他ギルドの挑戦者達⑦
ふわふわ巻き毛に翡翠色のちょっと垂れた瞳。右目の下にはご丁寧に泣きぼくろまである。フワフワ浮いてるし、精霊系統かも知れない。
身に纏うのはレースのビスチェにローウエストのデニムショートパンツ。春を感じさせる淡い萌葱色で統一され、服だけ見ると一見爽やかだが、張りのあるナイスボディのせいかかなりエロ可愛く見える。
「エアリル、今日の服も可愛いっ!」
目をキラキラさせ、手放しで褒めるオネェ呪符使いを押しのけて、毒舌格闘家が二人の間に割って入った。
「うぜぇ、帰れ」
折角召喚したのに、毒舌格闘家は冷たい目で睨みつけ無茶な事を言っている。こいつは誰にでも等しく毒舌なんだろうか。
「もー!親の仇みたいに睨まないでよ」
エロかわ精霊は腰に手を当て、可愛く頬を膨らませた。それでも毒舌格闘家は一切動じる気配がない。
「お前のせいでこのアホが女に目覚めたんだ、仇以外の何者でもねぇ」
「心せま~い!人間なんか寿命短いんだから好きに生きればいいじゃない。」
べーっと舌を出すエロかわ精霊ちゃん。
「呑気な事言ってないで、逃げるか倒すかしましょー!?俺限界だからっ!!」
男戦士、一人で巨大タコと戦ってたのか、可哀想に…。同情を禁じ得ない。
「あははっ、ゴメンねっ?」
「あっ、待って!ダメよエアリル!」
可愛く笑って巨大タコを攻撃しようとするエロかわ精霊ちゃんを、オネェ呪符使いが慌てて止める。
「出来るだけ最後まで居て欲しいから、省エネでいきたいのよ。アタシ達を出来るだけ安全に水路の奥まで運んで欲しいの」
「ふぅん?でもこのタコさんくらいなら瞬殺だよ~。弱点知ってるもん」
「えっ…?」
オネェ呪符使いがポカンと口を開けたと同時に、エロかわ精霊ちゃんは左腕を天井に向かってクルクルと回し始めた。腕の先で空気が渦を巻き、瞬間で竜巻の槍が発生する。
「ていっ!」
迫力ゼロの掛け声で放たれたそれは、的確に巨大タコの目と目の間を貫いた。
あ…前回爺さんぽいフクロウが、そんな事言ってたな…。
そんな事を思い出す間にも巨大タコは激しくのたうちまわり、やがて力尽きたように波間に沈んで行った。
「凄過ぎるしー!可愛くってカッコイイって反則だよエアリルちゃん!!」
「さすがねエアリル!ホント頼もしい!大好きよ!!」
手放しで褒めまくる男戦士とオネェ呪符使いの横で、毒舌格闘家はそれでも憮然とした表情だ。
「…ちっ、ホント嫌味なくらい無駄に能力高いな、テメーは」
毒舌格闘家もさすがにけなせる所がなかったらしい。遠回しだが褒めている…のか?
うふふ、と笑ってオネェ呪符使いが毒舌格闘家の頭を撫でた!苦虫を噛み潰したような顔をしている男の頭をナデナデって…なんたる勇者だ。
「出たわね~、分かり辛いデレ」
「デレじゃねぇ!」
吊り目を更に吊り上げて、毒舌格闘家が喚く。どんだけ反論しても、オネェ呪符使いには通じないだろうなぁ。それはそれで、ちょっとだけ可哀想な気もしないでもない。
「えへへ、レアなお褒めの言葉も頂いちゃったし、頑張っちゃうかぁ」
エロかわ精霊ちゃんはそう言うと、人差し指を唇にあて、う~ん…と暫し考えこむ。
「水に入らないで皆を運べばいいんだったよね?」
何か閃いたのか、いきなり男戦士のマントをはぎとり空に放る。マントは床に落ちる事なく、膝下くらいの位置でフワリと宙に浮いた。
「魔法の絨毯、完成~っ!」
エロかわ精霊ちゃんはそう言うと、マントの端に腰掛ける。どうやらマントは、下からの風でヒラヒラと浮いているらしい。
まさしく魔法の絨毯に見えるな。
「すっげぇ!これ、乗れるの?」
「うん!乗ってみて!」
興味津々の男戦士は、なんとジャンプで飛び乗った。
いささか乱暴な乗り方をされても、マントはふわりと優しく受け止めている。
「うわっすげぇ!なんか雲に乗ってるみたいだしー!超気持ちいい!!」
「エアリルったらこんな事も出来るのねぇ。最初から出て貰えば良かったわぁ」
魔法の絨毯ならぬマントの上で、和気あいあいと話し始める挑戦者達。エロかわ精霊ちゃんは多分風の精霊なんだな。
「ちょっと…また水の中に入らないとか…そんなの卑怯だよ~」
約1名、マスタールームでは涙にくれるヤツがいた。ガックリと肩を落とし、見るも無残な落ち込みようだ。
ゼロ…こんだけ必死で回避されるって事は、多分バランスが悪いんだと思うぞ?
攻略できそうならちょっと無理しながらでも挑むだろうが、絶対無理…って思った時点で、正攻法では挑まないだろう。
水路はぶっちゃけ相当無理めなんだと思う…って、教えてやった方がいいんだろうか。
「う~ん…いっその事、空中に強いモンスターとか配置した方がいいのかな~。いやダメだ!それじゃ負けた気がするっ!」
既にひとり反省会に突入したみたいだから放っとくか。




