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ボクっ娘魔王様

 その日の訓練を終えた俺は、全員が寝静まったのを確認し、記憶にある魔王城の場所へ向かう。

 ちなみにだが、部屋は元Aランクの使っていた部屋に変わった。部屋が変わった当日は、皆ふかふかの布団に感動していたのをよく覚えている。

 それに、男女別の部屋になったのはとてもありがたい。Sランクの待遇素晴らしい。


「いってきまー……す」


 こりゃ明日は寝不足だな。ぐっすり眠っている相良を部屋に残し、城の外に出る。

 辺りはすっかり暗く、星も月も輝いている。

 魔王城は、南魔大陸からの方が近いな、そっちから出発しようか。

 茂みに入り、転移魔法を使う。


 南魔大陸の空中に転移し、そこから魔王城のある方角へひたすら飛ぶ。

 風を切り、先へ、先へ。山や魔族の村が見える。あそこには今度行こう。話をしてみたいし。


「ユート? 本物?」

「ユウトだ。って、迎え来たの? というか飛べたのか」


 魔王城へ向かう途中で、黒い影が並んで飛んできた。大昔聞いた声が聞こえ、速度を緩める。

 到着前に魔王自ら迎えに来るとは思わなかった。てか全身が黒いモヤで包まれてて魔王本人なのかわからん。

 簡単に説明すると、翼の生えた赤い目の黒い塊だ。


「こっちのセリフだよ、あとボクに会いに来るの、遅いよ!」

「色々あったんだよ……お、あれだな」

「うん、テラスから入ってね」

「了解っと」


 真っ黒な城が突然姿を現した。この城は近づかないと視認できない魔法がかかっている。魔法というより、呪いに近いか。解くことができないのだから。

 テラスから城に入り、魔王の間に降りる。


「久しぶりだね、ユート」

「ユウトだ。ユ、ウ、ト」

「ユート」

「もうそれでいいよ……」


 城内に入った魔王は、自分の周りにまとわりついていた黒いモヤを払い、翼を消して、禍々しい椅子に座った。

 翼は魔力の塊のようで、背中には穴すら開いていない。白ユウトの翼とは随分と違う構造だ。

 黒いモヤは飛ぶ時に目立たないようにするためか。黒い服来てるから俺はいらないよな。というか魔王さんは肌の露出を減らせばいいのでは。

 そして何百年ぶりだというのに名前をはっきり言ってくれない。この子絶対に俺の名前を伸ばす。


 魔王の見た目は少女のまま、人間でいったら中学生くらいの身長だろうか。百五十センチあるかないかくらいだな。肩の辺りではねている黒髪の間から、二本の角が生えている。

 そこは魔王っぽい。

 それにしてもこいつ、喋り方といい一人称といい……


「……女だよな?」

「何を言ってるのかな、この胸が見えないの ? ボクが男に見えるの?」


 魔王は決して小さいとは言えない胸を張ってムスッとした顔をした。

 やめなさい、女の子なんでしょ、はしたないわよ。


「いや、一応な」

「ふーん」


 ボクっ娘で魔王ってのは、なんというか、合わないな。雰囲気が出ない。

 黙っていれば貫禄はありそうだが。


「手下から聞いたよ、ユート、今も気持ちは変わっていないよね?」

「もちろんだ。俺はあの日から、お前の父親を倒した日から平和を、平穏を求めている。魔族も人間も、みんなが笑える世界を」

「それはよかった、ボクも変わってないよ」


 よかった。よし、まず手を組むことはできそうだな。あとは状況確認と、情報交換だ。


 その前に。


「扉の後で聞き耳立ててる悪魔さんたちはどうする?」

「え!? ちょっ……地下で訓練しててよ!! 今ボク大事な話してるんだからさ!」


 驚いた魔王は大扉の前まで飛び、勢いよく扉を開けた。すぐ後ろで音を拾おうとしていた悪魔たちは、突然開いた扉に弾き飛ばされた。


「ご、ごめんなさいいい!」

「ほらほら、行った行った」


 シッシッと手で離れるように指示を出す。それは指示なのか。

 俺の顔を見た悪魔は小さく悲鳴を上げてから階段を駆け下りた。骨折ったのは謝るから怖がらないでくれ。


「ふぅ、話に戻ろうか、何から話す?」

「おう、まずは状況確認からだ。大魔王の事なんだが、知ってるよな?」

「もちろん知ってるよ、あいつ……ボクを平和ボケした魔王とか言ったんだよ!?」

「あー言ってたなそういや」


 てか人間は平和ボケしたゴミ共って言われてたぞ。大魔王平和ボケ大好きかよ。いや嫌いだから潰そうとしてるんだろ。何考えてんだ俺。


「って、それはどうでもいいんだよ」

「よくないよ!」


 そんなに屈辱でしたか。魔王様。


「……大魔王の居場所はわかるか?」

「居場所? それならほぼ分かってると言ってもいいよ。十中八九『デビルホーンの塔』だろうね」

「デビルホーン……あれ、あそこ塔になったのか?」

「うん、角を守るためにね」


 デビルホーン、別名『魔大陸の大角』

 巨大な魔力の結晶が角のようにそそり立っている事から、そう呼ばれるようになった。


「なんで、そこにいると?」

「定期的に手下を塔に行かせてたんだけど、ある日帰ってこなくなって、大魔王があの知らせをした後に別の手下を調査に向かわせたんだけど、その手下も……」


 帰ってこなかった、と。

 それが本当なら間違いなくデビルホーンにいるな。どうにかしてリビアルにそれを知らせられないだろうか。


「なるほど、確かに有り得るな。実はな、三日後、日があと二回落ちた次の朝だな。その日、俺がいる大魔王討伐隊が大魔王を探し出し、討伐することを目標に出発する」

「大魔王を……つまり?」

「ああ、手を貸してほしい」

「だよね、うん。ボクの魔王軍は飛べるから『デビルホーンの塔』まではすぐにつくよ。そうだね、じゃあ合流するまでその周辺を制圧するってのはどうお?」


 悪魔の軍だもんな。みんな翼あるか。

 現地で合流するから、転移魔法は使わなくてもいいってことか。流石に朝から転移祭りはきついからありがたい。


「そりゃありがたい、頼む」

「まっかせて!」


 俺と魔王は、お互いに情報を交換した。

 850年、魔大陸で何が起こったのかを聞き、850年、俺が何を体験したのかを話した。

 この850年で、魔族の気持ちは大きく変わり、人間を恨んでいる魔族は少なくなっているらしい。嬉しい情報だ。

 その後も、長く長く語り合った。

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