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ゼロのダンジョン、進化中!  作者: 真弓りの
ダンジョン改良

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他ギルドの挑戦者達㉒

オネェ呪符使いは辛そうに、でもしっかりと顔をあげて毒舌格闘家と目を合わせた。


「シャウに女になりたいってカミングアウトした時から、いつかはこんな日が来るかも知れないって覚悟はしてた」


「…どういう意味だ」


「アタシはパーティーを抜ける。今はあの子達もいるし、問題ないでしょう?」


あの子達って、男戦士と女アーチャーの事か?少なくともオネェ呪符使いの目に迷いはない。多分ずっと考えていた事なんだろう。


ただ、毒舌格闘家にとっては寝耳に水の話だったらしい。唖然とした顔をしたかと思うと、次の瞬間には般若のような恐ろしい顔になった。


「…くだらねぇ悪ふざけに付き合う気はねぇんだよ。しのごの言ってねぇでさっさと来い!」


毒舌格闘家は再度オネェ呪符使いの腕を乱暴に掴んで扉に向かう。だが、オネェ呪符使いは渾身の力を込めて、その手を振り払った。


「本気よ。分かってるでしょう」


無言で睨み合うオネェ呪符使いと毒舌格闘家。


なんだこの修羅場…。


外でやってくれないだろうか。居心地が悪過ぎる…第一俺達関係ないし…。



いたたまれなくてチラチラ二人を見ていたら、オネェ呪符使いが俺を見て困ったように笑った。


「ごめんなさいね、関係ないのに…。すぐ済むから」


どう見てもすぐ済むようには見えないけどな…。そう言ってしまいたいのをグッと堪える。毒舌格闘家が猛烈に睨んでるから、下手に刺激したくないしな。


オネェ呪符使いは少し目を伏せて、毒舌格闘家の前で項垂れた。


「これでも悪かったと思ってるのよ。 アタシがこうなってから、シャウずっとイライラしてるし」


「当たり前だ。昨日までバカ言って笑いあってた悪友が、いきなり女の服着て気持ち悪い口調でしゃべり始めりゃ誰だってこうなる」


「…そうよね。冒険始めた頃からずっと一緒で…元のアタシを知ってるからこそ余計に気持ち悪いってのも分かるわ」


フン、と鼻を鳴らして毒舌格闘家はそっぽを向いている。オネェ呪符使いはその横顔を見て微笑むと、しっかりと目を上げた。


「まぁ丁度いいじゃない、ここでスッキリすれば。アタシはパーティーから抜ける、それでいいでしょ?」


「…そりゃあお前はそれでいいだろうさ」


初めて毒舌格闘家が力のない声を出した。


「今だって冒険の合間の休みに、こそこそ一人で別の仕事請け負ってたくらいだもんな」


…だから一人だけレベルが高いのか。


確か男戦士と女アーチャーはレベル50くらい、毒舌格闘家がレベル70くらい、そして何故かオネェ呪符使いはレベル80をこえていた。レベル80をこえるのは容易じゃない。一人だけかなり高レベルだったから、不思議には思ってたんだよな。


「……バイトしてたの、バレてたのね」


気まずそうに肩を竦めるオネェ呪符使い。でも、段々吹っ切れてきたのか、口調はサバサバしたものに変わってきた。


「黙ってたのは悪かったわ。でも特殊なスキルを覚えるにはお金が要るし、それにシャウを巻き込む気もなかったしね」


特殊なスキルって指定転写の事なのか…?こんなのダンジョン以外の何処で教えて貰うつもりだったんだか。


もちろん俺の素朴な疑問は修羅場中の2人には問いかける勇気もない。ぶっちゃけ俺もシルキーちゃん達も、意識的に空気と化している。


…こう言っちゃなんだが、めんどくさいから巻き込まれたくないんだよ。


「シャウとは妙に気があったし、アタシが男だろうが女だろうがいい仲間でいられると思ってたんだけど、この数ヶ月でそれは無理だってわかったし」


オネェ呪符使いがそう言った途端、毒舌格闘家の顔がさらに怖くなった。


「…何がいい仲間だ。ひとっ欠片も信用してねぇ癖に」


毒舌格闘家からはどす黒いオーラが絶え間なく噴出している。もはや触ると放電しそうなくらいだ。


「確かにお前の女言葉は気持ち悪いが、百歩譲ってそんな事はどうでもいい」


さりげなく酷い事を言っている。さすが毒舌格闘家だ。


「俺が一番怒ってんのは、お前が何一つ相談しないで何でもかんでも勝手に一人で決めるからだ。今みたいにな」


「えっ…?」


ポカンとした表情のオネェ呪符使いを真正面から睨みつけ、毒舌格闘家は淡々と続ける。


「一人でコソコソ仕事受けてるし。いきなり女になるって言うし。突然ガキ共仲間にするって言うし。このダンジョンの挑戦も何の相談もなかったな。あげく最後にゃサラッとバイバイかよ」


うわー…そりゃ確かに酷い。ちょっと毒舌格闘家に同情する。オネェ呪符使いも思い当たるのか、居心地悪そうに視線を逸らした。


その時、またもやバンっと大きな音をたてて扉が開く。


「兄さん酷いっすー!!ガキ共ってオレ達の事!?オレ達迷惑だった!?」


男戦士と女アーチャーが涙目で雪崩こんできた。


…ああもう!!よそでやってくれ!!


「はい、そこまで!」

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