試作品登場!②
同じデカさとスピードなら、ぜったい軽石より岩が落ちて来た方が痛いしダメージがデカい。…なるほど、重さって意外と重要なんだな。
「そんなの簡単じゃない。普段は軽くしといて敵にぶつける時だけ重くすれば?」
事もなげに言うルリ。
「…出来なくもないけど、俺のスキル今んとこ対象物触らないと発動しないんだよ」
そう、それがネックなんだ。だから戦闘中はいつでも触れる所にオリハルコンや鉄、布なんかを貼り付けた転写素材を仕込んでいた。
「しかも基本上書きだからな、元には戻せねぇ」
ティッシュやスプーンは幾らでも予備があるから、さらに上書きで元にも戻せるが…一つしかないものは迂闊に上書き出来ない。
そのうち人にも転写が使えるようになったら、うっかり顔なんか転写したら2度と元には戻せないんじゃないだろうか。
「なんだ元には戻せねぇのか」
さも残念そうに、カエンに呆れられてしまった。スキルの熟練度で変わるのかも知れないが、少なくとも今は無理だ。
「無理だな。まぁ重さくらいなら他のもん転写で上書きすりゃそれなりに操れると思うけど、基本元に戻す概念じゃないんだよ」
カエンばかりか、ドワーフ爺さんまでこれ見よがしに肩を落とす。そんな都合よく行くかってんだ。
「ちっ…元に戻せるなら、必要な時だけ円刀にするとか、使えるスキルだと思ったんだがなぁ」
「ワシも残念じゃ…」
そんな落ち込まれても…。
「まぁでも鞭は機能が増えたし、重さも変えられそうだから、俺これで練習してみる」
「ああ、こりゃイカン。落ち込んどる場合じゃなかったのぅ。まだ続きがあるんじゃ」
ドワーフ爺さんは慌てたように鞭を柄の部分だけに戻し、さらに綺麗な布を取り出すと、それを柄に装着する。
ああ、布との組み合わせでこの前ゼロが持ってきたリボンみたいにも使えるのか。そのために鞭は収納式になってるわけね。
「ああそれ南方の布…にしちゃ細いな」
「でもリボンにしちゃ太いよ」
首を傾げるカエンとゼロに、ドワーフ爺さんは「ちょうど中間の太さじゃ」と笑った。
「布があんまり太いと綺麗な螺旋が描けん、細過ぎると捻じったり物を詰めたり出来ん。間をとったらこの太さになってのう」
軽く振ってみると、柄の先で思いの外布の部分は自在に動く。ドワーフ爺さんの懐から出てきた時は一見ただの棒に見えた鞭の柄は、なかなかどうして優れものだった。
「これで3役はこなせるじゃろ。布は使わん時は南方の民みたいに首に巻いときゃいいでのぅ」
言われた通り鞭の柄から外して首に巻いてみる。後でこれで戦ってみて、邪魔なようならなんか考えりゃいいか。南方の人がこれで戦ってるなら、布のまま使ってみてもいいし。よし、後で練習しよう。
俺の様子を満足げに眺めていた爺さんは、また「よっこらしょ」と立ち上がり、今度はこの前ゼロが持ってきた小さめの輪っかを手に取った。これは直径20cmとか50cmとかサイズは色々だ。
「あとはこの輪っかじゃが、材質は薄いプラスチックで中は空洞でのぅ。小さくて軽いだけに投げたり回したり扱いやすくはあるんじゃが、壊れやすいのが玉に瑕じゃ」
武器としては致命的な弱点だ。
「ちょっと腕にはめてみて欲しいんじゃが…」
言われるがまま輪っかに腕を通す。
「輪っかを回してみてくれんかの」
回す?…こうか?
軽く腕を回すように振ると、輪っかもそれに合わせて回りだし、すぐに遠心力で安定しだした。
「ほう、じゃあ次は足じゃ。腕は回したままでのぅ」
いきなり難易度高いな。
腕は回したままタイミングをみて足首に輪っかを通す。
えーと…さっき腕は回すようにしたから…あれ?足を回すには片足上げないと…でも足は体全体を支えてるわけで、いきなりバランスが難しい。
…せめて足からやりたかった!
苦心しつつも何とか両方回す事に成功した。俺は頑張った!
「やっぱり運動神経がいいんかのぅ」
ドワーフ爺さんは孫を見るような顔で笑っている。ここは俺の努力を褒めて欲しい。
「ほんじゃあこれ持ってみるかの」
それってさっきの鞭の柄…。まさか。
「ゼロ坊が輪っかは棒でも操れるって言っとったからの、ものは試しじゃ」
このままそれも?せめて道具は右手でやりたい。…あ、そのまま両方右で回せばいいのか。
腕に通った輪っかの遠心力が落ちないように気をつけながら鞭の柄を受けとり、柄の先に輪っかをかけて貰う。
「ハク凄い!」
初めてにしちゃ、俺なかなかやるんじゃないか?…まぁ、普通がどうかは知らないが。
「やれるもんだなぁ。これならあいつらみたく、体中で円刀回しながらバク転できそうだ」
カエン…無茶言うなよ。
「やっぱ武器として使うなら円刀だよなぁ」
「わしもなぁ、元に戻せるなら普段は首飾りみたいに作ろうと思っとったんじゃが」
「私、閃いた!」




