カエンの考え
「子供が多いならさすがに夜の街はねぇ。人を寄せるにしてももう少し工夫が必要だし、子供の生活に必要な施設も優先で考えなきゃでしょ?」
そりゃあな。
「子供の生活に必要な施設か……。学校とかか?」
「病院とか、図書館とかも必要ですよね?」
ライオウとラビちゃんも会話に加わり始める。そうだよな、ラビちゃん達のダンジョンなんだから、二人の意見がなるべく多く反映出来る方がいい。
ただ、俺的に気になってる事もあるから、その点だけは先に投げかけておいた方がいいだろう。俺はおもむろに口を開いた。
「まぁ、普通の生活に必要なものは大まか要るだろうな。どっちにしても重要なのは外部の人間を定期的に集める算段の方だろ?」
一呼吸おいて、俺はカエンに目を向けた。
「そこでちょっと確認しときたいんだが」
「この国って冒険者の質と量で成り立ってたってイメージがあるんだが……他に何か資源とか産業とか、あるのか?」
俺達のダンジョンがある街アルファーナは、冒険者が集まる街。冒険者だった初代王と、その仲間だった火龍のカエンが、その武力でもって拓き統治してきた国だ。
だからなのか、今でも各国から魔物の討伐や護衛などの様々な依頼が入るほど、この国の冒険者は信頼性が高い。冒険者はこの国にとって名産品であり、唯一の収入源なんじゃないだろうか。国も貧乏みたいだし、ぶっちゃけ他に資源とか……思いあたるものが何もない。
案の定、カエンは苦い顔で頷いた。
「特にねえなぁ。鉱石もでなけりゃ畜産や農業も足りてねぇくらいだ」
やっぱり。
「冒険者で成り立ってる国だからなぁ。冒険者になる事がステータスなんだ」
なるほど、優秀な奴ほど冒険者になっていくわけか。有名になれば実入りは相当いいが、そのレベルになるまでの死亡率が高い。孤児が発生する可能性も高い上に現役で働ける期間も短い。
勇名を馳せる勇者が多いなら他国からの侵略は少ないだろうが、内政的には問題も多いよな…。
レジェンドと呼ばれるほど強い冒険者がいた頃に比べ、強力なダンジョンの減少でかなり冒険者自体の質が落ちてきているって聞いたし、そろそろ他にも国力を上げる施策が必要なんじゃないかな。
「その話は出るっちゃ出るんだがなぁ、国の中枢にも冒険者上がりが多いから、いつも立ち消えになるんだよなぁ」
俺の提案にカエンは眉を下げる。どうやら国の中枢の御仁達も、総じて血の気が多いらしい。…お国柄なんだろうか。
しかし恐れていた通り、やっぱり冒険者が唯一の名産品なのか…それ、かなりマズイんじゃねぇのか?
ぶっちゃけ新規ダンジョンを国営化していったら、ローコストで色々なものが造れるかも知れないが、さっきの話でいくとその代わり新しいダンジョンが出来なくなるわけだよな?
いよいよ冒険者達は近場で冒険できる場所がなくなって、レベルが上がらないどころか失業とかの憂き目にあうんじゃないか?
唯一の名産品すら風前の灯じゃねぇか。
何考えてんだ、いったい。
「あのぉ……さっきからハクさんがさらに怖いですぅ。なぜにカエンさんを睨んでるんですか~?」
ラビちゃんに涙目で訴えられてしまった。どうやら不満が顔に出てしまったらしい。
ごめん、ラビちゃん。
怖がらせた詫びに、俺の懸念を正直にカエンにぶつけてみる。
「いや、冒険者の質と量でもってる国なら、むしろ普通のダンジョンがどんどん出来て、冒険者が鍛えられる仕組みの方がいいんじゃねぇかと思ってさ」
カエンは何故か、それを聞いてニヤリと笑った。
「国営ダンジョンが増えたら、国内にダンジョンが出来なくなるだろ?冒険者達が失業しちまうんじゃねぇか?」
「だろうなぁ。だがそれも計画の内だ」
自信ありげにニヤニヤと笑うカエン。意味がわからない。
盛大に?マークを飛ばす俺達を見て、カエンはしょうがねえなぁ……と呟いてから、事情を話してくれた。
「まぁ確かにハクの言うとおり、ここは冒険者の質と量でもってる国だがなぁ。俺様と王の理想とは違うっつうのが現状だ」
王様とカエンの理想……そんなもんがあったのか。
「今はほどほどの質の冒険者を大量に確保してるっつう状態だな。冒険者の質もピンキリで、精鋭を育てるために大量の冒険者を投入してる。……だが上に上がっていくのは本当に一握りだ」
カエンはまた苦い顔をした。仕方ない事だが、間で命を落とす若者も多いからだろう。
「しかも近場の中級のダンジョンはある駆逐されてるもんだから、そこでレベルアップが止まっちまって、他国から潰して欲しいって要望が強い上級ダンジョンには手が出せねぇ」
……マジでか。
イヤなパターンの中抜け現象だな。
「他国の事なんざ放っとけって意見も多いわけだが……ダンジョンの進化の速さをこの目で見たら、対抗でき得る戦力を作るべきだと正直思う」
まあ確かに俺でもそう思うな。
「それでだ。俺様達が目指したいのは、少数でもいい、上級ダンジョンと渡り合える質の冒険者……精鋭の育成に切り替えるって内容だ」




