武闘大会スタート!
「だよな!こんな目立つ奴忘れねぇよな。」
「鞭使いも少なかったしな」
バトルマスターと犬耳紳士も同意する。これはとぼける事も出来ないパターンだ。ゼロ…予選会とかあったならせめて教えといてくれよ…。
「予選会には出てないな。そんなもんがあったってのも今知ったくらいだ」
しょうがないから正直に言ってみた。
チャラたれ目は納得、という顔で頷いている。
「やっぱり!」
「そんなのアリなのか?」
一方驚いているのはバトルマスターだ。こっちが普通の反応だよな。犬耳紳士は顎に手を当て、思い出すように呟いた。
「数名シード選手がいるらしいからそれかもな」
「あっ、俺もそれ噂で聞いた。レジェンドとかだろ?」
「レジェンド?」
興奮気味のチャラたれ目に、思わず聞き返してしまった。レジェンドって…まさか。
「凶悪な魔物をバッタバッタ倒しまくって根絶やしにしちまったっていう、黄金期の冒険者達だよ!もうかなりの爺さんらしいがめちゃ強だって言うぜ?」
間違いなく、あの爺さん達だな。
「俺はそのレジェンド達と戦ってみたくて、この大会に出る事にしたんだ」
犬耳紳士がそう言うと、チャラたれ目もバトルマスターも、俺も俺もと声をあげる。キラキラした瞳で少し頬を紅潮させている姿は、まるでヒーローを前にした少年のようだ。
あの爺さん達ってそんなに有名人だったんだな。この分じゃ爺さん達お目当てで参加した奴らは相当多そうだ。
「でもさー俺カエンとも戦ってみてぇよ」
「分かるな、ガチで闘ってみたい相手だ。なんせ建国からの守護龍だからな。勝負して勝ったという話は聞いた事がないもんな」
「威圧感ハンパねぇもんなぁ。勝てる気はしないけどさぁ。あ~…俺もし…もし優勝したら、賞品それにしてもらおうかなぁ!」
なんだそれ。優勝したらそんなお願いもできるのか? 俺武闘大会の仕組みむしろ知らな過ぎじゃねぇのか…。
それにしても、相変わらずチャラたれ目と犬耳紳士が楽しそうに盛り上がっていると言うのに、カエンの話が出てからめっきりバトルマスターが大人しくなったのが笑える。こいつはその昔カエンにギタギタにのされてから、カエン恐怖症になってるらしいからこの話題は嫌だろうな。俯いて黙々と歩いてるのが何気に面白い。
そうこうしてる内に闘技場についた。
ウオオォォォオオオォォオ!!!
闘技場は地鳴りのような歓声で沸き返っている。
「凄い歓声だな」
あまりの煩さに耳を塞ごうとした時、場内に高らかなアナウンスが響き渡った。
「開始5分!あっという間の決着です!!勝者ローディス・マルトルさん、2回戦進出おめでとうございます!皆さん惜しみない拍手を!!」
マジか!もう決着がついたのか!
闘技場の上では、どでかい斧を担いだムキムキの大男が斧を高く空に突き上げ声援に応えている。あまりのスピード決着に呆然とそれを見ていたら、今度は奥の方からまた歓声があがる。背後のカフェからも歓声が聞こえるから、いつものごとくカフェのモニターにも戦闘状況が映し出されているんだろう。
「奥に行ってみるか?」
バトルマスターがズンズンと人を掻き分け奥へ進んでいく。俺達4人の中ではこいつが一番ガタイがいいから、通った後には一瞬道ができ、後ろをついていくと楽に奥まで辿りつく事ができた。
奥ではもう一つの試合が執り行われている。しかもかなりの接戦らしく、周りの観客達の熱狂ぶりも凄まじい。
「幾つかに分かれて同時進行で試合してるんだな」
感心したように犬耳紳士が呟く。武闘大会の開催期間は3日間だ。確かにあの大量の出場者を捌くには、1つの闘技場では追いつかないだろう。
「これなら2階から見た方がいいかもな。迫力には欠けるけど、高い場所からの方が両方見渡せる」
俺の提案で上った2階からの眺めは、予想よりも凄かった。
人混みが酷くて1階の会場では分からなかったが、闘技場は全部で4面設けられ、その一つ一つの闘技場横の壁面には戦況を余す事なく映し出す巨大なモニターがつけられていた。モニターの横に1、2、3、4と、番号が振ってあるから、闘技場は番号で管理されてるんだろう。
しかしいつの間にこんな大改装したんだ。
昨日までは普通だったぞ…?
驚きと共に会場を見回していたら、なんだか見覚えのある若草色の物体が目の端を掠める。
あれは…スラっち?
天井のど真ん中から吊り下げられたガラス張りのボックスの中で、スラっちが大興奮で飛び跳ねている。
跳ね過ぎて時々天井にぶつかってるし。
なんであんなところに…。
まぁ観客席に混ぜるわけにもいかないか。
スラっちも嬉しそうだしこれでいいんだろう。それにしても端っこに寄ってなんか夢中で見てるみたいだな。
スラっちが寄っている方の闘技場3を見て納得だ。あの戦士の爺さんが豪快に笑いながら、楽しげに戦闘中だった。




