10個の結晶
「な、なんだこの光は!!」
青い光が収まり、辺りを見回せるようになった。
転移先は酒場。
人の目なんてお構い無しだ。
当然のように注目の的だがな。
「ゆ、ユウト!? 今何も無いところから……っていうか図書室の時のあれは何なんだよ!? っていうかミントちゃんはどうした!? って言いたいことが多すぎるだろぉ!?」
丁度目の前にいたソウルが手を前に出してわちゃわちゃしながら言った。
何が言いたいのかさっぱり分からん。
「落ち着けよ、何一人でキレてんだ」
「そりゃ戸惑いもするわ!」
「ケイトさん、今日から泊まっていい?」
「へぇ、賑やかになりそうだね。もちろんいいよ」
「無視なの!?」
無視だよ。
今日はなんていうか精神的に疲れからな、部屋でゆっくりしたい。
「詳しいことは明日の朝話すから。ケイトさん、部屋どこ?」
「二階に上がってすぐの……部屋番号の方が早いか。そうだね……『03』がお前の部屋だよ」
「どうも」
03か、三つ巴の笑劇場かな?
リアルな演技しそう。
階段を上って二階に上がり、廊下を歩いた先にあるドアに取り付けられた板に『03』と書かれた部屋を見つけた。
この部屋だ。
俺はこの先しばらくの間お世話になるであろう部屋に入った。
「酒場にしては整ってるな……」
見たところ酒場よりも宿泊施設の方に力が入っているように見える。
元々宿屋として建てたのではないだろうか。
この部屋もミントの家と同じ光魔石の照明だ、昔は魔石の照明なんて貴族くらいしか使ってなかったのにな。
時代は変わるもんだ。
とりあえず今後の方針を決めなければならない。
そう思い、袋から魂結晶を取り出し、テーブルに並べる。
計10個、小麦村で結晶化させた魔物だ。
「声、聞こえてるだろ。喋れよ」
『……魔王様を倒した大英雄と聞いた、それは本当か?』
すると、他の魂結晶とはひと回り大きい結晶から篭ったような声が聞こえてくる。
あんなに一方的にやられたのに俺が本物かどうか疑っているのか。
まあ、あの頃と比べたらこの強さは明らかにおかしいからな、気持ちもわかる。
「本当だ、どうせあれだろ? 自分が知っているユウトと違うって言いたいんだろ」
『む……まあそうだな、俺たち魔族が知らされている英雄ユウトとは魔法も、戦い方も違う』
戦い方ねぇ……あんなの、戦い方とは言わないと思うが。
そもそも、戦い方ってのを忘れてるのかもしれない。
あれは戦いなどではなく、作業なのだから。
「あのさぁ……こっちだって800年の間、寝てたわけじゃないんだ。英雄が復活したって思ってるかもしれないけどな? 実際は英雄が帰ってきた、なんだよ」
『帰って……きた? それに、あの女に言った言葉はどういう意味だ?』
あの女……ミントの事か。
ミントに言った言葉、ゆっくり過ごしたい、剣を抜きたくない、頭痛のない体で楽しみたい。
はたから聞いたら意味わからんだろうな。
「あんま詮索はされたくないんだけどな……800年間いろんな世界に行って魔王を倒していた、ってだけだ」
『……我々をどうするつもりだ』
『そうだ! 殺すんなら殺しやがれ!』
小さい方の魂結晶からヤジが飛んでくる。
野党、黙って。
「情報をね、聞き出そうと思ってんだ」
『情報……魔王様についてか』
「それもあるけどな、まず第一は……なんで小麦村を襲ったのかを知りたいんだよ」
これは本心だ。
ザンから小麦村が襲われていると聞いた時、まず最初に目的を考えた。
あの村を襲う理由はないはずだ、あの村を襲うくらいならアイコスの街を襲った方がいい。
小麦村を襲った理由が食料だとしたら、米を作っている場所を襲えばいいからだ。
『それは二日前の事だ』
回想に入るやつか。
『俺は魔王様の部屋の前を偶然通りかかったんだ』
「話す感じか」
『む、どうした』
「続けて」
『扉の奥から声が聞こえてきた、俺はとっさに扉にへばりついた』
なんでだ。
『そして、小麦村という言葉を聞き取ることに成功したんだ』
「そんで?」
『俺は部隊を組んで小麦村を襲った』
なんでだ。
「タイム、魔王が小麦村について話していたことは後で聞くとして、なんでそれだけの理由で襲った」
『魔王様が小麦村を襲おうとしてるのだと思ってな』
「なんで決めつけたんだよ! てか行動が早いな! 二日前かよ!」
『ふむ、確かに動くには情報が少なすぎたかもしれん』
被害が少なかったからよかったものを、これが収穫前ならこいつの命はなかったぞ……
俺ってもしかしてめっちゃ優しい?
「はぁ、じゃあ、魔王が命令したわけじゃないんだな」
『そうだ』
「はぁ……次の質問だ。お前は魔王についてどのくらい知っている」
『魔王様はあまり俺たちの前には現れない。しかし、強いのは確かだ』
強いのか、まあ魔王だからな。
前の魔王は確かに強かった、俺が認める。
お互いが認めあって、悔いのない死に方をしたのだから。
「あんまり知らないってことでいいか?」
『ま、まあそうだな』
ダメだ、そこまで情報を得られなさそうだ。
くそう、思考を読める魔法とか超能力を手に入れとくべきだった。
そんなものなかったけど。
「次は——」
俺は魔王について、魔族について、魔大陸について。
様々な情報を聞き出した。
まず魔王軍、そこまで数は多くないらしい。
少数精鋭というやつだろう。
聞けばこいつらは一番下の部隊。
これが一番下ってことはザンじゃ魔王どころか幹部も倒せないな。
次に魔族について。
人間を敵と認識している魔族は多い。
ここまでは想定内だ。
だが、人間に対して好意的な魔族は少なくない。
魔族と人間が一緒に住んでいる街があるそうだ。
その街がある場所は南魔大陸と言われ、大陸から突き出た半島に街があるとのことだ。
最後に、魔大陸について。
この大陸は世界中のどの大陸よりも大きい大陸だ。
この悪魔でも全ての場所を知っている訳では無いらしい。
大陸の大きさから、アンデッドのスケルトンの間では『魔大陸の移動には疲れないスケルトンでも骨が折れます』のギャグが流行っているとのことだ。
すごくどうでもいい。
「情報は聞き出したし、お前らはもう用済みだな」
『覚悟はできて……なんで袋に入れる』
「魔大陸に行った時に帰してやるよ。あと、魔袋の中を見て欲しいからってことで」
『……魔袋?』
俺は間髪入れずに魂結晶を魔袋にぶち込む。
過去に聞いた話だが、魔袋の中に入れられた魂結晶は大きな広場に送られるらしい。
その広場には今まで魂結晶にされた者達が集まり、コミュニケーションができる、と聞いた。
意外と楽しそうだな。
魂結晶にできる条件は自分よりも圧倒的に弱い者だが、これは弱らせた場合にも有効だ。
つまり、魔王級に強い魔族たちがこの袋に詰まっているということだ。
弱らせて捕まえて持ち運ぶ……ポケ○ンかよ。
明日、ソウルやザンにも説明しなければならない。
ついでに資金の調達、これは魔袋から宝石でも取り出して売ればどうにでもなる。
あとは冒険者登録だ。
俺という存在をこの国に知らせなければならない。
ちまちま冒険者ランクを上げるのはめんどくさいので直接殴り込む予定だ。
明日は忙しくなりそうだ。
* * *
犬も猫も小鳥も鈴も寝静まった深夜、俺は転移してきたばかりの頃を思い出していた。
私は寝てない。
異世界に転移したにも関わらずチート無双はできないし、女の子にモテモテになったりもしなかった。
異世界転生の特典は、他の人よりも成長スピードが少し早い、それだけだった。
剣の心得も、魔法の使い方も知らなかった俺はひたすらに修行した。
唯一の力、成長のおかげで数年で剣と魔法をある程度使えるようになり、ついに俺は旅に出た。
旅の仲間として、アロンダイトの使い手兼ソウルの祖先である剣士ゼーレ。
ガラディンの使い手である騎士アルテ。
デュランダルの使い手であるマフォ。
この四人で旅をすることになった。
俺とゼーレ、アルテの三人は三騎士と呼ばれていた。
マフォは唯一の魔法使いだった。
俺も魔法は使えたがマフォには追いつけなかった。
マフォの使っているデュランダルだが、伝説上では剣だったはずだ。
何故か杖になっていた、謎だ。
アロンダイトとガラディンは剣だったのに。
ゼーレはソウルによく似ていた、アホだし弱かったし、事件に巻き込まれたりもした。
アルテとマフォは女性だが、十分戦闘能力はあった。
少なくともゼーレよりは強い。
アルテは騎士と言われるだけあり、剣の達人だった。
俺もよく教えてもらったものだ。
大陸を渡り歩き、遂に魔大陸にある魔王城に入った俺たちは魔王の幹部を倒しながら最深部に進んで行った。
そして、魔王との一騎討ちに見事勝利し目的を果たしたのだ。
ちょうど俺が30歳のおっさんになった年だった。
今思い出せるのはこのくらいだ。
何せ800年も前のことだ、よく覚えている方だと思う。
俺が守ったこの世界が、今どうなっているのか知りたい。
前回成し遂げられなかった世界平和を実現させたい。
そして、毎日だらけた生活を送るんだ。
朝起きたら、ソウルを弄ろう。
……起きれるのか?
今回から一話ごとの文字数が少なくなりました。
今後ともよろしくお願いします。




