」
その後、食料班や遅れてやって来た班を待ち、全員で昼食となった。
いくら食料班がいるとはいえ、この量の食料を消費するのは痛い。目的地に到着する前に、食料が底を尽きてしまう。
途中に街でもあれば良いのだが、当然魔族の街、人間が入ることはできないし、拒否される。
食事を終え、さらに先へ進む。
歩く、歩く、ひたすらに歩き続ける。馬車に乗り、優雅に移動するリビアルを睨みながら、歩く。
ああ、飛びたい。飛んで移動したい。
「空が飛べたらいいのにね」
「なんで考えてることわかるんだよ」
琴浦さんかよ。
『まだつかねぇのか?』
『まあ数日は移動だろうな、魔大陸は広い、お前も知ってるだろ』
『まあな、俺は寝る、起こすなよ』
起こさないし、というか寝れることに驚きだ。
シロに実態はあるのだろうか。思考だけなのに寝れるのか。
そんなことを考えていると、目の前に魔物が現れた。
森のゴブリンとは違う、角の生えたウサギだ。目が赤く光っているため、魔獣ではない。
あの角に突かれたら即死、避けながら戦わなくては。
「速いぞ、避けろ!」
「くっ」
動くスピードが速いため、井ノ原のポイズングレネードが当たらない。
だが、一度走ると止まるのに数秒だが時間がかかるようだ。滑るように止まり、再び突進してくる。
なら。
「藤沢! ウサギの進行方向に斬撃を置け!」
「! うん!」
藤沢が剣で空間を斬り、横に飛ぶ。
そしてその斬られた空間に角ウサギが飛び込み、ザクンザクンと身体に切傷が入る。
「キイィィィ」
「そらぁ!」
怯んだ角ウサギの身体に、剣を突き刺す。ビクンと一瞬動いたと思うと、ぐったりと力なく倒れた。
よし、倒した。面倒だな、逃げるのを優先にしようか。
「お疲れ」
「おう。……追いつかれる、行こう」
後ろを確認すると、見える場所に他の班が走っているのが見えた。
動きにくい森とは違い、ここは動きやすく開けた草原。わざわざ離れる必要も無いため、固まって移動している。
固まってとは言っても、それぞれのペースでだ。一番早いのはリビアル。まあ草原に馬車なんだから当然か。
見る限り、俺たちはペースが早い方らしい。
「リビアルさんはひたすら真っ直ぐって言ってたよね?」
「北へ真っ直ぐだ。北は、えーっと、太陽が登る方だな」
「今沈んでるよ?」
「ならその逆だ、この方向で合ってるよ」
世界によって太陽の登る方角が違うので、あんまり俺は宛にしていなかった。
まあこの世界に留まれたのだから、この世界の知識は使うべきだな。北から登って南に沈む。忘れてない、大丈夫。
西日ではなく南日だ。これも覚えてる。そんな言葉はない。俺がイカを倒したときに作った。
「なんだろ、これ以上疲れないって感じがするし」
「魔力が体力を補助してくれるからな、疲れは消えないが、走れなくなることはないだろ」
でも、こんなに喋ったら嫌でも疲れる。淡々と走ろう。
「ん? あれは、ザン!」
「ほんとだ、よし」
俺はスピードを上げ、前に走っていたザンたちに追いつく。
「あ、ユウトだぜ」
「遅かったな、もっと早く追いつくと思ってたぞ」
「女が多いから仕方ないだろ。それよりイアは?」
「一人で飛んでいっちまったよ、なんでも、魔族の街に寄るとかなんとか」
そういや飛行魔法上達してましたね……でもまだ他の人を飛行させることはできないみたいだけど。
「まああいつくらいの強さなら大丈夫か、見た目もある意味魔族だし」
マールボロの生んだ魔族、露出狂のイア。幼い見た目に反して魔法は人類最強。俺を含まなければ。
「ユウトー!」
「神裂くん足速いなぁ」
「あ、もう仲間が来たみたいだ」
ミントや相良が追いついてきた、先生達はまだ後ろにいる。
「へぇ、ユウトが俺たち以外を仲間扱いするのか、珍しいな」
うるせぇぞダン。
しかし、乗り物がないと先が思いやられるな。
リビアルにお願いして自由行動にしようか。
「ザンさん!? 何故ここに?」
「久しぶりだぜ! サガラ……だぜ?」
「は、はい!」
いや答えろよ、なんでここにいるのか聞かれてるだろ。
「ソウル、レッドたちはどうした」
「やっと話しかけたな。あの三人はイアさんと一緒に行くー! って言って追いかけて行ったよ、元気だよなぁ」
「そりゃ俺の剣を持てるようになる天才だからな」
正直才能の塊なので危険な目に合わせるのは嫌なのだが、戦力を上げるため、経験を積ませるため、連れてきている。
本来なら、小麦村に帰していたところだ。
「……リビアルだ。何してるんだあんな所で」
走っていると、大きな湖が見えた。
その畔にリビアル率いるSSランクたちが立っているのが見えた。
立ち止まり、端にいた笹谷に話しかける。
「どうした、笹谷」
「神裂くんか、早いな。皆を離して進んでしまったから、ここで一旦休憩をしていた所なんだ」
「そうか、ちょっとリビアルと話してくるから、仲間を止めててくれ」
「あ、ああ」
笹屋にそう言い、馬車に座って草原を観察するリビアルに近づく。
「リビアル」
「呼び捨てとは、随分肝が据わっているではないか。カンザキユウト」
フルネーム、ね。
「……ここから数日、移動だけだろ。どうせ班で行動するんだ、集合場所をデビルホーンの塔付近にしないか?」
「お前達だけで、魔大陸で野宿ができるというのか?」
普通はできないな。それこそ、大勢で固まって簡易拠点のようにするしかない。
だが、この男は戦闘能力がないにもかかわらず、どこか鋭い。王族の生まれ持ってのカリスマというものだろうか。
「薄々気づいてんだろ? お前」
「まぁな……英雄ユウトが何故ここにいる」
やはり気づいていたか。まあ、怪しい行動が多かったから、仕方ないものは仕方ないのだが。
「さあな、とにかく、別行動がしたい、許可を出してくれ」
「断ったら?」
「勝手に離れるし、多少お前達を守ろうという気持ちも捨てる」
本当に、少しだけそんな気持ちも持っていた。
王族が死ぬと、めんどくさい事になる。
「それは困るな、そうか……天下の大英雄が、メビウスの味方か。……よし、今回だけ特別に許可してやろう、ただし、食料はお前達で何とかするんだな。一つ聞こう、食料問題を軽々解決するお前を信じて仲間がついてくるとでも思っているのか?」
味方ね。どちらかと言われたら、味方なのかもしれない。でも、敵ではないとは言えない。
「思ってるさ、俺が英雄だとバレたところで、あいつらはついてきてくれる」
「馬鹿馬鹿しい、皆お前の強さに恐怖して離れていくに決まっている」
うるせぇよ。お前は仲間がいないからそう思うだけだ。
少し遠くに見え始めた他の班を横目に、リビアルに背を向けて、遠くで見守る仲間の元に向かった。




