今日からオープン!⑩
「うわあぁぁぁあぁぁぁっ!?」
冒険者達の悲鳴が響く。見る間に体が凍りつき、地面からも水晶のように、氷の結晶が盛り上がっていた。
これ、さっきのアイスボム…!
やっぱ怒ってんじゃねーのか!?
こ、怖……っ!
でも、覚えたての魔法がキマると嬉しいらしい。今度は七色にビカビカ光りながら飛びはねている。
つーか…マジックボムからもスキルゲットするって、マジあり得ねぇな…。
「なんという事でしょうか!アイスボムを再現して見せました!凄い!凄いスライムです!スラっち凄い!」
カフェでは早くもスラっちコール!
どんどん株が上がってないか?
「くそぉっ!スライムなんかに…っ!」
しきりに悔しがるパワーファイターを回復魔法で癒し、さらに何かドリンクを渡す魔法戦士。こちらはやけに冷静だ。
しかしパワーファイター、この期に及んで、まだスラっちを「スライムなんか」扱いか…。彼の中の「スライム最弱」の固定観念は、なかなか崩れないらしい。
猪突猛進タイプのパワーファイターより、個人的には魔法戦士の方が気味が悪いな。さっきパワーファイターに飲ませたものも気にかかる。
この魔法戦士、レベルは低いが準備が良くて、道具類を絶妙なタイミングで使ってくる。なかなか侮れない冒険者だ。
まだ道具袋ゴソゴソしてるし!
まだなんか出す気なのか!?
「うおぉおぉぉ!力が漲って来たぁあぁぁ!やるぞぉおぉぉ!」
パワーファイター、突然の雄叫び。
あの薬はパワーアップ系か?
雄叫びをあげながら、スラっちに突進するパワーファイター。
ご機嫌にぽよぽよと跳ねていたスラっちは、びっくりしたように軽く飛び上がった。
パワーファイターも大きくアックスを振りかぶり、跳躍する。体がデカいだけに迫力満点だ。
縦に振り下ろした後、さらに横に薙ぎ払う。あのデカいアックスを…力任せだが、凄い技だ。
飛び上がっていたせいか、さすがのスラっちも避けきれず、脇腹(?)あたりにデカい十文字傷がパックリとあいている。
間髪おかずにキラキラ光りだすスラっち。その瞬間、パワーファイターの影から、魔法戦士が躍り出て、スラっちを突いた。
……威力は無かった筈なのに、なぜかスラっちは困ったようにプニっ!と身をよじっている。
なんだ…?
思わずスラっちのステータスを確認。
「ルリ!スラっちのステータス見せてくれ!なんかステータス異常ないか!?」
「ちょっと待って!」
ルリが急いで出してくれたステータスを覗き込む。
……え?
これ、ヤバくないか?
異常ステータスは「魔封じ」。
「ヤバい、ゼロ!スラっち、魔法を封じられてる!」
「ええっ!?……あっ!さっき魔法戦士、何かレイピアに塗ってた!あれって…。」
「魔封じだったのかもな。それにしてもヤバいぜ…!」
魔法が使えないスライムメイジって…。
スラっちが困る筈だ。
「魔封じ、効いたみたいだ!」
「マジか!スゲーな!」
冒険者達の言葉に、カフェはどよめいている。
魔法が使えないと分かり、ジリジリと間を詰める冒険者達。スラっちも、冒険者達が詰め寄る分、ぽよん、ぽよん、と少しずつ後ろに下がっている。
スラっち、逃げろ!
あっ!?
マジで逃げ始めた!
「スラっち、本気で逃げています!思いの他早い!凄いスピードです!!」
当然、冒険者達も追いかける。
見た目はいたいけなスライムを追いかけ回す、重装備の冒険者達だ。
小さな体をフルに使って、大きく跳ねながら必死で逃げる姿は、ちょっと同情を誘うらしい。カフェからは「酷い!」「逃げて!」と声が上がっている。
…もちろん、「今だっ!」「殺れ!」的な物騒な声援も飛んでるけどな。
スラっちはこう見えても、スピードのステータスも高い。冒険者達は装備も重いせいかついて行けず、徐々に間があき始めた。
「くそっ……ラチがあかねぇ!」
ハァハァと荒い息のパワーファイター、足を止めると、アックスを両手で構え、やおら精神統一を始める。
そしてそれをチラリと見た魔法戦士は、さらにスラっちを追う足を早めた。
何をするつもりなんだ…?
「戦士:オルガさん、どうしたんでしょうか…おおっと!投げたぁーっ!あの巨大なアックスを、スラっちに向かって投げましたぁ~っ!!」
ギュルギュルと回転しながら飛ぶアックスは、スラっちに凄い勢いで命中した。
弾かれたように、またも壁までふっ飛ぶスラっち。ホントに今日は苦戦している。
今度は右肩(?)あたりがかなり深く切れ、中心の核にも届こうかという程だ。でも、今は魔法が使えない。回復もムリだ。
「スラっち…。」
ユキがシュンとしてしまった。耳もしっぽも、力なく垂れている。
その時、スラっちが、高く高く飛び上がった!
空中でスラっちの体が、大きく弓なりにしなる。肩の裂け目が痛々しい。
戻る体の反動で、衝撃波が発生し、近くにいた魔法戦士に容赦なく襲いかかる。
魔法戦士は激しくふっ飛んだ。
「これって…インパクトウェーブ…?」
確か前回のプレオープンの時に、スラっちと戦った戦士が放った大技だ。
「そうか…魔法じゃないから…。」
肉体系のスキルは使える事に気付いたようだ。スラっちは喜びのあまり、またも七色に光り輝いている。
くるくるっと回転しながら飛び上がり、もう一回大きくしなった。
パワーファイターが魔法戦士の前
に飛び出し、守るように立ちはだかる。
インパクトウェーブを正面から受け止めた彼は、ちょっとだけ男前に見えた。…が、それでもそれなりのダメージを受けたようで、その場でガクリと膝をつく。
そこに降り注ぐスライムの雨。
言うまでもない。
スラっちだけに許された大技、「スライム一斉攻撃」だ。
「勝負あったぁ~~~!!プリンス・ロードボス戦、勝者はスラっち、スラっちです!最後はなんと、魔法を封じられたまま、戦い抜きました!」
鬨の声よろしく、一斉に跳ねるスライム達。前回も思ったけど、ホントこれ可愛いな…。
「挑戦者のオルガさん、エスさんも、素晴らしい健闘でした!皆さん、惜しみない拍手をお願いします!」
カフェからは、割れるような拍手と声援。
いや、本当に頑張ったと思う。
こっちも色々と考えるところがあったよ…。
マスタールームはやっと安堵の空気に包まれ、治療に向かうルリもご機嫌の表情で出ていった。
次いで、プリンセス・ロードの男子生徒4人組は、誰一人欠ける事なくゴール。なんとあの後、本当に吹っ切れたのか、ひょろが大活躍だったらしい。
近付くモンスターを弓が武器のメガネと共に遠距離からバッタバッタと倒し、負傷すら少なくなったと言うから恐れ入る。
ともかく今はエルフ達から祝福され、賞品を貰った後、皆で回復温泉で大騒ぎ中だ。




