第二クール、スタート!⑧
「いやぁね、そんなに見つめて…。そろそろアタシに痺れてきたんじゃない?」
リリスが悪戯っぽく笑うと、格闘家は憤怒の表情を見せた。
「ハレンチ娘が調子に乗りおって!」
「あはっ♪怒られちゃった。あなた、ホントに耐性あるのねぇ。なかなか魅了にかからない…」
言いつつも、リリスは余裕だ。
「じゃあ、これでどう?」
いつの間に取り出したのか、リリスのムチが唸る。予想外だったのか、格闘家は動きを封じられてしまった。
「くっ…しまった!!」
青くなる格闘家。
リリスはニヤニヤと笑いながら、格闘家に近づき、余裕しゃくしゃくで肩に手をかけると、おもむろに口づけた。
…あれ?
HPが…下がらない…?
いつもなら口づけた途端、ギュンギュンと下がっていくHPが、何故か全然下がらない。不審に思って見ていると、リリスがゆっくりとくずおれ、力なく地に伏した。
………え…?
リリスが倒れたすぐそばに、いつの間にか盗賊が立っていた。おっかなびっくりリリスを揺さぶっている。
「リリスちゃ~ん?リリスちゃん?」
リリスはピクリともしない。
それを確認すると、盗賊は、握った拳を高く高く、空へ突き上げた。
「やったぁぁぁぁ~~~!!リリスちゃん、瞬殺!!俺、凄過ぎるっしょ~~!!」
え!?
まさかリリスを仕留めたのか!?
「確かに、リリスさんのHPは0ですな」
グレイが冷静に告げる。
マジで!?
あのリリスが!?
「なんとこれまで無敗のリリス、ついに倒れました~!驚きです!倒したのは盗賊:シーファさん!一体どんな技を使ったんでしょうか!?」
キーツのアナウンスもビックリ気味だ。
「凄いっしょ~。宝箱の中身、死神のナイフって言う、即死効果のあるヤツだったし!」
得意満面で言う盗賊に、格闘家は焦った声でこう言った。
「分かったから、早くほどけ!お嬢様が危ない!」
格闘家の言葉に、盗賊は慌ててムチを外しにかかる。リリスが倒された今、ケットシー達がいつまでも大人しくしている保証はない。
「お嬢様!!」
二人が踊り子お嬢様に駆け寄る。
そこには、完全にお腹を見せて撫でられまくっているケットシーと、呆れ顔でつまらなそうに見ているハイピクシー。
う~~ん、平和だ…。
そこで、タイムアウト。
なんともあっけない幕切れだったな。
たまにはこんな日もある。
今日は客も早く帰ったし、レイが来るまでゆっくりしようとキングサイズベッドにダイブ。
気持ちいいな…すぐに、睡魔が…。
「ハクさん!レイさんがお呼びですよ~!」
通信機から、可愛いらしくも甲高い、シルキーちゃんの声が。
え…いつもより、早い…?
そうか…。今日、ダンジョンにチャレンジしてたから、ついでに修行して帰りたいのか。
眠気MAXだがしょうがない。
グレイを誘って、カフェへと向かう。
「あ~…、見てたぜ?スラっち相手に、頑張ったじゃねえか」
「でも、負けました」
レイは憮然とした表情だ。相当悔しかったらしい。相手との実力差はそっちのけで悔しがる負けず嫌いさは、上達への近道だ。
「お前はまだまだレベルも低いしな。スキルもたいして持ってない。その割には善戦したよ」
「………。 」
レイは唇を噛んで俯いている。
多分涙目だろうな。
「ただ、リベンジしたいだろう?そんなお前に、素晴らしい講師を連れてきたぞ?」
「えっ!?」
レイがバッと顔をあげる。グレイはにっこりと微笑んだ。
「初めまして。グレイと申します。明日からここで、格闘系の講師を務める事になっております」
レイは驚いた顔で、俺とグレイの顔を交互に見ている。
「…え…あの…師匠は…?」
「俺は臨時。格闘スキルは要望が多くて、正式に二人雇用する事になった。俺もグレイから更に学ぶつもりだ」
「…そう…ですか…。じゃあ、これからは兄弟弟子ですね!たまには手合わせ、お願いします!」
レイは折り目正しくバッと頭を下げた。続けてグレイにも「よろしくお願いします!」と頭を下げている。
引き継ぎを首尾良く終わらせた俺は、意気揚々とマスタールームに戻った。
……あれ?
マスタールームではなぜか、ゼロ、ルリ、ユキの三人がキング・ロードのモニター前に集まっている。
「どうしたんだ?皆して集まって」
「あ、ハク。リリスがね、復活に時間かかりそうだから、回復ルームに運ぼうかと思ったんだけど…」
言ってゼロは、視線をモニターに戻す。
つられてモニターを見た俺は、思わず和んだ。
なんだこれ。
力なく地に伏したリリスの周りを、沢山のスライム達が心配そうに囲んでいる。
どうやらリリスは、スライム達に人気らしい。確かによくタッグ組んで戦闘してたけど…こんなに慕われてるとは知らなかったな。




