ダンジョンの構想は
名前が決まったところで、改めて二人のステータスを確認する。
名前:ルリ
LV:1
種族:ハイエルフ
性別:♀
レア度:4
◆能力値
HP:550/550
MP:600/600
STR(筋力):60
VIT(耐久):50
INT(知力):100
MIN(精神):120
DEX(器用):95
AGI(敏捷):95
LUK(幸運):50
スキル:下級風魔術・下級水魔術・浮遊・弓
▽スキル詳細
《下級風魔術》下級の風属性魔術を扱う事が出来る。
《下級水魔術》下級の水属性魔術を扱う事が出来る。
《浮遊》空を飛ぶ事ができる。
《弓》弓を武器とした戦闘を行う事ができる。
ルリはエルフの中でも長命で能力が高い、ハイエルフだった。魔法が得意だが、その長命を活かして他のスキルを習得している場合が多く、個体差が激しい事でも有名な種族だ。
ルリも2属性の魔術と、弓での物理攻撃もいける。能力的にはかなり頼りになりそうだ。
そして、ただの仔犬にしか見えないユキのステータスを見た俺とゼロは、一瞬だけ固まった。
名前:ユキ
LV:1
種族:幻獣(幻狼:幼生)
性別:未分化
レア度:5
◆能力値
HP:700/700
MP:450/450
STR(筋力):90
VIT(耐久):115
INT(知力):75
MIN(精神):85
DEX(器用):30
AGI(敏捷):90
LUK(幸運):120
スキル:下級水魔術・牙
▽スキル詳細
《下級水魔術》下級の水属性魔術を扱う事が出来る。
《牙》牙を武器とした戦闘を行う事ができる。
レアモンスター召喚チケットで召喚したんだから、よく考えればあたり前なんだが、もちろんただの仔犬じゃない。
なんと幻狼と呼ばれるレア種族だった。
滅多にお目にかからない上に、野生の成獣に会ったら命がない、と言われる程凶暴だ。この愛らしさからはとても想像できなかった。
こいつも俺と同じで、成長するとさらにレア度があがるタイプらしい。今は癒し系ペットでも、すぐにでかくなって、強力な戦力になるだろう。
「うわぁ! ルリもユキも凄いな!」
ゼロに手放しで褒められて、二人はとにかく嬉しそうだ。ユキなんかしっぽをちぎれそうなくらいにブンブンふりながら、飛び跳ねて喜んでいる。
う~ん、とてもじゃないが凶暴だと名高い幻狼とは思えない。単に可愛い。
ルリとユキのレベルがあがれば、もしもの時の備えも強固になる。戦力にはある程度目処がたったよな。
「ゼロ、仲間も揃ったし、そろそろ本気でダンジョン作らないか?」
俺の提案に、ゼロは勢い良く頷くと、設計図のようなものをベッドの上に大きく広げて見せてくれる。なんと、昨日俺がカエンにしごかれている間に、3人で話した内容を纏めていたらしい。意外に準備が良くてちょっと驚いた。
「みんな、見て! これがこれから僕たちが造っていくダンジョンだよ!」
誇らしげなゼロの姿に、ユキはわけもわからず飛び跳ねて喜んでいる。そしてルリは、ちょっと意外そうな顔で小首をかしげた。
「これから造るって……もしかして、このダンジョンって出来たてなの?」
「ああ、ダンジョンモンスター俺が最初で、ルリが二番目に召喚されたから、ほんとにこれからって感じだな」
「すごい! そんな初期に立ち会えるなんてラッキーだわ。面白くなりそう」
その気持ち、わかる。
既にできあがってるダンジョンで、古参のモンスターとかいたら、どうしても自由度は低くなるもんな。確かに俺たちはラッキーだ。
「あー嬉しいな! ダンジョンマスターになった時は本当に死んだ方がマシだって思うくらい怖かったけど、こんな楽しそうなダンジョンが作れるなら、来る人もワクワクするだろうし、僕だって嬉しい……ほんと良かった」
「ワクワクする楽しそうなダンジョン??? どういうこと?」
心底嬉しそうに呟くゼロに、ルリが不思議そうに問いかける。そりゃそうだ、これまでの経緯を知らないんだから、いきなり楽しそうなダンジョンとか言われても、疑問しか出ないだろう。
ダンジョンなんて本来、血で血を洗う、命をとったりとられたりの凄惨な現場だ。
でもこのダンジョンは違う。これから仲間になっていくモンスター達には、そこを最初にわかってもらう必要があるんだろう。
俺とゼロは、二人にこれまでの経緯をかいつまんで話すことにした。
特に茶々を入れるでもなく、不満そうな声を漏らすでもなく、真面目な顔で俺たちの話を聞き終えたルリは割とあっさりと「とりあえず話はわかったわ」と頷いた。
「それじゃあここは普通のダンジョンじゃなくて、冒険者がレベルアップするための訓練施設になるわけなのね?」
「うん!」
すげーなルリ、めっちゃ理解が早い。ちなみにユキはキラキラお目々でしっぽをフリフリしてるけど、多分わかってないと思う。
「ここに来れば冒険者の人は経験値も戦闘力も、罠の回避能力もあがって嬉しいでしょ?」
「そうね。あたしが駆け出し冒険者なら、確かにそういう施設があれば嬉しいかも」
ゼロの力説にも素直に同意してくれている。俺よりよっぱどゼロの考えに理解があるのかも知れない。なんか意外だ。
「僕達から見たら撃退ポイントと経験値があがるし、ギルドにとっては冒険者の実力の見極め精度もあがるよねから、誰も損しないと思うんだ」
そう、確かに3者ともに利点がある仕組みなんだよな。ゼロは一見ヘタレっぽく見えるけど、実は結構頭使ってるよな。
「僕も誰か殺さずに済むし、もう大満足だよ!」
満面の笑顔を見せたゼロは、今度はダンジョンポイントやらコアやらも含め、これまでに理解したダンジョン造りのルールを惜しげもなくルリに説明していく。
配下を信頼してくれるのはありがたいが、こんなに手の内を丸明かしなダンジョンマスターって大丈夫なんだろうか。
基本俺たちはマスターを害することはできないわけだが、信頼しすぎるのもどうかとは思うんだよなぁ。
まぁ、ダンジョンモンスターでさえないカエンにだって手の内をさらしてるんだから、いまさら心配しても仕方ないか。
心配しても仕方がないことをつらつらと考えていたら、どうやら説明が終わったらしい。
なんなく仕組みを理解した顔のルリと、多分ただ楽しそうなユキも交えて、ゼロが書いてくれた設計図を元に俺たちはダンジョンのイメージを固めていく。
大まかな構想はこんな感じだ。
ダンジョンは冒険者のレベルに合わせて2種類用意する。
ひとつはLV.4~7までの駆け出し冒険者用。
ありがちな薄暗い洞窟タイプで、入り口は軽めのモンスター配置だが、奥にいくに従って、様々な罠やモンスターとの連戦が入り、体力を削られたところでボス戦という、中々ハードな内容だ。その代わり、宝箱も多めに置いてやる。
カエンの話では、これ位のレベルの冒険者が一番危ないらしい。
罠にもモンスターにも慣れていないし、退き際の判断も甘い。このコースでは、モンスターの特性を学び、自分の実力や弱点を見極めてもらうのが主な目的だ。
もうひとつはLV.0~3までの超初心者用。
ここはカエンたっての希望で、街人の女の子でも、運が良ければ半分は進めるようになっている。
可愛い街並みを模したダンジョンで、前半はスライムなどのどこか愛嬌があるモンスターしか登場しない。だが、後半に行くほど廃墟になっていき、複数のモンスターと対峙するようになり、ボス戦はずぶの素人にはかなりきついオーク数匹と戦ってもらう。
はっきり言って、ここは初心者のレベルアップ用ダンジョンだ。レベルが低過ぎて依頼も出しにくい冒険者を、ここで鍛えるのが目的になる。
人手不足が深刻らしく、ゆうべカエンは一般の街人にも開放して、素質がありそうなのをスカウトすると張り切っていた。
「普通の町みたいなダンジョンを造るだなんて、面白くていいわね!」
「うん、ここは冒険者じゃない人にも解放するダンジョンだから、とっつきやすい方がいいかと思って」
「確かに、それなら冒険者じゃなくても、面白そうだからってチャレンジしてくれそうだわ」
最初はただ聞いているだけだったルリだけれど、話が深まるうちにだんだんと楽しそうに考えを巡らせはじめた。
「せっかく街並みがあるなら、お店も開いたらいいんじゃない?」
「お店? 薬草とか売る系の?」
「もちろん武器や防具でもいいし、アクセサリーなんかもいいと思うわ。ここでしか買えないものをウリにするのよ。冒険者じゃなくても足を運びたくなると思うわよ」
「うわ、それ面白そうだね!」
ルリのおかげでアイディアもふくらんで、ゼロも超絶楽しそうだ。でも確かにそれなら、ルリの言うように客の幅も広がるかも知れないな。検討の余地ありだ。
ひとしきり和気藹々と話し合い、小腹がすいた俺たちは昼メシを食いながら、ダンジョンコアの新着情報をチェックしていく。
おお! 案の定、また何か増えてるな。
『条件を満たしたため、レア度2までの妖族が召喚可能となりました』
条件? ああ、もしかしてルリを召喚したからか? でも、俺やユキは?
そこまで考えて思い当たる。
龍族や幻獣族は少なくともレア度1や2はいないもんな。納得しつつ、新たに召喚出来るようになった妖族のラインナップをのぞき込んだ。
・ピクシー:体長10cmくらいの羽根が生えた小妖精。陽気でいたずら好き。
・ドワーフ:身長100cm前後の小人。手先が器用で鉱物の加工が得意。
・エルフ:男女共に美しい外見を持った、森の守護者。弓の名手。
・シルキー:白い絹を纏った美しい少女。特定の家に住みつき、家事を行う。
「うわぁ、シルキーいいっ! 妖精のメイドさん、超理想通りっ!」
いきなりの、ゼロ、大興奮。
うんうん、なるほど。ゼロはこういうのがタイプなんだな。分かる分かる、男だもんな!
ニヤニヤしながらからかうと、ゼロは真っ赤になって、必死で否定してきた。
「ちっ、違うよ! 受付! 受付にこんな子がいたら理想だなって、言ってるんだって!」
この焦り加減は肯定してるようなもんだ。からかいたい! 軽く問い詰めたい!
でも、大人だからここはガマンする。なんせルリ様がご立腹だからだ。
「ふ~ん受付ねぇ。で、受付って?」
半目で腕組みのルリに、「ホントだからね!」と念を押しつつ、ゼロは疑問に答えてくれた。
「えっと……このダンジョンって、コースが2つあるから」
なんとゼロの構想はまだまだ続きがあったのだ。