ついに決着
凄まじい音が何度も響き渡るだけで、モニターからは何も視認出来ない。ただただ眩しくて、目を開けてもいられないほどの光が溢れ出ている。
ようやく音と光がおさまった時、モニターの中に見えたのは、衣服も体も傷だらけのススだらけで転がる挑戦者達の姿だった。
スラっちとイエローは…
あ、部屋の端までぶっ飛ばされてる。
あまりに爆発が凄まじかったせいか、モニター内のボス部屋はもちろん、カフェまでもが静寂に包まれていた。観客達ですら息をのみ、声を発することを忘れてモニターを凝視している。
数秒の間の後、若草色が僅かに動いた。
「スラっちです!スラっちが最初に動きました~!!」
キーツの絶叫アナウンスが響き渡る。
「これは激しい爆発でした!術者も予想外の爆発だったもようです!挑戦者の皆さんは大丈夫なんでしょうか!?」
安全対策は万全だから、死亡はないだろうが、気絶は充分にあり得る。ざっと挑戦者達のステータスを見ていたら、モニターから呻き声が聞こえてきた。
「く…っ!巫女…殿…!」
どうやら幻術士は、あの光の爆発を耐え抜いたらしい。満足に動かない体に鞭打って、なんとか回復呪文を唱え出した。
キラキラ輝く光を纏い、ぎこちないながらも動き出した幻術士は、巫女殿とジャガイモ侍の頸動脈に触れ、安心したように長い息をつく。
「……良かった。意識を失うだけですんだか」
次いで、潰れたような変な形で部屋の隅っこに転がるイエローにそっと近づく。
「………」
「………」
困ったように手を差しのべては引っ込めてるけど、一体何がしたいんだか。項垂れた幻術士はため息をひとつつくと、無念そうに呟いた。
「……無事かどうかの判断基準が分からぬ…」
ああ、なるほど。どうやら、イエローを心配してくれたらしい。
残念ながらイエローも巫女殿もジャガイモ侍も、ステータスは揃って「気絶」。残るは幻術士とスラっちだけとなった。
まぁこれはこれで、結構面白いカードかもしれない。幻術士もまだ底が知れない感じするしな。
早速呪文を唱え始めた幻術士をワクワクしながら見ていたら、なんとスラっちの体がキラキラと光り始める。この光、どう見ても回復魔法にしか見えないんだが。
スラっちも不思議そうに(多分)体を右に左に揺らしている。
「…礼じゃ。先ほど魔王殿が皆に守りの術をかけてくれなんだら、命がなかったやも知れぬでな」
幻術士はちょっと眉を下げて困ったように笑っている。スラっちはそれに応えるように軽く跳ねた。…残念ながらスラっちがどう思っているかは俺にはサッパリわからないが。
「降参じゃ。我一人の力では勝てまい。此度は世話になった」
なんと!ギブアップか!
「ギブアップ!ギブアップです!残念ながら自爆となってしまいましたが、これまでで最大規模の光魔法を見せてくれた挑戦者の皆さんに、大きな拍手をお願いします!」
終了を告げるキーツのアナウンスに、カフェからは盛大な拍手が巻き起こる。
「魔王殿とはまた手合わせ願いたいものじゃ」
そう言い置いて、幻術士は拍手の中ボス部屋を出て行った。スラっちはちょっと寂しそうに跳ねている。
あ~あ…面白くなると思ったのに。
「いいぞ、巫女姫!」
「さすがスラっち!」
「ウザ侍を一発殴らせろぉ!」
幻術士の姿が見えなくなっても、カフェからは賞賛も罵倒も混じった様々な声が響き渡っている。武闘大会が終わっても、やっぱりダンジョンは通常運転だった。
お客様達が帰って一息ついたら、いつも通りちょっとだけ昼寝の時間だ。俺の至福のひと時……。
しかし至福のひとときなんて、あっと言う間に過ぎてしまうもんなんだよな…。
「オラ、さっさと起きろ。今日の議題はお前達のダンジョンだろうが」
何故かカエンから叩き起こされて応接室に向かってみれば、そこには既に臨戦態勢の面々が。
「あ、起きたんだね。なんか気持ち良さげに寝てるから、起こすの偲びなくってさ」
「だから甘やかすなっつってるだろうが。第一こいつは寝過ぎなんだよ」
俺にデコピンを入れながら、ゼロにもすかさず説教するカエンに若干イラっとくるが、事実だから何も言えない。確かに俺はこのダンジョンのメンバーの中で最も寝汚い自覚はある。
「ほらほら、そんな事よりダンジョンの話しましょ!時間は有限なのよ?」
珍しくルリに助け舟を出された!
いや、単に本気でダンジョン話したかっただけかも知れないが。
そうだった、今日の議題は俺達のダンジョンをどう改築するかだ。




