食わせ者なのは
「良かった、来てくれたんだ」
ゼロがホッとしたように息をつく。
カエンはそんなゼロの頭を乱暴にクシャッと撫でて、早速モニターに歩み寄った。
「で? どいつだ?」
「そこのハクが見てるモニター」
「ほう。スライムロードに二人で挑むとは、なかなか腕がたつようだな」
「実質一人みたいなもんだけどな。その暴言吐きまくってる従者が凄腕で」
モニターを覗き込むカエンに、一言だけ説明した。あとは実際に見て貰った方が早いだろう。
しばらく黙ってモニターを眺めていたカエンは、面白そうに「ほう」と呟き、俺を押しのけてドッカリとモニター前の椅子に陣取った。
どうやら本腰を入れてこの珍道中を見守るつもりらしい。
モニターのこちらで面白がられているとも知らず、怒りのそばかす従者はもはやでてくるスライム達なんかものともせずに、一刀両断切り伏せてあっという間にボス部屋の前まで来てしまった。
扉を前に、そばかす従者は恨めしげな顔で第八王子を振り返る。
「あのスリの子供を従者にするなどと仰る時点でクリームヒルト様の選定基準には異論があります。せっかくですが先ほどの推薦の話は辞退いたしますので、後任の選定は必要ありません」
対する第八王子はパチパチと目をしばたたかせ、心外だ、という顔をして見せる。
「おや、ファンテ。それはちと余を見くびり過ぎではないか? 余は国政とかはややこしくて好かぬが、こうみえて人を見る目だけは自信がある。宰相のエッフェンも事務次官のアーソリッドも、ルキエンもフォルスもマリスクアも、余が見出したのだよ」
「国、動かしてるメンツじゃないですか……!」
あ、敬語がうっかりあやしくなってる。相当驚いたんだろうなあ。そばかす従者ときたら目ん玉飛び出しそうだもんな。
「うむ、評価基準がカラギナと同じなんだろう。そうでなければあのカラギナが余に人材確保のような重要事、依頼するわけがないだろうに」
「う、そ、それは」
「ああ、懐かしいねえ。あの子達も一癖もふた癖もある子達だった。最初は今のおぬしのように不安げで、カラギナの元へ行くのを渋ったものだが、今や国政を司る主要人物だ」
「しかし私は別に、国政に携わろうなどと、大それたことは」
なおもぶちぶちと言い募るそばかす従者を、まるで甘い父親のように優し気な瞳で見ている第八王子。のほほんとして見えるが、こちらも意見をひるがえす気はないようで、穏やかに言葉を重ねていく。
「ファンテ、おぬしはまだ若い。国の中枢に身をおける機会はそう多くは無いのだよ。カラギナは切れる男だ。その傍で学び、自身の才を伸ばして身の糧にするといい」
「……」
言い返せる言葉がなかったのか、すっかり大人しくなってしまったそばかす従者は、力なくボス部屋の扉を開けた。
こんなに消沈した様子でスラッちと対戦するなんて大丈夫なんだろうか。他人事ながら心配だ。
やきもきしていたら、突如隣からあー……という、ため息のような声が聞こえてきた。
「カエン?」
「ああ、悪りぃ。つい、なあ」
「いや別に。ていうか、カエンがため息とか珍しいな」
豪快さがウリの火竜だけに、いつもはうるさいくらい笑ってるんだが。
……ああでも。
苦手らしいこの国の王子サマとか、面倒なレジェンドの爺さん達とか、よそのギルドのマスターとかの事になると、時々ため息ついてた気もする。
うん、よく考えたら別段珍しくもなかった。
「カラギナって名前には聞き覚えがある。確かリーンカライブって国の第二王子だ。あとは宰相のエッフェン、ルキエンってのは外交担当大臣だろう」
「ふーん、なんか面倒なのか?」
ため息をつくってことは、それなりに対応が難しい国なのかもしれない。
「うちとはソリが合わねえんだよ。さっきあの昼行燈みたいな王子が言ってただろう。みんな一癖もふた癖もあるってな」
「言ってたな」
「カラギナ王子なんかはその最たるもんでな、言葉の裏にいくつも別の意味を潜ませてきやがるから面倒なんだよ。こっちは冒険者あがりの脳筋も多いメンツだろ? 色々話がかみ合わねえ」
うわあ、容易に想像できるわ。
「あの第八王子だっつったか? あいつも、見かけ通りの御仁じゃねえぞ。多分、腕も相当たつんじゃねえか? 強い匂いがプンプンしやがる」
「ご明察」
さすがカエン。そうなんだよな、実はこの王子様……といっても、年齢は38歳らしいけど……実は意外な事にそばかす従者よりも戦闘能力は高いんだ。
ちなみに獲物は杖らしいけど、ぱっと見所持していないように見える。知力はそばかす従者の二倍はあるし、魔力も高い。万能タイプの魔法戦士だった。
ちょっと戦ってるところを見たいくらいだ、と思っていたんだが。
「ファンテよ、そういえばここの主はかなりの手練れだときいておる。余も手合わせしたいものだと思っておったのだが」
「……お気持ちはわかりますが、お怪我を負わせるわけには参りません」
「しかし傷はすべて癒してもらえるのであろう? 命の危険もないと聞いた。良いではないか」




