生と死
Aランクのメンバーが順調に覚醒し、死んでいく。
既に半分以上の人数が動けない状態になってしまった。
そして、Aランク全員の試練が終わった。
「これでAランクは全員だな。再び挑むものは申し出ろ。まだチャンスはあるかもしれんぞ」
「……」
誰も動く気配がない。剣で刺され、能力を使われ、死んだのだ。再び挑むメンタルは、彼らにはない。
「……終わるまでに考えておけ。次、Bランクだ。男五人から順番に始めろ」
「は、はい」
やる気がなく、雰囲気も悪い五人は、暗い表情のまま、鏡の前に並んだ。
そして、明石から順に、試練を開始した。
* * *
結論から言おう。五人は揃って死んだ。
いや、殺された、死を体験した、というのが正しい。
そして、その後に試練を受けた相良も、試練から帰ってきた時には心が折れていた。
正直驚きだ。相良なら、この試練を乗り越えられると思っていたのに。
もう一人の男の俺が次だろうと、鏡の前に立った時、リビアルが俺に向かって歩いてきた。
「ユウト、お前は最後だ。大人しく待っていろ」
「なに?」
「次はそこの女だ、入れ」
呼ばれた藤沢の肩がビクッと動いた。
ちらっとうずくまっている相良を見て、たどたどしく歩いてくる。
「い、行ってくるね、神裂くん」
「……ああ、頑張れよ」
やはり怪しまれているのか。探りを入れられている。
あえて負けようか。いや、その時に心が折れていないとさらに怪しまれてしまう。
どうする、というかそもそも勝てるのか。どうせなら勝ってパワーアップしたいぞ。
とにかく、やれることをするしかない。
「ミント、先生、あと二人」
「ついでみたいな言い方やめろし」
「明石たちと、相良を見てわかると思うけど、負けたらああなる。こういう戦いは、弱気になると負ける。俺は相良を勇気づけて再挑戦させようと思ってる。ここまで来たんだから、俺らみんなで強くなりたい」
「……だね、油断したら、負けちゃう」
ミントがペンダントを握りながら言った。
「逆に強気になればきっと勝てるから、相手はあくまで今の強さを基準にしたコピーだと思うし」
「相手は怖がらないんですね、それでこちらが怖がっていたら、負けてしまうのは当然、ということですか」
明石たちが勝てなかったのは、今日の失敗からの自信喪失が原因だ。普段の彼らなら、誰かが覚醒してもおかしくなかったはずだ。
と、言っている間に藤沢が帰ってくる。
最初に出てきた手からは、オーラが……出ていなかった。
「っ!」
「藤沢さん!」
二人が、負けた?
ふざけるなよ、この二人は真面目に戦えそうだと思っていたのに。
こうなったら、相良と一緒に説教してやる。
「藤沢、こっちこい。風間! 勝てよ!」
「え、神裂、くん? まっ……」
藤沢の腕をつかみ、座り込んでいる相良の所まで歩く。
背後から呼び捨てにすんなー! という声が聞こえた気がするがスルー。その怒りを自分にぶつけてこい。
「相良」
名前を呼ぶと相良の体がガタッと震えた。
顔を上げた相良は、俺と藤沢の間の何も無い空間を見つめている。
「藤沢、相良の隣に座れ」
「う、うん」
二人そろってビクビクしている。
お互いがお互いを怖がるほどに。
「死ぬのってさ、怖いよな」
反応はない。
「痛いし、忘れられないよな」
こちらに来ようとした先生を、ミントが右手で制した。
「でもさ、戦いになったら、怖いなんて言ってられないんだ。そんな感情を持っちまったら、負ける。いつだって、自分を信じて、戦うんだ」
「自分を……」
「信じる……?」
二人の視線が壁から俺の顔に移る。
「そうだ。俺は絶対に負けないって思って戦え。ましてや自分が相手なんだ。自分に負けてたら、絶対に強くなんてなれない」
視界の端で、覚醒した風間が水色のオーラを纏っているのが見える。
「風間は勝ったか……ひとつ、話をする。これは聞いた話だ。ある男は、死んでもすぐに生き返ってしまう身体になった。それを知った敵は、男を拘束し、何度も暴力を奮った。死なないんだから、好きなだけ殴れる、感情をぶつけられる。これはその時の体験談だ」
「……」
聞いているのかはわからないが、俺は長く語るべく、息を吸いこんだ。
「まず、爪を剥がされた。足元に、爪が二十枚落ちているのを見た。次に、腹を裂かれた。すぐには死なないから、内臓がこぼれ出ている状態で生きていた。目をくり抜かれた。眼球が筋肉と離れきらずにぶら下がっているのが見えた。最後は、上半身と下半身を切り離された。血が吹き出す上半身のない身体を今も覚えている。男は、身体が再生する瞬間、隙をついて敵を倒した。どうだ? それに比べたら、一回死ぬくらい、どうってことないだろ?」
「それって……」
死がなんだ、強くなれるんだから、諦めずに挑み続ければいい。
もう一度立ち上がった時、今よりもさらに強くなれる。
「俺はみんなでまた戦いたい。俺の試練が終わるまでに、再挑戦するか考えておいてくれ」
「……」
気がついたら、井ノ原と先生の試練も終わっていたようだ。みんな確実に覚醒していっている。
次はミントだ。
鏡の前に立ったミントの元へ向かう。
「ミント」
「ユウト、私、絶対勝つからね」
「ああ、絶対負けるな」
ミントは小さく頷き、鏡の中へ入っていった。
波紋が消えるまで鏡を見つめた俺は、覚醒した仲間まで歩いた。




