結合する世界
数分後、鏡から出てきたミントの周りには、エメラルドグリーンのオーラが漂っていた。
光が収まると、ミントは息を吐き出し、まっすぐ俺を見て無言で頷いた。
俺もミントの顔を見つめて頷き、鏡に触れる。
指のみ鏡の向こうにいる感覚。全く別の世界のように、空気も気温も違っていた。
勢いよく鏡に飛び込む。完全に中に入りきった俺は、ゆっくりと目を開けた。
「……骨?」
地面を見ると、骨が転がっていた。
よく見ると、細かく砕けた骨が土のように所狭しと詰まっている。
地面が、全て骨で出来ている。
「もう一人の俺は、どこだ?」
周りを観察する。敵は見当たらない。チャンスと、俺は急いで服を着替えた。あと魔袋も付けた。
そして、改めて周りを見ると、あることに気づいた。
落ちている骨は、自然に朽ちた骨ではない。
明らかに刃物で斬られたであろう綺麗な切り口の骨、表面が黒く焦げた骨、ふたつに割れた……骸骨。
何が何だかわからず歩いていると、地面がグラグラと揺れだした。
震度三くらいか……と、日本人特有の地震耐性のおかげでパニックにはならない。
だが警戒はする、意味もなくこの空間が揺れるものか。
「邪魔だァ!」
「なっ!?」
背後から風を切る音が聞こえてきたので、咄嗟に持っている剣でガードする。
相手はとてつもないスピードで飛んできたため、顔を見ることが出来なかった。
力で押そうと思い、剣に力を入れると、ピキッという音とともに剣が中程から折れてしまった。
追撃を受ける、そう思い剣に入れていた力をそのまま利用し前に転がりながら回避する。
「あ? お前は……」
「俺……か?」
立ち上がり、襲ってきた相手の顔を見る。そこには自分と同じ顔の男が立っていた。
しかし、目の前の男の髪は白い、服も、白い。
「随分と懐かしい顔じゃねぇか、いつの俺だ?」
「お前は、神裂雄人、でいいんだな?」
「カンザキ……神裂? ああ、そんな名前だったか。名字なんて、久しぶりに聞いたな」
こいつは、俺のコピーなんかじゃない。
どういうことだ、目の前のこいつは誰だ。
「戦うんだろ? 剣を出せよ」
「お言葉に甘えて」
俺は魔袋からノワールを取り出し、構える。
「なんだ、その剣。エクスカリバーはどうした」
エクスカリバー……俺がこの世界にきた時、受け取った剣。それをこいつは持っている。
最初に剣を見た時にもしやと思ったが、まさかエクスカリバーを持っているなんて。
「え……お前の剣、エクスカリバーか?」
「あたりまえだろ、生き返ってから、受け取ったんだ。お前もそうだろ?」
「エクスカリバーは、最初の世界に置いてきたから、持ってないな」
「はぁ? じゃあなんだ、俺とお前はそもそも最初から違うってことか?」
髪の色、持っていないはずのエクスカリバー。
どう考えてもコピーじゃない。これは、違う世界線の俺だ。
「違う世界線の自分ってことだろ、どうする、やるか?」
「やるさ、お前を殺さないと、殺される」
殺される? 精霊の加護があるじゃないか。こいつが言いたいことは、倒して次の世界に行くための鍵が俺だということだろう。
頭痛で死ぬ、そう言いたいのだろうか。
ここで、ひとつ疑問が上がる。
「精霊の加護、あるだろ、だとしたら、どちらも殺せないんじゃないのか?」
「加護だァ? そんなもん、数百年前に消えたよ。というか、この空間では、お前の加護も効果がないみたいだけど」
「なに?」
死んでも生き返ることはないのか。
それはそうだ、これは試練、死ぬ痛みは感じても、本当に死ぬ事は無い。
「俺には加護は無いが頭痛は起こる。死ぬ事は考えた。でもな、俺はまだ死なない。どうせなら、自分より強い敵と出会って、死んでやる。その相手が現れるまで、俺は世界を転移し続ける」
莫大な力を手に入れ、死んで解放されることにすら興味を示さなくなった。
しかも、自分の目標に真っ直ぐ進めば、頭痛が起こることもないのだ。本当は辛いのだろう、なら、ここで俺が止める。
「へぇ、それはいい野望だな。よかったな、俺が、その相手かもしれないぜ?」
「だと嬉しいな。ああ、そうだ。足元の骨、これがなんだかわかるか?」
白ユウトは骨を拾い上げ、くるくると回す。
「さあ、骨が何なのかはわからないけど、細かい骨があるおかげで不安定じゃないのは救いだな」
「この骨はな、俺たちの殺した相手の骨だ」
「ッ!?」
俺、たちの? お前だけじゃ、俺だけじゃない。
俺たちの殺した相手の骨。言われてみれば見覚えがある骨格のドラゴンもいた。
遠い記憶が蘇ってくる。あの骨は、魔族と手を組んで悪事を働いていた領主の頭蓋骨だ。
あれは、地の龍の骨、あれは何千の軍隊を率いていた魔王の骨。
「多分だけどな、俺の記憶にない骨も沢山ある。これ、お前が殺した奴だろ?」
白ユウトが領主の頭蓋骨をボールのように手の上で転がした。
「ああ、人間の骨だ。魔族と手を組んでいたな」
「俺も、似たような奴を殺したな。お互い、大量の命を奪ってきた人間らしい」
「もう人間かすら危ういけどな」
「同感だ。さて、そろそろ始めようか」
「そうだな……よし、いいぞ」
俺は魔袋からアイアスを取り出し、宙に放る。
目の前でふわふわと浮く盾は、ほんのりと赤く光っている。
「ユウト、油断しないでね」
「お前もな、危なくなったら魔袋に逃げ込めよ」
「二対一? そりゃ卑怯じゃねぇか?」
「アイアスはちゃんと俺の盾だ、それに、こいつに攻撃力なんてない」
「そか、なら一体一だな。じゃ、始めようか」
お互い中腰になり、剣を構えた。
どちらが先に動くか、初動で決着は大きく変わる。
精神を研ぎ澄ませ、考える、右、左、上。空中から行こうか。見た限りだと白の俺も飛べるみたいだし。
光り輝く剣に遠くに見える夕焼けの光が反射する。咄嗟に、目を細めた。




