武闘大会、控え室②
そりゃあもう特殊効果付きと言えるだろう。見た目普通の服だが、指定転写のスキルを使って強化しまくってある。
ただ、それをバラす必要もないわけで…結果、にっこり笑ってこう答えた。
「秘密だ」
返ってきたのは三者三様の反応。
面倒臭いバトルマスターは「なんだケチだな。教えても減るもんじゃなし」と苦い顔でボヤいてるし、犬耳紳士は何故か頷きつつ微笑んでいる。チャラいタレ目に至っては「そりゃな~!普通敵に手の内明かさないよな~!!」とか言いながら楽しげに笑ってるし。お前は箸が転がってもおかしい年頃の乙女か。
「じゃあその武器だけでも教えろよ」
面倒臭いバトルマスターが食い下がる。やっぱり面倒臭いなこいつ…。仕方ない、鞭くらい見せてやるか。これ以上渋って変に注目されるのも得策じゃないからな。
腰のベルトからおもむろに鞭の柄を抜き取ると、三人は揃ってけげんな顔をした。
まぁ、ベルトにさしてる時は鞭部が出てないから、柄部分だけだとなんだか分からないよな。
「これは…鞭だ」
軽くボタンを押して、鞭部分を見せてやる。ワンプッシュで飛び出してきた鞭を見て、三人は気持ちいいくらいビックリしてくれた。
「 おおっ!?鞭が飛び出た!?」
「えっ、どうなってんのコレ!」
「鞭!!!」
あまりの驚きっぷりにちょっと嬉しくなって、いつかのドワーフ爺さんみたいにボタンを連打して鞭部を出したり入れたりして見せる。
「おおーーー!!すげぇ!!」
「これは…!面白い仕掛けだな」
バトルマスターと犬耳紳士は感嘆の声をあげ、チャラたれ目はまたも盛大に笑い始めた。
「鞭が収納式って、すげぇけど…すげぇけど…!収納しても意味ないし!!超ムダ過ぎっ!!」
体を折って笑い転げている。
むかつくが…うん、まぁ…俺も最初はそう思ったからなぁ。
しかしこのチャラたれ目がバカみたいに笑うせいで、変に注目を浴び始めている。ヤバい…目立たないようにって思ってたのに。完全に悪目立ちしてる。突き刺さってくる周囲の視線にいたたまれなくなってきた時。
開会を告げる大きな銅鑼の音が鳴り響いた。
続いて控え室に静かなアナウンスが入る。
「ただ今、開会のお言葉を王様より頂戴しております。開会式が終了次第、1回戦をスタートします。赤の1番、2番の方、扉へ進んで下さい」
控え室にも一瞬ピリッとした空気が流れる。
いよいよ武闘大会スタートだ!!
扉が開いてドレッドヘアの男と、どでかい斧を担いだムキムキの大男が控え室から悠然と出ていく。
第一試合はあいつらか…。
「扉をでたら1番の方は赤の魔法陣に、2番の方は青の魔法陣に進んで下さい」
なるほど、そういう仕組みか。
…ていうかこのアナウンスはゼロか?
キーツは…ああそうか、武闘大会のアナウンスをキーツがやってるから、裏方のアナウンスをゼロが担当してるんだな。今回は武闘大会の運営については一切知らされてないから、ちょっとした事にも驚きがある。
「それでは控え室の皆さんは、受付で渡されたインカムを装着して下さい。試合時刻15分前に個別にご連絡いたしますので、それまではご自由にどうぞ」
おおっ!とどよめきが起こる。
ここにもモニターはあるが、やっぱり他の奴の試合も生で見たいもんな。30分一本勝負のトーナメント方式だから、一つ一つの勝負をじっくり見る事ができる。
スラっちじゃないが、特に爺さん達は気になるしな。
早速試合を見に武闘会場に移動しようと歩き始めた途端、後ろからいきなりのしかかられた。
「試合見にいくの?俺も行く!」
チャラたれ目か。重い。
こいつはニコニコしてるけど目の奥は笑っていない… 底が知れないタイプだからぶっちゃけ苦手なんだよ。
「悪いが敵と馴れ合う気はないんだ。ツレもいるしな」
ハッキリ断る。
「まぁそうつれない事を言うなよ。しばらくはお互いあたらなそうだぞ?」
犬耳紳士が取りなしてくるが…確かに受付で配られたハチマキの色はバラバラで、ちなみに俺は青だ。
色がトーナメントのブロックを表してた筈だから、そうなると俺達は決勝戦まで勝ち上がらないと当たらない事になる。
俺は葛藤した。
面倒だからここでこいつらとはオサラバしたい。でもうまい口実を思いつかない。
「ツレがいる」を強調して「ではその人も一緒に」とかなると余計ややこしい。悩んだ末ひとまず一緒に行動して、切りのいいところでバックれる事にした。
「しょうがないな…じゃあとりあえず行こうぜ。モタモタしてると試合が終わっちまう」
会場に向かって歩きだすと、バトルマスターも一緒についてきた。人間ってなんだかんだ言って集団行動好きだよな。
歩きだすと、チャラたれ目が俺の顔を覗き込んで眉間に皺を寄せ始めた。
「なんだよ」
「いや、やっぱり見覚えないなと思って。あんた予選会にいた?」
予選会…そんなもんもあったのか。




