そろそろボス戦②
ゴオォォォォォォッ
激しい炎が辺り一面に広がる。
まさに地獄の業火。
スラっちが凄いって事は十分過ぎるほど伝わるが…カエン…元スライムに、一体どんだけ強力な魔法教えてるんだよ…。
炎にまかれ、真っ青になって逃げまどう冒険者達。
少し可哀想になってきた。
炎が出せたのが嬉しかったのか、スラっちはビカビカと七色に光りながら、可愛く飛びはねている。
その平和な感じと地獄の業火…ギャップが凄い。カフェからは「なんだ、あのスライム!スゲーぞ!」的な声が上がり始めた。
良かったな、スラっち。
ちょっと分かって貰えたみたいだぞ!
一方、冒険者達は既にジリ貧の状態だ。最後の魔力を回復に使ってしまい、後は戦士の攻撃に頼るしかない。
ここにきて、終始ふざけ気味だった戦士が、呼吸を整え、集中し出した。
身体中に気が漲ってくる。
…まさか、何か大技を持っていたりするんだろうか。
「ハアァッ!!」
気合い一閃!
戦士が剣を振り下ろす。
激しい衝撃波が、スラっち目がけて走り抜けた。吹っ飛ばされるスラっち。
「スラっち~~~!!」
マスタールームでは悲鳴がこだました。
スラっちは派手に壁にぶつかると、勢いよく跳ね返り、コロコロと転がり…
「ス……スラっち……?」
…いやいや、防御力は高いんだ、これ位では死なないだろう、と分かっていても、ムダにドキドキする。
コロっと転がって起き上がった(多分)スラっちは、なんだかパックリと切れ目が入っている。
「うわぁッ!スラっち~~~!!」
「スラっちが切れてる~~!」
マスタールーム、大混乱。
「かっ!かかかか回復っ!」
慌てふためいているが、ここからじゃ何も出来ない。
スラっちの身体がキラキラと輝くのを見て、俺達はやっと落ち着きを取り戻した。
キラキラと同時にパックリ切れていた部分が見る間にふさがり、ツヤっツヤのプルっプルに戻る。
それを見て、絶望の表情を浮かべたのは冒険者達だ。
「…マジかよ。回復しやがった…」
「これ、もう打つ手無しでしょ…」
そんな冒険者達の様子に、カフェの観客達の反応は様々だ。
冒険者達と同じく呆然としている人もいれば、反撃しろと檄を飛ばす人、果てはただただ爆笑している人もいる。
ショボいと思ったスライムが、まさかの強敵。否が応でも盛り上がる。
「…でもさ、さっき、パックリ切れてたよね?斬撃は効いてるんじゃない?」
「そっか、回復する間もねぇくらい、連続でブチ込めば…」
あの攻撃が矢継ぎ早に来たら、さすがのスラっちでも、ヤバいかも知れない。
恐ろしい計画が進行中だと言うのに、何故だかスラっちは、さっきからプルプルしたり、ポヨンポヨン飛び跳ねたり、謎の動きを続けている。
頼むから、遊んでないで早く決着を付けてくれ!
俺達の祈りも虚しく、戦士がまた呼吸を整え、集中し出した。
戦士の身体中に気が漲ってくる。
スラっち!ヤバいって~!
そう思った瞬間、スラっちがひときわ高く飛び跳ねた。
どこからともなく現れる、沢山のスライムやポイズンスライム達。
あれよあれよと言う間に、次々と冒険者達に飛びかかり、冒険者達はスライムに埋もれてしまった。
カフェはもちろん、マスタールームも呆気に取られている。
…何が起こったんだ?これは…。
「……あ…、スライム、一斉攻撃…?」
ゼロの呟きに、はっとする。
そういやあったな、そういうスキル!
技が決まったのが嬉しいのか、またも七色に光りながら、ポヨンポヨン飛び跳ねるスラっち。
それにつられるように、集まっていたスライム達が一斉に飛び跳ねる。
か…可愛い…!
完全にノビてしまった冒険者達を見て、ゼロがアナウンスを流す。
「プリンス・ロード挑戦者の皆さん、惜しくもボス戦、敗退です。皆さん、彼らの健闘に惜しみない拍手をお願いします!」
盛大な拍手と共に、プリンス・ロードの戦いは幕を閉じた。
ホッとしながら、プリンセス・ロードの単独冒険者に目を向ける。
彼はすでに中間ゲートを越え、ダンジョン奥に進んでいる。たった1人で戦っている割に、ここまで進めれば大したもんだ。
…あれ?
「…なぁ、マーリン。あいつ、装備変わってないか?」
ダンジョンに入った時は、細身の剣にレザーアーマーだったと思うが…なんだか今は、少し刀身が反った凝ったデザインの剣に、アーマーを始め、全体的に装備が強化されている気がする。
「はい。この人、入る店入る店で武器や防具を買っては着替えるんですぅ~」
目のやり場に困るんですぅ、とマーリンは眉が下がっている。
見た目イケメンなのに、人前で着替えるのが恥ずかしいとか、そういう細かい事は気にしないタイプらしい。そういや戦い方も、防御は一切頭にない、豪快な感じだったな。
見ている間に次の店に入る。
リスの獣人がいるってことは、アクセサリーの店だな。
彼はリスの獣人を怪訝な顔で見ている。獣人が店員なのが珍しいのかも知れない。まじまじと見つめていたが、問題ないと判断したのか、買い物に集中する。
「なぁ、リス。売ってる物を見せてくれないか?」
リスの獣人は、困ったように小首を傾げた。
「ん~…指輪、ネックレス、腕輪、足輪、ピアス、イヤリング、髪飾り…他にもいっぱいあるよ?どんなのがいいの?」
「全部見せてくれ。付加効果があるなら、その説明も」
ひとつひとつ、丁寧に説明し出すリス。
いちいち頷きながら、真剣に説明を聞く冒険者。
え…これ、いつまでかかるんだ?
「さっきからずっとぉ、こんな感じなんですぅ」
うんざり、と言った顔でグチるマーリン。確かにこれを見守るのはめんどくさいな。




