他ギルドの挑戦者達⑪
「この惨状…まさか俺か…?」
周囲を見回し、青ざめるひょろ長魔術師。どの挑戦者も、ピンクちゃんのおかげで体の傷は癒えてても、装備は相当ボロボロだもんな。
「正気に戻ったか、良かったなぁ!」
「なんなんだお前はぁ!さんざ攻撃してきやがって!!しばくぞコラぁ!!」
「もうマジでタリぃ…。ヨネ怖過ぎなんだよ。何あのブラックな魔法は…」
口々に軽い調子で文句を言う仲間達に、ひょろ長魔術師はバツが悪そうな顔を向けた。
「開発中の魔法を無意識に使っちまったみたいだ。未完だから上手くコントロール出来ない…」
か、開発中!?
魔法を、自分で開発中!?
「へぇ、あれ自分で開発してる魔法だったんだぁ」
後ろから突然聞こえた声にドキッとする。
ゼロ…聞いてたのか。
「ねぇルリ!さっきこっちのモニターでやってた魔法見た?」
「チラッとね。プラズマを上手く利用してるみたいね」
「だよね!魔法って自分で開発出来るんだね」
ゼロの問いにルリはう~ん…と腕組みで考え込んだ。
「そりゃ出来なくはないけど、既にある魔法だけでも相当数あるし、覚えるのも圧倒的に早いわ。自分で研究しようなんて変わり者は普通、研究機関に入ると思うわよ?」
「なるほどね~!そっか、出来るのか!」
なんて事をしてくれたんだ、ひょろ長魔術師!!
これ以上うちのマスターが色々手広くやり始めたら、ダンジョンが凄い事になってしまう。だんだん俺の手に負えなくなってきてるってのに、勘弁してくれ…!!
「よし、スキル教室のエルフ達に相談してみようっと」
ゼロは上機嫌だが、これは野放しにしちゃいけないパターンだ。しかもあの目のキラキラ加減は、止めても無駄なパターンでもある…。俺は肩を落としつつ、それでも最低限の釘を刺した。
「それ、俺も一緒に行くから」
「ホント!?ハクも一緒にやる?魔法好きじゃないかなって思ってたんだけど、一緒にやれるなら嬉しいなぁ!」
そんなに素直に喜ばないで欲しい。俺の目的は「監視」、ただ一つだけだ。気まずいじゃないか…。
目を逸らしつつモニターを見ると、既に戦闘が始まろうとしていた。バトルマスターの前で跳ねるのは、今度は青いトゲトゲのコスモスタースライム。
「なんだテメェ!トゲトゲしやがって、俺の武器達に対する挑戦かコラぁ!!」
バトルマスター…どんな言いがかりだよ…。
そこにグレイからコールがかかる。
「リリスが現れましたぞ!」
おっ!ついに出たか!!
急いでキング・ロードのモニターを見ると、岩陰から出てきたリリスがパーティーの最後尾を歩く魔術師を一瞬で岩陰に引きずり込むところだった。女性のみのパーティーだったから、もしやリリスは出てこないかも…と思ったが、ちゃんと仕事はこなすらしい。
「うふふ…」
リリスはそれはそれは楽しげに、妖艶に笑っている。素早く魔術師の目深にかぶったフードをあげ、意味ありげに目を覗き込み…
「お、女っ!?」
大きく飛びのいた。
「かかったわね!」
リリスの背後から急に現れた女格闘家が、あっという間にリリスを羽交い締めにしてしまった。
「あはは、リリスげっとー!」
女格闘家は朗らかに笑っているが、リリスの格好が格好なだけに、見た感じは異常にエロい図になっている。かなりいい眺めだが、お子様にはちょっとキツい映像かも知れない。大丈夫かゼロ…。
うん、真っ赤だな。素直でよろしい。
ユキは…そっか、漫才主従コンビをしっかりモニター中だ。まぁまだ男のロマンが分かる年かは微妙なトコかも知れないしな。
「姉ちゃん、いいぞー!!」
「リリスちゃーん!!」
カフェはおっさん達の嬉しげな声援で異様に盛り上がっている。一般客のお嬢さん方がヒかないといいが…。
「作戦通りでしたね~。カミアさんの身長とスレンダーさなら、フードかぶってれば男の人だって思ってくれると思ったんですよ~」
ニコニコとかなり酷い事を言っている女アーチャー。
「うるさい!なによちょっと胸が盛り上がってるからって!どうせ、どうせ私は……!」
男に間違えられた女魔術師は、目に涙をいっぱい溜めてふるふると震えている。かなり屈辱だったんだろう。
確かに180cmはあろうかと言う長身、胸もとっても奥ゆかしい感じだ。
いや、俺は別にいいと思うぞ?
あまりの落ち込みように、美人だし充分に魅力的だと慰めてやりたいくらいだ。
「胸なんてあるからいいってモンじゃないよ。動くのにはジャマだ。全く…落ち込む必要ないだろう」
呆れたような女戦士の言葉に、格闘家もうんうんと頷いているが、彼女達はかなりのメリハリボディだから、イマイチ説得力がないと言うか…女魔術師は女戦士の立派な胸を見て、さらにため息をついている。
「あたしはおっきい方がいいですぅ。服着た時にやっぱりラインが違いますもん!」
しかも女アーチャーは容赦がないしな。
「それにしてもリリスさんはさすがですねぇ!あたしもこれくらい欲しかったなぁ~!」
女子会か!
胸の事はもういいから、そろそろ戦ってくれ。




