武闘大会、控え室①
そうか、スラっちだって本当は出たかったのかもな…武闘大会。特に爺さんズとは絶対にまた戦いたいに違いない。
「ねぇゼロ、スラっちも観客席に混じっても大丈夫かな?」
「ん~…今日はダンジョンも休みだからそっちは問題ないけど…観客席に混ざるのはまずいかなぁ。仮にもダンジョンボスだからね」
可愛いけど見た目からして明らかにモンスターだしな。確かに一般客に普通に混ぜるのはまずいかもな。
「でも王様にも事情を話して、観戦は出来るようにするよ。ブラウやユキも、ナギ達誘っておいで。一緒にいい席で見られるように工夫するよ」
「もう断られた」
ブラウが不貞腐れたように呟く。
「ナギ達はね、カフェのお仕事が忙しいから無理なんだって」
「武闘大会はかきいれ時だからなっ!…て、すげぇ張り切ってたから」
ちょっと寂しげなユキとブラウの頭をなでながら、ゼロはそっかぁ~…と苦笑している。
小汚いストリートチルドレンだったナギ達4人の子供達も、今やカフェの重要な戦力だ。確かに武闘大会くらい人が集まるとなれば観戦している暇はないだろう。いやぁ、馴染んだもんだ。
その時、カフェのシルキーちゃん達から通信が入った。
「すみませ~~ん!!!カフェからですけどぉ、王室の皆様が到着されましたぁ~!」
モニターを見れば、王様始めアライン王子、エリカ姫、そして護衛のユリウス達がわらわらとカフェに入ってきている。それを見て、慌ててゼロが立ち上がった。
「じゃあ僕、王様達と打ち合わせがあるから行ってくるね。ハクもそろそろ選手の控え室に行った方がいいよ」
そそくさとゼロがマスタールームを出て行く。その姿を見送って、俺も最後の装備チェックだ。
いよいよか…緊張するなぁ。
「ハク、頑張れよ!」
「行ってらっしゃい!」
「まぁ楽しむのが一番ですからな」
チビ達とグレイが思い思いに送り出してくれる。もちろんルリもニコニコと声をかけてはくれたが…
「クロ様、もしもの時は回復は任せてね♪」
…縁起でもなかった。
しかも回復は自分で出来るし。
今ひとつ勢いがつかなかったが、ここでこうしててもしょうがないしな。早いとこ控え室に入って、雰囲気を掴んでおくか。
「よし、行ってくる!!」
派手な布を颯爽と身に纏い、俺はマスタールームを後にした。
控え室の扉を開けると、ザワザワとした喧騒とムッとする熱気が体を包んだ。
うっわぁ…予想はしてたが…ごっついおっさんばっかだな!
もちろん若いのもキレイなお姉さんもいるにはいるが、圧倒的に数が少ない。しかもおっさん達…このごろうちのダンジョンに来るようになった他ギルドの連中に負けず劣らずガラが悪い。
こうして見るとうちのダンジョンやカエンのとこのギルド員は、それなりに礼義正しくて大人しめなのが揃ってたんだな…と実感する。今回は魔法禁止の武闘大会だから、戦士系の体を鍛えまくった強面装備のゴツい奴が揃ってるせいでそう感じるんだろうか。
ザワザワも全て重低音。
テンションが下がるじゃないか…。
ヤバい。関わりたくない。
こういう時は目立たないに限る。
俺は壁際をゆっくりと進み、控え室の隅を目指した。…こう見えてそれなりに人見知りなんだ、俺は。
「おい、そこの派手なお前!」
いきなり肩を掴まれた。
誰だよ一体。
ちょっとムッとしながら振り返る。
お前は……!!
前にダンジョンで戦った事がある。確か…カエン恐怖症の、色々面倒臭いバトルマスター!名前は忘れた。
お前も出場するのか…。
はっきり言ってそこらのおっさん達よりさらに関わりたくない。これ以上テンション下げないで欲しい。
「…………」
振り返ったはいいが声を出すのも面倒で、無言で視線だけを投げた。
「お前変わった格好だな。鎧もないが格闘家って雰囲気でもないし…武器は?」
返事すらしないのを気にも止めず、ずいずいと顔を寄せてくるバトルマスター。姿も変えてあるからダンジョンボスだとはバレないとは思うが…くそぅ、やっぱり面倒な奴だな。
その上会話が耳に入ったのか、犬耳の渋いおっさんとチャラいタレ目の男まで自然に会話に入ってきた。
「そうだな、俺も気になっていた。一人だけ戦闘とは思えない服装だ」
「そのままデート出来そうだもんね」
この服でデート!?
出来るか?…いや出来るな。
見た目普通の服だもんな。武道着ですらないし。チェインスカート付きのベルトさえ外してしまえばいけそうだ。…って、そんな事はどうでもいいか。
「なぁなぁ、腰のそれ、武器?」
チャラいタレ目が俺の肩にもたれながら聞いてくる。さらに面倒臭いな、もう…。
「武器だが…基本は格闘だ」
「へぇ、格闘家ならその服防御薄過ぎない?それともなんか特殊効果付き?」




