他ギルドの挑戦者達㉑
「ああ、これ以上戦ってたら完璧に見破られそうだったから、最後はとにかく早く倒そうと思ってさ」
「ああ、だから最後あっという間に勝負がついたんだね」
納得したようにゼロが頷いた。
「そんで、スラっちは?」
「もちろん圧勝だよ」
聞くまでもねぇか。
モニターの向こうでは、スラっち率いるスライム軍団が陽気に跳ねている。
…地味に、ムサイカツい挑戦者達の上でウェーブしてるんだが。
可愛い…がちょっと酷い。
「そろそろ挑戦者達、助けてやったら?」
「あっ!ハクの戦闘に夢中になってたから…ユキ、グレイ、回収と案内お願い。ルリ、回復頼むね!」
マジで忘れてたのか、哀れ…。
戦闘での疲れを癒すためそれから少し仮眠して、すっかり元気になった俺は指定転写のスキルを更に磨くため、マスタールームで黙々と鍛錬していた。
今日戦った感じだと、アイディア次第でまだまだ使い勝手はよくなりそうだ。少しでも早くスキルを使いこなせるようになりたくて、色んな物にスキルを適用してみる。
その時だ。
カフェのモニターから、突然大きな声が聞こえて来た。
「すいません!折り入ってお願いがあるんです!!ジョーカーズ・ダンジョンのボスに会わせて下さい!」
え!?俺!?
なんだ?少なくとも修行バカのレイの声ではないっぽいが。慌ててモニターを見て、俺は唖然とした。
……オネェ呪符使い……一体何の用だ。
呆然とモニターを見ていたら、横からルリがからかうような視線を向けてくる。
「ハクって実はモテモテよねぇ。このダンジョンに個人的に誰か訪ねてくる時って大体ハクだもの」
「気持ち悪い言い方すんな…」
思わず低っくい声が出た。訪ねてくるの全員男だし!そもそも稽古付けてくれって内容だし!
ああ、俺もキーツみたいに女の子から差し入れの一つももらってみたいよ…マジで…。
そんなどうでもいい事を考えている間にも、カフェは段々騒がしくなっていく。
シルキーちゃん達が止めてくれてるみたいだけど、オネェ呪符使いは一歩も引かないようだ。シルキーちゃんの両手を握りしめて、必死な顔で懇願している。
う~ん…これは…出て行った方がいいだろうか。でも、この姿で出ていくわけにも行かないし…。
「とりあえず、何か変化してから行った方がいいかもね。」
ゼロがインカムを手渡しながらそう言った。どうやら一緒に行ってくれる気はないらしい…。
仕方なく無難に有翼の戦士に姿を変え、インカムを付けてからカフェへと移動する。
「あ、ハクさん!良かった…!」
シルキーちゃん達が安堵した顔で俺を迎えてくれる。そんなシルキーちゃん達を押し退けるように、オネェ呪符使いは俺の前にズイッと身を乗り出して来た。
「その姿、さっき見たわ!あなたジョーカーズ・ダンジョンのボスね!?」
「ああ…まぁこれは仮の姿だが」
オネェ呪符使いの勢いに押されて、つい要らない事を口走る。だが、オネェ呪符使いはもちろん驚いた様子もない。
「分かってるわ、戦闘中にも色々姿は変わってたから。今日は折り入って頼みたい事があって来たの」
オネェ呪符使いは真剣そのものの表情だ。嫌な予感しかしないが、一応聞いてみる。
「ああ…さっきそう言ってたな。で?なんだ頼みって」
俺の目を真っ正面から見つめ、オネェ呪符使いはハッキリと言い切った。
「あなたの転写のスキルで、アタシを女にして欲しいの」
…やっぱりな。
だと思ったよちくしょう…!面倒な匂いがプンプンする…!
思わずこめかみを抑えて呻いたが、オネェ呪符使いは容赦なく畳み掛けてくる。
「お願いよ!アタシ、本当の女になりたいの!」
その時、扉がまたもやバン!と派手な音をたてて開いた。
「アホんだらァ!やっぱりここかぁ!」
ど、毒舌格闘家…!
「女になるだと!?居ねぇと思ったらよそ様まで来て何バカな事ぬかしてやがる!ふざけてねぇでとっとと帰るぞ!」
なんかもうすげぇ怖い!
毒舌格闘家のあまりの剣幕にぶっちゃけビビる。取りつく島もないって、こういう事を言うのか…。
固まる俺とシルキーちゃん達をよそに、オネェ呪符使いは毒舌格闘家を睨みつけていた。掴まれた腕を振り払い、キッパリと「帰らないわ」と言い放つ。
「指定転写はアタシの希望なの!いつか入手したいって、ずっとずっと調べてきたスキルなの!こんなチャンス2度とないわ。女にして貰えるまで帰らない」
いや…俺まだそこまでスキル上達してないんだけど…とか言える雰囲気じゃない…。口を挟める気がしないんだが。
毒舌格闘家はこめかみをピクピクさせながら、絞り出すような声を出した。
「あのなぁ、いい加減にしろよ?お前の女装や女言葉は百歩譲って勘弁してやる。…本当に性別まで変えるだと?これ以上俺を怒らせるなよ?」
「分かってる。もう迷惑をかけるつもりはないわよ…」




