戦い終わって…①
「ぐはぁっ!」
突然の腹への衝撃。
な、何がおきたんだ…!
目を開けると、ブラウが二カッと笑っている。
「メシだぜっ!起きろ!」
…飛び乗る事はないだろう。
なんでこんなに元気なんだ…。ガキの体力、ハンパねぇ…!
ブラウに引っ張られ、カフェに移動すると、そこには、ダンジョン内のモンスターやドワーフ達まで含め、全メンバーが揃っていた。
テーブルには、大量のご馳走とお菓子。
皆楽しそうだ。
「皆すごく頑張ってくれたから、今日はお疲れさまパーティーやろうと思って」
ゼロが思いっきり、食べ物も飲み物も召喚したらしい。
「すっげえ!こんな美味そうなの、食ってもいいの?」
「酒はねぇのか!?」
大人も子供も、人間もモンスターも、もう混ぜこぜで、好き勝手に飲み食いして騒いでいる。
「皆、今日はお疲れ様!皆が頑張ってくれたおかげで、プレオープンは大成功だったよ!今日は好きなだけ、食べて、飲んでね~!」
ゼロがそう言うと、皆、わぁっ!と盛り上がる。
その日の宴会は、夜遅くまで続いた。
翌朝…というか、ほぼ昼?
ゆうべ遅くまで騒いだのが悪かったのか、俺は相当寝過ごしてしまったようだ。
「あー、やっと起きたね、ハク」
「さすがに寝過ぎよ?」
10日目のスタートは、かなりグダグダな感じで始まった。
「待ちきれなくて、新着とか、スラっち達のステータスとか、もう見終わっちゃったよ」
「あー、悪ぃ。…なんか、面白いのあったか?」
俺の問に、ゼロとルリが勢いこんで答える。
「スラっちが、インパクトウェーブ、っていうスキル覚えてた!」
「スライムメイジAはスピードダウンとディフェンスダウン覚えてたわよ」
…マジか。
スキル:開眼、スゲーな。
スラっちと、スラっちが分裂して誕生したスライムメイジAは、開眼というスキルを持っている。
戦った相手のスキルを覚える事ができる、メチャ羨ましいスキルだ。
確かに、新たなスキルを覚えたらいいと思って実戦投入したワケだが…いや、ホント羨ましい…。
昼メシ後、応接室に集まって、昨日の振り返りを行う。
メンバーは、ゼロ、俺、ルリ、ユキ、マーリン、ブラウのマスタールーム組と、カフェ代表のオレンジ、ご褒美ルーム代表のミズキ、ダンジョンの店代表のホビット、…そしてなぜか居るカエンの計10名だ。
「カエン、ギルドはいいのか?」
「ああ、今はバイト君がいる時間だからなぁ。大丈夫だ。それに王室サイドの感想とかも要るかと思うしな」
…もう王室サイドの話を聞いてきたのか。相変わらずマメな守護龍だ。
「えっと、今日集まって貰ったのは、あさっての本オープンの前に、昨日実際にダンジョン公開してみて気になった事を共有して、改善しておきたいと思ったからなんだけど…」
ゼロが口火を切った。
「一斉に話すと混乱するからなぁ。各々の持ち場ごとに、順に話した方が纏まると思うぜぇ?」
カエンがさりげなく会議の進行を助ける。きっとあれだな、会議慣れしてるんだろう。
「じゃあオレンジ、カフェから報告してくれる?」
ゼロから指名され、オレンジが元気よく話し始めた。
「昨日は席につけないで、立ち見しているお客様や、練兵場の席についているお客様もいらして…カフェは本当に戦場のような忙しさでした」
そうだよな。
カフェが一番大変だったと思う。
「うん、僕も人数足りなかったんじゃないか、って反省してたんだ」
ゼロの言葉に返ってきたのは、意外な反応だった。
「皆で相談したんですけど、人数を増やすより、セルフサービスの部分を増やした方がいいんじゃないかと思うんです」
えっ、どういう事?と、ゼロも驚いている。
「ほとんどの方が、飲み物と、ポテトやホットドック、サンドウィッチみたいな持って食べられるものを注文するので、使い捨ての紙の容器にするだけでも洗い場と注文係の仕事は相当緩和されます」
それを聞いて、ゼロは納得したように頷いた。
「そっか、ファストフードのイメージか。飲み物は自販機でもいいのかも。…カタログにあるのかな…」
よく分からない、呪文のような事を呟いている。暫く考えた後、「後で、たっくさん売れたもののランキングくれる?」と頼んでいた。
きっと何か、思いついたんだろう。
「人数は今の人数でいけるの?」
「はい!大丈夫です!皆やる気です!」
元気いっぱいに答えるオレンジ。
「あの客足を、ホントうまい事こなしてたぜぇ。ウチのギルドに欲しいくらいだ。チビ達も頑張ってたしなぁ」
カエンの客観的な意見を聞いて、皆安心する。
「じゃあね、カフェは今日造り変えてみるから、使ってみて、明日また意見くれる?」
「はい!楽しみです!」
一番心配だったカフェは、ゼロも考えがありそうだし、何とかすんなり改善できそうだな。
「じゃあ、次は…ダンジョン内の店、いこうか」
代表で来ているホビットが立ち上がる。
「いやぁ~、オラ達は逆に暇持て余しちまって。プリンス・ロードはそんなに客がバンバンは来ねぇから、ドワーフのじいちゃん達が相手して良い気がするけどなぁ」
…確かに。1日で入る冒険者の数は少ないから、それでいいのかも知れない。売れたものからその場で作って貰えれば、補充のサイクルも短くなるし。
「プリンセス・ロードやキング・ロードは問題ない?」
「人数はあれでいいなぁ」
すると、マーリンが「あのぉ、防具の店には、着替えられる所が欲しいですぅ」と口を添える。
確かに、単独冒険者がその場で着替えて、目のやり場に困るって言ってたっけ。
「それもですけどぉ、純粋に女性の冒険者の方が、困ると思うんですぅ」
せっかく買ったのに、衆人環視のモニターの前でしか着替えられないのは可哀想だ、という事らしい。もっともだな。
「うん、着替え室は作ろう。他になければ、次はご褒美ルームね」
知的美人エルフ、ミズキが立ち上がる。
「わたくし達も、基本的には忙しくはなかったですわ。クリアできたのは結局6名だけでしたし。スキル教室を営業しながらでも、対応可能だというのが、皆の意見ですわ」
…そうだな、スキル教室、真剣に考えねぇとな…。
考えていると、なぜかミズキが俺の方をチラチラと見ている。
「?…どうした?」
「あの…最後の単独冒険者の方、格闘スキルを習いたいんだそうです。武器を奪われたりした場合、絶対に必要だと…」




