他ギルドの挑戦者達⑧
「あらら、ゼロが落ち込んでると思ったら、面白い事になってるわね」
「はは、なかなか水路に真っ向勝負してくれる挑戦者がいなくてさ」
俺がそう答えると、ルリは目を見開いて、「呆れた!!」と呟いた。
「当たり前じゃない!濡れるのも嫌だけど、泳ぐって時点で戦力激減だもの。あたしだって何とか回避する方法ひねり出すわよ!」
うん、歯に衣着せぬルリらしい意見だな。
「もう諦めたら?」
ハッキリ言い切るルリに押され、ゼロはしゅんとしてしまっている。
「でも…」
「でもじゃない!いくらだって面白いダンジョンはあるでしょう?水路に固執しない!」
怒られてるし。
「ハクも!!」
ええ!?なんで俺!?
「あの精霊、凄い腕前よ。マントを下から支えてる風、出力が凄く繊細な筈よ?あんな出力調整自然にできるなんて、只者じゃないわ。あの精霊、気をつけた方がいい」
そんな凄いのか!
そうか、そう言えばルリは風属性の魔法が使えるんだったか。だからこそ、難しさが分かるんだろうな。
う~ん、エロかわ精霊ちゃん、侮り難し…!
「分かった、気をつける。ところでルリ、プリンス・ロード誰も見てないみたいだけどいいのか?」
するとルリは憮然とした表情で俺を睨む。
「もうリタイアしたのよ」
…ん?いつだ?
それに何で俺を睨むんだよ。
「ジョーカーズ・ダンジョンの精霊ちゃんがタコを倒した瞬間に、落とし穴に全員落ちたの!」
うわぁ…。
なんて締まらねぇ。
「…治療とかいいのか?」
「ケガひとつありません」
憮然としたままのルリに、ゼロはニッコリ笑って「安心設計だからね!」とか言っている。ゼロも大概図太くなってきたな。
しかし確かに他のダンジョンでも動きが出る頃だ。
モニターを見回すと、プリンセス・ロードではなんだか派手なヤツが戦闘中、キング・ロードでは地味にテクテク歩いているところだった。
やっぱり見るなら戦闘中の派手なヤツだろう。
「よぅユキ、どうだ?今日の挑戦者は」
「ん~…目が痛い…」
目が痛い…?不思議に思ったが、モニターを見て納得だ。
おろしたてピカピカ、キンキラキンの鎧を身に纏った優男が、へなちょこ感満載で剣を振るっている。剣もピカピカ、ヤツが動く度に光が無駄に反射して、それが眩しいのなんのって。
確かに目が痛い。
貴族かなんかだろうか。
ダンジョンにはもっと実用的な装備で来て欲しいもんだ。
しかしお付きらしい男はこれまたへなちょこな感じだが…。なんでよりによってこんなヤツを連れてきたんだ。
確かにこのダンジョンは普通のダンジョンに比べりゃ格段に安全だが、どうせ護衛につけるなら、もう少し腕のたつヤツをつけるべきじゃないだろうか。
しかも…
「意外と進んでないな。まだスライムと戦ってるじゃないか」
「う~ん…お店でも時間たっぷり使うし…戦闘の後も長いから。 」
戦闘の後が長いって…意味が分からん。
だが、ユキの眉毛が下がっているところを見るに、ろくな事じゃないんだろう。
そうこうしている内に、なんとかスライム達を倒した金ぴか坊っちゃまは、すっかり息が上がってしまっている。
「どうだ!僕が、やったんだぞ!」
「凄いですフェルマリアーノ様!!」
名前ながっ!
「ケガはないか、ルキーノ」
「フェルマリアーノ様のおかげで、かすり傷一つありません!」
あー…なるほど、この従者君は護衛じゃなくて、太鼓持ち要員なわけね。
ユキがゲンナリした顔をしている。
「ずっとこの調子か」
「うん。10分は続くよ。こっちのお兄さんね、凄いんだよ。褒める言葉沢山知ってるの。ぼくビックリしちゃった…」
きっとなんか太鼓持ち系のスキルでも持っているに違いない。
「今の剣捌き!これまでの中でも最高の切れ味でした!」
「そうだろう、そうだろう」
「ボクがスライムに狙われた時に庇って下さったあの雄姿!あの時助けていただかなかったら、ボクは今頃…!」
「うむ、ケガがなくて何よりだ!命には代えられないからな!」
「フェルマリアーノ様ぁ~!!」
……いや、死なないから。
さすがにプリンセス・ロードの挑戦者達は淘汰される前だからか、ダメさ加減の幅が広いな。
まぁ我が身を呈して従者君を守るなんて、いい主人なんだろう。従者君の装備もかなりしっかりしてるし。冒険はほどほどにして、仲良く暮らして欲しいもんだ。
若干脱力しつつ、通りすがりにキング・ロードのモニターを覗くと、今だテクテクと地道に歩いている挑戦者たちが目に入る。
…ん?
これってもしかして…女だけのパーティーか?
俄然興味が湧いてきた!
リリスがどう戦うのか、非常に興味があるんだが!
「なぁグレイ!リリスが出てきたら、声かけてくれないか?」
「いいですがね。ただ、女性だけのパーティーですから、拗ねて出て来ない可能性もあるでしょうなぁ」
……それはあり得るな。




