他ギルドの挑戦者達⑭
…戦闘は、本当に散々だった。
挑戦者達が勝ったのが不思議なくらいだ。
なにしろエロかわ精霊ちゃんが役にたたないどころか邪魔するもんだから、敵が増えたようなものだ。なんとか敵は倒したものの、パーティー内にはなんとも言えない嫌な空気が漂っていた。
空気の大元はもちろん毒舌格闘家だ。
こめかみがピクピク動き、まだ一言も発していないのに、尋常じゃない威圧感が全身から溢れ出している。
「…おい、バカ精霊」
地を這う様な低い声。毒舌格闘家、マジでかなり怖いな。
「待って!やっぱりおかしいわよ!」
「早まっちゃ駄目っすよ!このエリアに入った時、オレ達状態異常になったからっ、エアリルちゃんもなんかの状態異常かも知れないしー!」
毒舌格闘家の剣幕に、オネェ呪符使いも男戦士も慌てて仲裁に入る。…この男戦士、ノリは軽いがさっきから地味にカンがいいな。
そしてオネェ呪符使いは、エロかわ精霊ちゃんを庇う様にしっかりと抱きしめている。
よっぽど信頼しているんだろう。
こういう信頼関係は、同じ召喚モンスターとして、なんだか我が事のように嬉しい。
しかし毒舌格闘家は、さらにこめかみをピクつかせながら近づいて行った。
本当に状態異常だから、許してやって欲しいもんだが…。オネェ呪符使いの必死な顔を見ると、あんまり期待出来ないかも知れない。
「てめぇら…」
目前に迫った毒舌格闘家を一瞬見上げ、3人はギュッと目を瞑った。
「人をなんだと思ってやがる!」
「痛っ!?」
「きゃっ!」
「ぐあっ!?」
3つ並んだ頭に間髪入れずに振り下ろされるチョップ。不機嫌さ丸出しの毒舌格闘家は、仁王立ちで3人を見下ろしている。
この渋面の毒舌格闘家に「俺だけ酷くなかった!?」とツッコミを入れられる男戦士はそれなりに大物だと思う…。
「あのなぁ!いくらなんでも、このバカ精霊がおかしい事くらい俺でも分かる! しのごの言ってねぇでさっさと呪符に戻せ!」
「シャウ…!」
オネェ呪符使いが、ホッとしたような顔で毒舌格闘家を仰ぎ見る。毒舌格闘家は唇の端を僅かにあげて、オネェ呪符使いとエロかわ精霊ちゃんを見下ろした。
「おいバカ精霊!言い訳は今度じっくり聞いてやる。正座3時間で許してやるから、ありがたく思えよ?」
エロかわ精霊ちゃんは相変わらず「フン!」とソッポを向いているが、目からは涙がポロリと落ちた。
…良かったなぁ、信じて貰えて。
エロかわ精霊ちゃんが無事に呪符に戻されるのを見届けて、俺はモニターを離れた。
ここからボス部屋まで、そんなに時間はかからないだろう。俺もボスとして、ちょっとでも面白い戦いにするために訓練しておきたい事がある。
モニターチェックはルリに任せ、俺はマスタールームの隅っこでひたすら練習を続けた。
なんせスキル習得してから間がないからな、出来る事にも限りがあるしまだ思いのままに発動出来る程熟練してもいない。ただ、練習を続ける内に使い勝手のいいやり方も少しは見えてきたから、せめてそれだけでも今回の戦いで使ってみたいんだよな。
皆が各自のモニターに集中する中、俺は黙々と練習を続けた。
時々漫才主従コンビのモニターから吹き出したくなるようなおべっかが聞こえてくるが、我慢だ…。と思っていたら、なんと時間ギリギリ1分を残してゴールしてしまったらしい。
…ユキがなんだか大興奮している。
俺と目があった瞬間、ダッシュでやってきて、お得意のキラキラ目で事の顛末を話してくれた。
「あのお兄さん、凄かった!!」
…どっちもお兄さんだが。
「あのね、褒めるの上手なお兄さん、なんかわかんないけど強かった!!」
へ?
見事なへっぴり腰だったぞ?
「あのねっ、キンキラの人がピンチになったらね、よろけたりこけたりしながら、なんかモンスター倒しちゃうの!」
…はぁ?どんな高等技術だ。
金ぴか坊っちゃまがケガをすれば「これしか取り柄がありませんから!」と言いつつ回復し、褒めるだけ褒めてはさりげなく時計を確認して上手く切り上げる。時間配分も完璧だったらしい。
まさか……まさか従者君はああ見えて凄い奴なのか?
「お前のおかげだ、ルキーノ!」
「そんな滅相もありません!フェルマリアーノ様がほぼ全部モンスターを倒して下さったんじゃないですかぁ!ボク…ボク、フェルマリアーノ様が一戦一戦強くなっていかれるのが頼もしくて!」
「やっぱり強くなったか!?」
「それはもう!本当に惚れ惚れするくらい強くなられましたよフェルマリアーノ様!!」
「ありがとう、ありがとうルキーノ!!」
「フェルマリアーノ様ぁ~!!」
…とてもそうは見えないが。
そこに、キーツのアナウンスが響く。
「スライム・ロード、いよいよボス戦です!皆さんご注目下さい!」
おっ、ムサイカツい挑戦者達もボス戦に辿りついたか…。見るべきか練習に集中すべきか、悩む…!




