英雄雄人
強い光が瞬き、目を薄くした瞬間。白ユウトは中腰になりながら地面を蹴った。
一歩遅れて自分も動き出す。白の剣と黒の剣が鍔迫り合い、ギシギシと金属らしからぬ音を立てる。
魔力を感知した、後ろだ。
魔力の大きさや属性から魔力弾と判断した俺は小さなマジックシールドを作る。
魔力弾がピンポイントにシールドに当たった。
「ほお、よく見たな。これならどうだ!」
一気に魔力弾の数が増える。
飛んでくる方向、大きさ、それを瞬時に見極めてマジックシールドで相殺した。
無数の魔力弾を的確に処理しながら、こちらも魔法で応戦する。
使う魔法は氷、白ユウトの使う魔力弾よりも攻撃力は高い。それを同じように無数に、相手に向けて撃つ。
「くっ!」
宙に浮く氷柱を見た白ユウトは、一旦後に飛び、身体にあたる氷柱のみを剣で弾いた。
そして、物凄い速さで横に動き、氷柱を避けながら俺に近づいてくる。
「チッ……」
速い、俺もかなりの速さを出せると思っていたのだが、飛行魔法なしでこの速さを出せるとは。
もしや、初対面の時のあれは飛行魔法ではなく足で地面を蹴って間合いを詰めたのではないだろうか。
しかし、飛行魔法を使えないとは思えない。試してみるか……
横に剣を振った白ユウトに対して、俺は上にジャンプし、そのまま飛行魔法を使用した。
ふわりと風が身体を包む。
「上だ」
「空中戦って事かよ」
「飛べるだろ、お互いまだまだ隠し芸だらけなんだ、見せ合おうじゃねぇか」
剣が届かないように下がりつつ、相手が飛ぶのを待つ。
「なんだよ、お前の方が、まだ人間やってるじゃんか」
白ユウトは、俯き、前髪の半分を後にかきあげた。
すると、身体の周り、特に背中に大量の魔力を感じた。何をするつもりだ?
まだ人間やってる……?
「いくぜ……ぐ、がッ……うおおおおォ!!」
メキメキっと、背中が変形する。
服の隙間には、二本の細長い隙間があり、そこから、黒い何かが、バサッと飛び出す。
あれはまさか……翼? 羽根ではない、魔物の、悪魔の翼だ。
「おいおいおいおい! なんだよそれはっ!」
「言ったろ、お前の方が人間してるって。俺は魔力の半分が魔族の魔力なんだからな、あの時の発言でお前も魔族の魔力が流れてると思ってたんだが……髪が白くなってないのも、精霊の加護も無くなってないのもそれか」
よく見ると、白ユウトの瞳が白く、眼球が黒く、反転していた。
傍から見れば完全に魔族。それも、高位の魔族の見た目に変わっている。
「魔族に魂を売ったのか……?」
「違うね、これは人間じゃ辿り着けない強さを求めた結果さ。さ、続きをやろう」
ゴウッという風の音。
先程まで地面に立っていた白ユウトが、今、剣を構えて目の前にいる。
「!?」
「危ない!」
アイアスの盾が俺と白ユウトの間に入り、エクスカリバーの斬撃を防いだ。
あまりにも楽しそうに言うものだから、少し、油断してしまった。少しの油断が命取り、相手が自分でも、それは変わらない。
「惜しい、あと少しで楽になれたのに」
「お前が強さを求めてる姿が輝いてたからさ、俺も強さを求めたくなったよ。俺は自分を倒して、また強くなる」
「俺を倒したら強くなれるのか、そりゃ楽でいいなアッ!」
白ユウトが空間から槍を取り出し、俺に向けて投擲した。
咄嗟に剣で弾くも、槍の先が頬をかすってしまった。じんと頬が痛む。
これは……
「収納魔法……!」
「正解だ、最初の世界が同じだから簡単にバレちまうな」
収納魔法、最初の世界で使われていた魔法。物を魔法の中に入れ、持ち運ぶことが出来る。
だが、本来の収納魔法は中に入れられる数も大きさも少ない。こいつは収納魔法を長く使用したことと、魔族の莫大な魔力によって魔法が強化され、収納数が増えたかもしれない。
だとしたら、物の持ち運びは基本収納魔法を使っていたはずだ。と、いうことは……
「アイアス! 別の武器にも気をつけろ!」
「了解!」
「まだまだァ!」
白ユウトは左手にエクスカリバーを持ち、右手に収納魔法から取り出した銀色の剣を持った。
今も降り止まない魔力弾、それに混じって風の刃も飛んできている。
このままでは魔力が切れてしまう可能性がある。魔族の湧き出るような魔力生成力には到底追いつけないので、ジリ貧になって負けてしまう。
ここは、一旦引こう。
そう思い白ユウトから十メートルほど距離を置いた。
「逃げんのか?」
「……スピード、ガード、アタック、アイスハート、エレキハート、痛覚停止、魔力解放……」
「なにを……」
使える限りのバフをかける。素早さ、防御力、攻撃力、身体に流れる魔力を氷、雷に固定する魔法、痛覚停止魔法。
使うと周りの人間が魔力中毒になってしまうので使っていなかった魔力解放。これは身体にある魔力を一気に使えるようにする魔法。使うと魔力が垂れ流しになってしまうため、耐性のない一般人は一瞬で気絶、最悪の場合死に至ることもあった。
持続時間は十分間、それまでに決められなかったら終わりだ。
そして俺は、ノワールを地面に落とした。
「手元ががら空きだぜ!」
ノワールを下に落としたことにより、白ユウトはがら空きの身体を狙って剣を振り下ろした。
「はあああ!」
俺はその剣に対してマジックシールドを二重に張った腕でガードした。
ゴッ、とエクスカリバーが腕の骨にあたる。
痛みはない、が、血がぽたぽたと滴っている。
「なにッ!?」
「本気でこいよ、全力でお前の全力を倒してみせる……我は多くの命を奪い、多くの命を救う者。されど我が心が澄む日は遠く、未だ黒く染まりし心を剣に投影する……黒く染めろ、ノワール!」
俺が言葉を発した瞬間に地面に落ちたノワールが闇に吸い込まれる。
同時に、遠くに見えていた夕焼けが、完全に消える。光は、月明かりのみになった。
そして、ノワールの能力により、さらに暗く、黒く、昏くなる。
「ユウトさんよぉ、奥の手を出すには早いんじゃねぇのか?」
「いいさ、さっさと決着をつけよう」
今俺だけで出来る全てを使った。850年間の旅で手に入れ、強化された魔法たちは、そう簡単には敗れない。
これで倒せなかったら、それまでだと、影に堕ちた地面から、剣を飛ばし、キャッチする。
全力を出し切った英雄と英雄の戦いになるだろう。これが、最期の全力だ。




