2 先生と生徒の話その2
「先生、見て下さい」
「100点ですかおめでとうございます」
「保健体育なんです……!」
「……少し手を抜けば良かったと後悔しているのですね」
「先生、香水臭いです」
「今日電車で隣の女性が、殺人臭を撒き散らしてまして」
「うわぁ」
「泣きながら逃げました。あまりに匂いが強いと涙出てくるんですね」
「じゃあ、ドリアンで相殺を」
「相乗効果って知っていますか?」
「先生、悲しくて悲しくて、食事も何も出来ないときにはどうすればいいのですか?」
「何もしなければいいのではないですか」
「それが三日続いたら?」
「あと一週間ほど続かせれば楽になれますよ。色々な意味で」
「先生、夏は好きですか?」
「大好きです」
「あれ、珍しいですね」
「クーラーをガンガンに効かせた部屋でこたつに入って本を読むのです。至福」
「……先生が珍しくすっごく嬉しそうな顔をしています」
「先生、野球少年は何故丸刈りなのですか?」
「空気抵抗と何か関係があるのではないでしょうか」
「先生、海に連れて行ってください」
「夕日を見たいのか砂浜ではしゃぎたいのかテストから逃げたいのか、どれですか」
「先生、プリクラ一緒に撮りませんか?」
「撮ってどうするんですか?」
「友達にあげたり携帯に貼ったり」
「貼ってどうするんですか?」
「論理的に説明しようと思ったら負けですよ、先生」
「……女子高生のすることは時々分かりません」
「先生、夏休みにどこか行きますか?」
「本を読んで過ごすつもりですが」
「一緒にディズニーランド行きませんか?」
「本を読んで過ごすつもりですが」
「いつにしますか?」
「あの」
「やっぱり平日がいいですか?」
「……じゃあ、それでいいです……」
「見て下さい、新しい化粧道具」
「……」
「あ、ぼ、没収はやめてください、先生だってガンダムの玩具没収されたら嫌でしょう!」
「……そうですか、理解できないものを集める気持ちがお互い分かりましたね」
「先生、何故受験なんてしなくてはいけないのですか?」
「子どもを箱詰めしてパックに入れる作業がそれなのですよ」
「先生、英語の先生の授業がよく分かりません」
「自分に説明するよりも他人に説明する方が難しいという証明ですね」
「先生、何故部活動をやらないといけないのですか」
「集団に属すことを求められる国だからです」
「先生、この化粧品新作なんですよ」
「とりあえず職員室に来なさい」
「先生、その漫画新作なんです」
「私が読んだら返してあげます」
「先生、私は一つ大人になりました」
「大人はもうどんなに年を重ねても大人にしかなれないんですよ」
「先生、お電話です」
「誰ですか」
「オレオレ詐欺です」
「真顔で取り次ごうとしないでください」
「先生、うちが雪で埋まりました」
「昨日二階から飛び降りてましたね」
「最近の玄関は二階なのです」
「先生、足をくじいてしまいました」
「だから百円を拾うために下を向いて歩くのはやめなさいと言ったのに」
「先生、教科書忘れました」
「筆箱とノートは?」
「忘れました」
「立ってなさい」
「ちなみに何を持ってきたのですか?」
「お弁当です」
「やっぱり立ってなさい」