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魂の覚醒

 魔王との会話は、俺の年齢の話題ににシフトしていた。


「随分と若くなってるよね。人間?」

「人間……だと思う。あ、でも、種族的には人間だけど、人間を超えた自信はあるぞ」


 石仮面なんか使わなくても人間を超えることはできるのだ。ちなみに今まで食ったパンの枚数は覚えていない。


「てか、よく気づいたな、俺だって」

「若返っても、顔立ちは同じだからね。ボクの記憶力をなめないでよ」


 確かに、記憶力はすごい。だがな、俺だって一発で魔王だと気づいたんだ。言い返すくらいしてもいいはずだ。


「それなら、俺だってお前の声を覚えてたぞ」

「ボ、ボクだって覚えてたよ!?」

「はいはい」

「むむむ」


 何それ、ネットショップサイトのCMに出てきそう。カードのメガネ付けてそう。


 もうそろそろ帰らないとな、もし相良が起きてたら怪しまれてしまう可能性がある。起きてたらトイレにでも行ってたと言って誤魔化すか。


「じゃあ俺帰るから、また後でな」

「え……そっか、残念。それじゃあ次は三日後だね、ユート」

「だな、次に会う時は大魔王を攻める直前のはずだ。……メビウスの軍に攻撃されても、やり返さないでくれよ?」

「お姉さんに任せなさい!」


 見た目はお姉さんじゃないけどなと思いつつふっと笑い、テラスに移動する。そして、飛行魔法で城の外に出た。

 魔族の村にすぐ転移できるようにしておこう。確か、魔王城に来るまでの間、見えたはずだ。


 高速で飛行していると、その村が見えてきた。

 近づいてみると、かなり大きい村のようだ。村というよりかは、街という方がしっくりくる。


 入口付近に降り、俺はメビウス城に転移した。


* * *


 こそこそ部屋に戻り就寝した俺は、次の日ミントに叩き起され、訓練を受け、昼休憩に入っている。


「ミント、ソウルのことで話があるんだが」

「あ、もしかして……アレ?」

「そうだ、来てくれるよな」

「もちろん、とりあえず外に出て転移しよ」

「ああ」


 前に話した事だからか、ミントはすぐに気づいてくれた。

 ソウルについて、このタイミングで言うということはそういうことなのである。


 外に移動し、マールボロの拠点に転移した俺たちは、指揮長であるシガルドに会い、みんなが何処に行ったのかを確認する。


「お久しぶりです、ユウトさん。今日は皆さん魔大陸の——」


 当然場所は魔大陸。しかし、今回の探索は昼前に出発したらしく、いつもより遅いという。

 その後、もうすぐ休憩所に着くだろうということを教えてもらった。


 俺たちは早速休憩所に転移し、待つ。

 ミントには休憩所に居てもらって、俺は隠蔽魔法で姿を眩ませている。

 すると、ザンが扉を開け、中に入ってきた。


「あれ、ミントだけだぜ。ユウトはどうしたんだぜ?」

「実は——」


 ミントはソウル以外の全員にソウル覚醒計画を説明した。


「ミントちゃんじゃん、ユウトは? あれから全然来ないし、魔大陸にもいないし、何してんの?」


 遅れてやってきたソウルは、俺が数日魔大陸にも拠点にも来ていなかったことに怒っているらしい。

 忙しいんだ、許してくれ。


「ユウトなら別の小屋で休んでるよ、呼んできてくれないかな」

「別の小屋? よーし、説教してやる」


 意気込みだけはあるが、ソウルは説教ができるような性格ではないので、仮に俺を見つけたとしても説教なんてしていないだろう。

 ソウルはドスドスと部屋を出ていって、いないはずの俺を探しに行った。


「行ったか」

「そこにいたんですか」

「まあな、早速だけど、みんなこれ腕とか首元とかにつけて」


 俺は魔袋からビンに詰められた赤い液体を取り出した。


「え……それもしかして、血ですか?」


 ブルーがビンを見ながら言った。


「いやトマトソース」

「トマトソースかよ」


 レッドがツッコミするんかい。

 それより早くしないと帰ってくるぞ、今日は休憩所に人がいなくてよかった。もし居たら外でやることになってしまう。


「よしいいぞ、みんなぐったり倒れててくれ。ミントは扉を開けてソウルに助けを求めるんだ、そしたら俺がミントを部屋の中に引き戻す。引き戻されたらみんなみたいに倒れてくれ」

「わかった」


 部屋では全員が死体の演技をしている。ザンもダンもイアもみんなだ。

 特にイアは露出が多いので腹に斬られた傷っぽくトマトソースを付けている。


「すぅ……きゃああああああ!!!」


 ミントが叫びながら扉を開ける。素晴らしい演技だ。


「ソウル! 助けて! ユウトが!」

「ミ、ミントちゃん!? どうしたの!?」

「逃げるな!」


 ミントの服を掴み、部屋に引き戻す。

 完全に部屋に入りきったミントは急いでトマトソースを床にぶちまけ、その場に倒れ込んだ。

 冒険者殺人事件、完成だ。


「みんな! ……な、なんだよこれ……ユウト、お前がやったのかよ?」


 額に汗をかきながら、ソウルが部屋に入ってきた。


「ああそうだ、邪魔だったんでな」

「本気、かよ。こんな、こんなこと!」

「俺が憎いか? 殺したいだろ? でもお前には出来ないよなぁ。だって『弱い』んだから!」

「……ッ!」


 ソウルの瞳の色が変わる。宝石のような透き通った紫色から、底の見えない濃い紫色へ。


「外に出ろよ、お前も殺してやる」

「……」


 ソウルの横を通り過ぎ、森の開けた場所へ向かう。

 後からついてきたソウルはその場所に着くと、俺と距離を置いて立ち止まった。

 やる気(殺気)満々じゃないか。だが、そうじゃないとこいつは覚醒できないのだ。これくらいが丁度いい。


「……ユウトォォォッ!」

「ふっ!」


 目をひん剥いてソウルが突撃してくる。

 キィンキィンと紫色の剣と鉄の剣がぶつかり合い、火花を散らす。


「僕を倒すのに、ノワールの能力を使うまでもないっていうのかよ!」

「そうさ! 覚醒していないお前に、能力を使うなんて勿体無いからなぁ!」


 ソウルのスピードが上がる。

 まだだ、まだ遅い。そんなスピードじゃ、グリーンにすぐ追いつかれるぞ。


「なんで、なんでみんなを殺したんだ!」

「邪魔だからって言っただろうが、大魔王を倒すなんてなぁ、俺一人で十分なんだよ!」


 本当はそんなこと思っていない。仮に一人で倒せたとしても、その先に平和は無い。


「ユウトはっ! そんなやつじゃなかっただろ!」


 そんなやつ、ね。

 ソウルとは、結構一緒にいたな。初めて会った時、冒険者として、各大陸を回った時。そして、剣の稽古の時。


「お前が知らないだけだ、俺は元々こんなやつなんだよ」

「くそ……くそおおおお!!」


 がむしゃらに剣を振ったところで、俺には当たらな……


「っと、あぶね」


 剣先が服に当たり、少し破けてしまった。

 今、剣が思った方向と違う場所に来たぞ。あれは、なんだ。


「はぁ……はぁ……」


 覚醒、し始めているのだろうか。

 そのまま、一気に覚醒しろ。そうすれば、力を手に入れることができる。弱いと思っていても、稽古を続けた経験が、帰ってくる。


「殺す……殺す……!」

「いい殺気だ、こい!」


 右か? 左か? どちらだ、全く見当がつかない。これが覚醒したソウルの特技なのか?


「うっ、らぁ!」

「下!? くっ」


 あの腕の動きで、下から斬りあげてくるなんて、誰が予想できるだろうか。

 剣を避けること優先にしたため、よろめいてしまった。


「今だ!」

「ノワール!」


 俺はノワールに魔力を注ぐ。ノワールは黒く染まり、刀身も長くなる。

 そしてその長くなったノワールで、ソウルの剣を止めた。


「使っ……た?」

「俺としたことが、稽古しすぎちまったのかもしれねぇなっ!」

「なっ!?」


 ノワールをソウルに向けて飛ばす。少しずらしたので、体に当たることはない。

 ソウルの後にあった木に、ノワールが刺さる。

 さあ無防備だぜ、かかってこいよ。


「チッ」

「死ねぇ!」


 ヒュンヒュンと剣が出しているとは思えない音で、ソウルが迫ってくる。

 何回か避けた後に、避けながらノワールを回収してガードを続ける。


「殺せる、コロセル!」

「来たか」


 覚醒の時が。

 自分が強くなったことに気づいたソウルは、本気で俺を殺しに来ている。

 悲しいことに、アロンダイト家は味方を本気で殺そうとした時に覚醒する。


 ソウルの髪が魔力によって起きた風で逆立つ。

 覚醒完了だ、あとは、こいつをどう抑えるかだな。


「ミンナの……カタキ!」


 速いっ!? この速さで動きが読めないとなると、剣だけじゃ倒せないぞ。

 だから、悪いが魔法を使わせてもらう。


「お疲れ様」


 斬りかかってきたソウルの剣が当たるギリギリのところで、転移魔法を使う。

 そして、後からスタンガンのように電気を流し、気絶させる。

 バタッと倒れるソウル。これで終わったか。


 あと二日、あと二日で、ソウルにはこの強さに慣れてもらわないとな。

 ソウルを覚醒させた俺は、気絶させたソウルを転移魔法で休憩所に運び、みんなの体についたトマトソースを水魔法で落とす作業に入ったのだった。

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