今日からオープン!⑥
「うっひょ~!これがダンジョンか!」
ズカズカと先頭きって歩く、4人の中ではガタイがいい黒髪。
「ふ~ん、よく出来てるじゃないか」
観察するように辺りを見回すメガネの男。
「ちょっとちょっと~?ここクリア出来たら俺達、冒険者になっちゃえるんじゃないの~?」
お調子者感丸出しのそばかす。
「僕、ヤダよ!帰ろうよ~」
気弱そうなひょろひょろの金髪。
どうやら野郎4人は、度胸試し的ノリでチャレンジしているようだ。そんな彼らの前に、いつものモンスター達が登場する。そう、スライム3体と、ピクシー2体だ。
4人の実力やいかに?
「よっしゃ、いっちょやるか!」
迷いなく、黒髪がスライムに襲いかかる。それを見て、メガネが無言で弓を引いた。
呆気なくピクシーが1体犠牲になる。
「さっすがぁ!アーチェリー部エースは違うねぇ。ほら、オレらも行こ?」
お調子者が誘うも、ひょろは「嫌だって~!」とその場を動かない。
「しょーがねーなぁ、ほんじゃ、オレらの勇姿をそこでしっかり見てな!」
お調子者はひょろをおいて、戦列に参加した。決着はあっと言う間につく。
学生…のようだが、この前の街娘達と一緒にチャレンジした冒険者より、よっぽどスジが良い。カエンが大喜びでスカウトしそうだ。何にもしてないのに「もうやだ、怖いよ~」と泣いているひょろ以外は、充分に素質がある。
ひょろを慰めながら、奥へ進んでいく4人組。これからが楽しみだな。
それを見届けてキング・ロードのモニターに戻ると、彼らは宝箱ゾーンに到達していた。盗賊の腕の見せどころだ。
うーん…勝率は見たとこ7割だな。
罠の解除に失敗して、毒をくらったり、マヒをくらったりもしている。その度に魔術師が呆れ顔で治癒するわけだ。
それでも、開ければそれなりの装備品や回復薬が入っている。黙々と罠の解除を進める盗賊。そこに、男戦士がズカズカと近づいていく。
「…?」
怪訝な顔で見上げた盗賊に、いきなり男戦士が切りかかる。
「うわっ!?」
回避能力が高いおかげか、すんでのところで攻撃を躱す盗賊。
「危ないな!何する……」
言いかけて、黙ってしまった。
明らかに様子がおかしい。
体はユラユラと揺れている。
目はどこを見ているのか、焦点が定まっていない。
それなのに、男戦士は執拗に盗賊へと剣を振り下ろしていた。
この感じ、見覚えあるな…。
「くそっ!本当~にテメェは…!あのリリスに魅了されやがったな!?」
反撃も出来ず、ただ攻撃を躱す事に専念する盗賊。
「ああん、もうバレちゃったぁ」
残念そうな呟きとともに現れたのはもちろんリリス。
なんと、何時の間にか魔術師を腕に捉えている。そのまま口付けの体勢に入る。回復されると厄介だからか、魔術師から吸精するつもりのようだ。
唇が触れる一瞬前に、リリスはいきなり飛びすさり、魔術師から距離をとった。
なぜか、顔が青ざめている。
ギリギリと歯ぎしりし、燃えるような目で魔術師を見つめた。
「あんた…、魔族ね!?」
「はは、気付いたか。反対に精気吸ってやろうと思ったのに」
魔術師はヘラヘラと笑っている。
…魔族か!
それならあの魔法の豊富さも、嫌味なくらいイケメンなのも、納得出来る。きっとリリスより、かなり上位の魔族なんだろう。リリスは僅かだが震えている。
「…なんだって人間と仲良く冒険者なんかやってんのよ」
「えー、だってアイカちゃんが可愛かったから」
魔術師は女戦士を見て、ヘラヘラと答える。女戦士は「バッカじゃないの!?」と、真っ赤だ。
「魔族がいるって噂聞いて、俺の事たった一人で討伐に来たんだよ。無鉄砲過ぎるし、第一俺、別に悪い事してないし、危なっかしくって可愛いから~。」
女戦士は「謝ったじゃない!」とますます真っ赤だ。
「ま、そーいう訳で。悪いけど容赦しないからな?」
不敵に笑う魔術師。
でも、リリスはなぜか逃げない。
「じゃあ、アタシも遠慮なく。…ホーリーちゃん!やっちゃって!!」
リリスの言葉で現れたのは、こちらも昨日進化したばっかりの、ホーリースライムだった。
プルプルっと震え、薄い黄色だった体色が、瞬時に濃くなり、ついには光りだした。それと共に、突如魔術師の体が金色の光に包まれる。
「……っ!?何…?あっ!痛てっ!あ…うわぁ…っ!」
最初は不思議そうに光を見ていた魔術師、徐々に苦しみだしている。
「うあ……何をした……っ!」
ガクリと膝をつく魔術師。
対照的にリリスは勝ち誇ったように高笑いしている。
「うふふっ…効いてるみたい♪こっちは頼んだわぁ。」
さっさと男戦士のところに戻るリリス。
男戦士は、今は女戦士と剣を交えている。体勢を崩して倒れた盗賊をかばって、女戦士が刃を受けた格好だ。
「その女は任せたわぁ。」
男戦士にそう声をかけると、リリスは尻餅をついている盗賊に近付き、容赦なく精気を吸う。
こりゃダメだ。
魔術師も今は回復出来る状態じゃない。
俺の報告を受けて、ゼロがキーツに指示を出す。ここにきて、ついにキング・ロードから初のリタイアが出た。
「キング・ロードに挑戦してくれた、シーフ:ワーツ・ハイマーさん!HPが限界です!無念のリタイア~!リリス、強い!」
キーツのアナウンスに、カフェからは冒険者達へ励ましの声援が飛んでいる。
「くっそ…力が…でねぇ…。」
魔術師は悔しそうに呻いているが、ホーリーが効いているのか、立ち上がる事さえ出来ずにいる。
一方、マスタールームでは、ホーリースライムのまさかの健闘に、盛大な頑張れコールが贈られていた。
「ホーリー、すごい!」
「あの魔族魔術師を足止めって、かなりポイント高いぞ!?」
「色も可愛い!」
「ホーリーちゃん、頑張れ!」
皆好き勝手に応援している。
ちなみに名前は、ホントにホーリーらしい。
俺達から見たら可愛い仲間だが、当然冒険者達から見たら、憎たらしい敵なんだろうな…。可愛いのに。
その証拠に、魔術師はすごい目でホーリーを睨んでいる。
「こいつさえ…なんとか…出来れば…!」
スライムのくせに、小さな体で聖魔法を放つホーリーは、魔族である魔術師にとって天敵と言ってもいい。魔術師の前でポヨンポヨン飛び跳ねている姿は、なんにも考えてなさそうに見える。
「こんなヤツに…!」
魔術師の目がギラリと光る。
その瞬間。
殺気を感じたのか、ホーリーがびっくりしたように飛び上がった。
空中で、クルクルっと回って、ホーリーの体が目映く光る。
光は瞬時に凝縮し、一筋の閃光となって、魔術師の肩を貫いた。
「!!!」
苦痛に顔を歪める魔術師。
あれは、単体攻撃の聖魔法、ライトだ。
恐慌状態に陥っているのか、クルクルと回りながら、ライトを打ちまくるホーリー。もはや無差別乱射だ。
だが、無理もない。
魔族から見たら、聖魔法を使う天敵かも知れないが、そうは言ってもホーリーは、たかだかレア度2のスライム属だし。
魔族から本気の殺気を向けられたりしたら、恐慌状態になるのは当然だと思う。
本当~に!可哀想だ…。




