第二クール、スタート!⑥
スラっちは、ギリギリで体を捻って致命傷を避け、壁を使って大きく横に跳ねる。さらにレイが追い打ちの衝撃波を放ち、ついにスラっちは、全身で衝撃波を受けてしまった。
吹っ飛んで、壁に叩きつけられるスラっち。
傷を受けたのか、床をコロコロと転がりながら、キラキラ光って回復しているようだ。そこに、早くもレイが駆け寄ってくる。素早い剣の応酬に、スラっちは避けるのに精一杯だ。
コロコロ、コロコロと、転がりながら避けている。
…必死なんだろうけど…なんか、可愛いな。
レイの狙いも少しは読めてきた。
スラっちで怖いのは、特に魔法系のスキルだ。レベル的にも突出したスキルまでは持っていないレイとしては、ヤバい魔法を使われないように、詠唱の暇を与えないようにしてるんだろう。
レイのスピードも早いが、スラっちも負けてない。コロコロ転がりつつ、攻撃は全て避けているからさすがだ。
避けてるだけかと思ったら、ついにスラっちが反撃の狼煙をあげた。
ピシャーーーーン!!!
轟音と共に、激しい雷がレイを襲う。
「く…っ!」
咳き込むレイの口からは、うっすらと白い煙が吐かれ、雷撃の威力が伺えた。
レイも堪らず回復魔法を唱える。
キラキラとした光がレイを包み、ダメージが消えていく…と思ったのも束の間、お返しとばかりに、スラっちから衝撃波が放たれた。
激しく壁に叩きつけられたレイは、かなりのダメージを負っている。
スラっちみたいなプルプルボディじゃないしな。ダメージがデカいのも当たり前か…。
「ごふっ…」
血を吐きながら立ち上がったレイは、素早く自身に回復魔法をかけた。さらに、剣に向かって何か呟く。
途端に、剣は勢いよく燃え上がった。
「あっ!あれ、炎の剣だ!」
突然、ゼロが叫んだ。
「ドワーフのお爺さん、まだ試作だって言ってたのに…!」
「さっき武器屋で時間かけて交渉してたわよ?口説いて売って貰ったのかもね」
ドワーフ爺さん、開発途中の武器を売ったのか…。まあ、腕は確かだし、楽しみな武器ではあるな。
炎の剣を顔の横で構え、レイは初めて気を集中し始めた。静寂の中、呼気の音だけが微かに聞こえる。
「はぁっ!!」
気合いの掛け声と共に、またもやスラっちに向かって走り出すレイ。
やっぱりスキルはあんまり持ってないんだろう。単調な直接攻撃になりがちだ。
スラっちも慣れてきた様子で避けている。ただ、さっきと違って剣は炎を纏っている。スラっちも炎はイヤなようだ。
スラっちが大きく後ろに跳ねた隙をついて、レイがまた衝撃波を放った。
「なんとぉ!炎が飛んで行ったぁ~!まるで火炎系の魔法だぁっ!!」
キーツの絶叫アナウンスが響く。
確かに!
ただの衝撃波に、炎がのって飛んで行く!
すげえ!
予想外の効果に思わず興奮する俺達。
でも、一瞬の後、それは悲鳴に変わった。
「スラっち~~~~!!?」
「ヤバい!ヤバい!蒸発してるぅ!?」
衝撃波にのった炎がスラっちにヒットした途端、スラっちからもうもうと…湯気のようなものが立ち昇る。
しかも、あろう事か、スラっちがみるみるちっちゃくなってるじゃないか!?
なんだよ!
炎系の魔法使えるし、炎の耐性くらいないのかよ!
普通に炎に弱いのか!?
めちゃめちゃ混乱する俺達。
ユキはプリンセス・ロードのモニターそっちのけで見ていると思ったら、この惨状を見て、泣き出してしまった。
でも、ちっちゃくなってもスラっちはスラっちだ。そう簡単には諦めない。
ここぞとばかりに炎の剣を振り回すレイから、華麗に体を躱しつつ、一際高く飛び上がった。 高い位置でクルクルっと宙返りしたスラっち。
スラっちからレイへ向かって放たれる、凄い勢いの水。
水圧で、レイは一瞬で吹っ飛ばされ、意識を失ったのか、部屋に貯まっていく水にぷかっと浮いてしまった。
あれは…水魔法か…???
「鉄砲水、ね。この前冒険者が使った時はこんな大規模な水じゃなかったけど」
ルリが呆れたように呟いた。
「あれ、気絶してるよね!?回収っ、回収しなくちゃ!」
ゼロの慌てた声に、キーツが即座にアナウンスを入れる。
「挑戦者、魔法剣士レイさん、気絶によりリタイア~~~!!たった一人で、素晴らしい戦いを見せてくれました~~!皆さん、盛大な拍手を!」
わあっ!と巻き起こる拍手。
レイは気絶してるし、スラっちは自分が出した水にプカプカ浮いて、気持ち良さそうだ。
……あ、体の大きさ、戻って来てる。
なるほど、レイへのダメージ+炎の剣消火だけじゃなく、自分の回復も狙ってたのか。
う~~ん、スラっち、侮れない…。
ルリはいそいそと回復ルームへ。
多分めっちゃ悔しがるから、優しく介抱してやって欲しい。




