他ギルドの挑戦者達⑮
見たい…でもギリギリまで特訓もしたい…。迷う俺の耳に、聞き捨てならないワードが飛び込んできた。
「なんだぁ?このしょぼいスライムは!」
はぁ?今…何と!?
「…おいおいバカにしてんのかコラぁ!」
「タリぃ。せめてラスボスくらいちょっとはひねったスライム出せっつーの…」
うわー…久しぶりに聞いたな。スラっちを侮りまくったこのセリフ。
そうか、こいつら他のギルドの冒険者だから、スラっちの強さを知らないのか…。
よく聞くとカフェからも、スラっちへの声援に混じって罵声が聞こえている。カエンに回収される程ではなかったお行儀の悪い客もまぁまぁ居たらしい。
しかしこのスラっちをバカにしきった反応を覆すのもまた一興だ。
いいだろう、見せてやれスラっち!
お前の真価を!!
憤るマスタールームのメンバーの気持ちを知ってか知らずか、スラっちはどんなにバカにされていても、気にする様子もなくポヨ~ン、ポヨ~ン、と呑気に軽く跳ねている。
ある意味王者の風格…でもないか。
単に可愛いだけだ。
「ほんじゃまぁ、お手並み拝見ってな!」
ハゲでヒゲのムキムキ格闘家が嬉しそうにスラっちに飛びかかる。
もちろん軽く躱し、ムキムキ格闘家のハゲ頭の上にちょこんと陣取ったスラっちは、なぜか体を左右に軽く揺らしていた。
「こんのぉ~!小癪なちびスライムがぁ!」
頭上のスラっちを捕まえようと、ムキムキ格闘家が手を伸ばす。
その瞬間、スラっちはくるっと回転しながらムキムキ格闘家の背後に飛び降り、間髪入れずに背中へと無数のパンチを叩き込んだ。
「ぐはぁっ!!」
背中への連撃で仰け反った体に、容赦のない火炎放射が襲いかかる。高速回転しながら飛び上がったスラっちは、仕上げとばかりに今度は脳天目掛けてキツい体当たりをかました。
この間僅か、10秒足らず。
あまりにも…あまりにも呆気なく、ムキムキ格闘家は気絶してしまった。
「なんと…気絶!スライム・ロード挑戦者、格闘家のロドリスさん、気絶によるリタイアです!開始10秒、早速一人沈めましたぁ!スラっち、さすがの強さです!!」
キーツのアナウンスも虚をつかれた感が否めないものとなっている。
回復する隙すら与えずに一人を戦闘不能にしたスラっち。それでもスラっちは、倒れ伏したムキムキ格闘家の上で何事もなかったかのようにポヨ~ン、ポヨ~ン、と跳ねていた。
「ちっ…ムカつくぜ…!」
魔法戦士が吐き捨てるように言った。
「しょぼい見た目で油断を誘って実は強い…まぁ、ありがちだけどな」
ひょろ長魔術師が跳ねるスラっちをじっと見ている。
…別にしょぼい見た目とかは狙ってねぇし。
元々普通のスライムだったスラっちが、頑張ってここまで強くなったんだから、見た目のショボさくらいは勘弁して欲しいもんだ。
「うおぉぉぉおぉぉぉお!!」
そんな事を考えていたら、突然バトルマスターが雄叫びをあげながら、スラっち目がけて走り出した。
右手に斧、左手に大剣を振りかざし、猛烈な勢いで間を詰めていく。
ムキムキ格闘家の体スレスレから上に切り上げ、後ろへ跳ね上がって避けたスラっちめがけ斧を振り下ろした。
この攻撃は予測していたらしく、スラっちは空中でカクッと方向を変え…横に跳ねた。
…なんだ今の。
「へぇ、さすがにスラっちは器用だね。衝撃波を軽く出したみたいだ」
ゼロが感心したように呟く。
そうか、珍しくもないスキルでも使いようで面白い動きもできるってわけだな。
しかしそこからのバトルマスターは、別人のように動きがよくなった。スラっちでさえギリギリで避けている。
倒れ伏すムキムキ格闘家からスラっちを引き離し、傷つけられない障害物がない場所に誘導したからか、思う存分武器を振るえているらしい。
ただスラっちの真髄は豊富なスキルと魔法だからな。ここからが本番だろう。
案の定、激しい閃光が辺りを照らす。
「くっ…!」
ずっとスラっちの姿を追って攻撃していたバトルマスターは、スラっちの体から放たれた閃光をまともにくらってしまっている。
間髪入れずに無数の風の刃がバトルマスターを襲う。そこに容赦なく叩きこまれる腹部への高速回転体当たり。
バトルマスターはムキムキ格闘家の体を飛びこえて、魔法戦士達の所までぶっ飛んでしまった。
慌てて魔法戦士が回復をかける。
「ぐ…すまねぇ」
言いながら悔しげにスラっちを見るバトルマスター。
スラっちはその場で今だポヨ~ン、ポヨ~ン、と跳ねている。
「む・か・つ・く…!!」
「かかって来いとでも言いたげだな…!」
被害妄想じゃないのか…?
第一スラっちはまだ大技すら使っていない。
「見てくれはしょぼいが、やっぱりここまでのスライムとは段違いの強さだ」
「…一斉に行くか」
始めて挑戦者達が冷静に話しあい出した。




