いたずらっ子、召喚!
ルリがやらせてあげたらいいじゃない、ととりなして来たが、ここは譲れない。俺があまりに反対したからか、ゼロはすっかり拗ねてしまった。
ルリには白い目で見られ、ユキもキュ~ン……と哀しい声を出す。耳もしっぽも可哀想なくらいぺしゃんこだ。きっとゼロが可哀想だと思っているんだろう。
うう、居た堪れない……。
でも、それでも譲れない。悩む俺の脳裏に、ふとある映像が浮かぶ。
そうだ、昼間カタログを見た時、確か……。
急いでカタログを取り出し、書いてある情報をじっくり読み込んだ俺はゼロを説得に入った。
「なぁゼロ、考えたんだけどさ、お前がやりたいことを実際にやってくれるスタッフを召喚すればいいんじゃないか? ダンジョンも錬金も、って時間が足りないだろ」
「……出来るし」
きたな、この聞き分けのない感じ。よっぽど自分でやりたかったんだろうが……でも、負けねぇぞ!
「新しいダンジョンも、練兵場も作るんだよな? でも錬金もしたいんだろ?」
「………」
「ほら、カタログに錬金術師いるし。女の子も選べるぞ? 顔も性格もスキルも、チケットと違ってカスタマイズ出来るみたいだし。素直で優しい子召喚して、考えたのやって貰おう。……な?」
「僕そういうの、キライ」
あれ? 好みじゃなかったか?
「あんた、バッカじゃないの? 召喚するなら素直で可愛い男の子でしょ!?」
いや、ルリの好みは関係ねぇから。そう言い返そうとしたら、俺の手からスルッとカタログが取り上げられる。振り返るとゼロがカタログを片手にダンジョンコアの前に立っていた。
「……もういいよ。錬金術師、召喚すればいいんだろ」
そうだけど。そこまでシュンとされると、こっちが悪いような気分になるじゃないか。なんだこの罪悪感。
「その……ゴメンな」
何について謝ったかは、自分でも分からない。ゼロは俺とルリを交互に見て、こう言った。
「でも、カスタマイズとかそーいうのはしないから。来てくれた人がどんな人でも、絶対に仲良くしてよ」
そう宣言したゼロによって召喚されたのは、なんと小柄で可愛い女錬金術師だった。
おお、優しげなお嬢様顔!
淡いピンクの髪はざっくりと三つ編みにし、前に流している。大きなつばひろ帽子に首もとが留められただけのマント。白いミニのチュチュから伸びるすらっとした脚が魅力的だ。
うんうん。こういう子を待っていた。
ゼロ! 良くやった!
ルリは面白くなさそうだが、しょうがない。キョロキョロしているその子と、ゼロの目があう。
「ご主人様……?」
可愛らしく小首を傾げる彼女を見て、ゼロは相変わらず恥ずかしそうにモジモジしはじめた。アレだな、やっぱどうしても人見知りするタイプなんだな。
「うん、あの……よろしく」
「ああ、ご主人様いい人そうで良かったですぅ。なんでもやるので、よろしくお願いしますぅ」
「うん、早速だけど……錬金釜あるから、これからドンドン色んな物、錬金して欲しいんだ」
「錬、金、釜!!!!」
女は突然叫び、大きな目を潤ませて、プルプルと震え始めた。
「本当ですかぁ~!? 嬉しい! これまで危険だって、使わせて貰えなかったからぁ……憧れでしたぁ! 頑張りますぅ!」
ちょっと待って、俺たち錬金術師を召喚したよな? 危険だからって使わせて貰えなかったってどういうことだ。しかも錬金釜を見る瞳の輝きがゼロに似ている。
いったん錬金釜が目に入るやいなや、それ以外に目が向かない。なんかヤバいタイプかも知れない。少しだけ……ほんのちょっとだけ心配だ。
なにはともあれ彼女は名前をマーリンと付けてもらい、俺達と自己紹介を兼ねた簡単な挨拶を交わしたが……視線はチラチラと錬金釜を見ている。完全にうわの空じゃねーか。
ひととおりの挨拶を済ませると、マーリンはゼロとコソコソと話し、何かを受け取り、挨拶もそこそこに喜々として錬金部屋に入って行った。もはや錬金の事しか頭になさそうだ。
「なんかもう錬金のことしか頭にない感じね。天然かしら……マッドかしら。掴めない子だわ~」
「アレ、メシも忘れそうなタイプに見えるぞ。気を付けねぇと」
「でも、凄いの作っちゃいそうじゃない? 僕、楽しみだよ!」
ゼロは同類に仕事を任せて安心したのか、一気に機嫌を直したらしい。それはそれで助かったわけだし、錬金はマーリンに任せ、俺たちは引き続きダンジョンの強化に励む事にした。
お次はホビットとブラウニーの召喚だ。
ホビットはともかく、ブラウニーはどれ位のいたずら小僧ぶりか分からない。とりあえず1体ずつに決めた。ついでに店の強化も視野に入れ、ドワーフたちも一緒に召喚する。
『ホビット1体、ブラウニー1体、ドワーフ4体を交配強化付与で、120Pを消費して召喚しますか?』
「承認!」
身長が俺の腹のあたりくらいの男たちが5人、同じくらいのデカさの少年が1人現れる。悪いが、顔が幼いのがブラウニーだろう位しか、見分けがつかない。
ゼロも同じだったのか、一瞬困惑した表情を見せた。
「えーっと、じゃあドワーフの皆さん! ダンジョンの空いてるお店で、武器や防具を作って下さい! 若い人が好きそうで、付加効果があるとなお良しです」
めっちゃざっくりした指示を与えたうえで、ユキにダンジョンへの案内を頼んで、まずはドワーフに仕事を任せる。そしてその場には一人の男と少年だけが残された。
じゃあ、残ったこいつがホビットなんだな。
ホビットは若い男だった。申し訳ないが、まだ仕事を決めていない。妖族レア度2コンプリート目的だったからだ。ゼロも同じだったらしく、素直にホビットに問う。
「何か得意な仕事ってある?」
「おら、ずっと店やってきたから、商売なら得意だ」
人の良さそうなヤツだとホビットを観察していたら、ゼロがそっか! と声をあげる。
「ドワーフの人たちには作るのに集中してもらって、売る専門の人を置けばいいんだ!」
確かにちょうどいい。彼には駆け出し用ダンジョンで、武器・防具の販売を担当してもらう事になった。ちょうどドワーフたちの案内を終えて戻ってきたユキに事情を話して、今度はホビット君をダンジョンに連れて行ってもらう。
いつのまにか場所もしっかり把握してるし、可愛い顔してユキは意外と有能なんだよな。
そして残るはいたずらっ子設定のブラウニーだ。ここまではおとなしくしてくれてたけど、いたずら好きだってのが性質らしいから、どうなることやら。
俺はてっきり5~6歳のやんちゃ小僧が出てくると思ってたから、それよりはちょっと、トウがたっている。
「こんにちは。よろしくね」
優しくゼロが優しく声をかけたら、ブラウニーはほっぺたをプクッと膨らませてなぜか不満げだ。
「なんだよ~! マスター、美人のおネーサンじゃ無いじゃんかぁ」
「えっ? ゴメン」
なぜか謝るゼロ。
「じゃあ、私の弟子になる?」
「却下」
「犯罪が起こりそうだからムリ」
急にしゃしゃり出てきたルリの意見はもちろん一蹴された。ルリは顔的には絶世の美女なんだけどな、口を開くと急に残念なんだよな。
でも、ゼロは『弟子』という言葉で閃いたのか、楽しそうにブラウニーを錬金部屋に放り込んだ。
途端に湧き上がる悲鳴。
軽い爆発音。
いきなり何があった!?
「ゼロ様ぁ! なんですか、この子っ! いきなりスカートめくるしっ! 胸揉むしっ! あげく錬金釜に適当に材料ぶち込むしっ!」
マーリンが泣きながら飛び出して来た。
ああ、それであの爆発音。
「マーリンの助手にどうかなって思って。可愛いでしょ? 君、適当に材料入れるなら、1個だけにしてね」
ゼロは見当外れの注意をしている。ていうかお前、それが目的だろう。恐ろしいヤツだ。
「ゼロ様、こんな助手イヤですぅ!」
「う~ん……でも、錬金の可能性が広がると思わない? 思いもかけない物ができるかもよ?」
「そんな博打みたいな……! 私、普通の錬金がしたいですぅ」
「えー、おれ、あれやりたい。ブクブクってしてちょー面白い!」
泣きが入っているマーリンとはうらはらに、ブラウニー君は錬金釜がお気に召してしまったらしい。どんぐり目を目一杯開けて一生懸命に主張している。
まあな、ゼロもあれだけやりたがってたくらいだもんな。子供からしたら面白いおもちゃみたいなもんなんだろうなぁ。
「うーん。じゃあえーと、ね。マーリンお姉さんの言うことちゃんと聞いてね。いたずらはほどほどに」
ゼロの言葉にマーリンはガックリとうな垂れる。
ブラウと名付けられたこの子とマーリンが一体何を発明してしまうのか、想像も出来ない。
本当に、ほどほどにして欲しい。




