他ギルドの挑戦者達⑥
「こいつらだったらまだ何とかならぁ。切り替えてひと暴れするぞコラァ!」
バトルマスターの乱暴な発破に、ムサイカツい挑戦者達は「うおぉぉ!!」とガッツポーズで応えている。
うわ…ムサい…。暑苦しい…。
ひょろ長魔術師はそれを見てひとつため息をつくと、さっさと回復魔法を唱えまたメモに没頭し始めた。…俺の感覚はどっちかっていうとこいつ寄りだな。
「ハク!こっち見といた方がいい!かなりの乱戦だよ!?」
ゼロの声にハッとする。
あの幻想的で静かだった水路に、ついにモンスターでも出たんだろうか。
モニターを見てゲンナリする。
ああ…居たな…。こんなヤツ。
オネェ呪符使い達を苦しめていたのは、巨大なタコだった。
しかし今度は挑戦者達の方が分が悪い。この前みたいに陸の上にあげてしまえばまだ戦いやすいだろうが、なんたって水の中だ。
大丈夫だろうか…。
既に女アーチャーは巨大な脚に捕らえられ、空中高く吊り上げられている。ぐったりと力が抜けた肢体からは、もはや意思の力は感じられなかった。
「くっ…ミリーを離しなさい!!」
オネェ呪符使いは呪符を噛むと、激しい炎を吹き出した。
しかしタコのあまりにも巨大な体の前では、身の一部を焼いたに過ぎない。アチッ…という反射的な脚の動きで、女アーチャーは体を放りだされ、遠くの水面に落とされる。
ステータスは気絶。
残念だが彼女はここまでだ。純粋な女性は彼女だけだったのに俺だって無念だが、こればかりは仕方ない。俺はキーツに指示を出した。
「ジョーカーズ・ダンジョンの挑戦者、アーチャーのミリーさん、気絶によりリタイアです!」
キーツの張りのある声が場内に響く。いつになくカフェからは激しいブーイングが響いた。
「うわ…なんでブーイング?」
「今日は客にもガラの悪いヤツが多いからな。おおかた他のギルドのマスターやメンバーが来てるんだろ」
ゼロの問いに答えていたら、横からバキッ、ボキッ、と嫌な音が聞こえてきた。
「ちょーっと行儀の悪いヤツがいるみたいだなぁ」
カ……カエン…?
「俺様のお膝元でいい度胸だ。その度胸に免じて、ちょっとだけ稽古をつけてやろう」
超笑顔だが、そのバキボキいってる指は何なんだよ…?素で怖いって…!
あっと言う間にカフェに転移したカエンは、拳を振り上げて野次を飛ばしているおっさん達に微笑む。
おっさん達は急に青ざめ、震え始めた。
荒くれ者揃いの他ギルドの連中も、なんだかんだ言ってお怒りのカエンは怖いのか。
カエンはニッコリ笑ったままおっさん達の腹に一撃ずつ入れて気絶させると、うず高く肩に積み上げそのまま何処かへ運んでいく。
居心地悪そうに小さくなっていた常連さん達は、カエンの背中に惜しみない拍手喝采を贈った。これで常連さん達の客離れも防げただろう。良かった、こっちは一安心だ。
一方、残念ながらモニターの向こうは見るからに大荒れな感じを醸し出している。巨大タコが元気よく大暴れしていて、挑戦者達は面白いくらい翻弄されていた。
「くそっ!こんなデカいの、仕留めるのに時間がかかり過ぎるしー!なんとか逃げ切るしかないっしょー!!」
男戦士、堂々と逃げる選択。レベルが高くなる程、逃げる事にも躊躇がないな。
まぁ無駄に体力を削るより、手強い敵からはさっさと逃げて、戦いやすいヤツから手軽に経験値を貰うのはある意味賢い選択だ。特にこのタコみたいなデカブツは、戦うメリットの方が少なそうだしな。
「分かってる!でも…っ、波が酷くて…!」
タコが大暴れするから、その度に大きな波が押し寄せる。オネェ呪符使いは残る3人の中では泳ぎが苦手なようで、時間が経つ程に疲労の色が濃くなっていた。
しかしこうして見ると、この前のへのへのもへじ集団はよっぽど上手く戦ったんだなぁ。
確かに人数は多かったが、言ってもへのへのもへじ達はオネェ呪符使い達と比べると、平均で10程レベルが下だった筈だ。それでも巨大タコも割とあっさり倒したし、水路も上手くショートカットしていた。
「水路に極力入らない」という選択が、最大の勝因なんだろうなぁ。まぁ、泳げなかったからだが。
今更へのへのもへじ達の凄さを知るとは…何となく複雑な心境だ。
なんとか小島に辿りつき、ハァハァと荒い息をつきながらオネェ呪符使いは胸元から大きめの呪符を取り出した。
「お前…っ!まだ序盤だぞ!」
「仕方ないわ、水路はまだまだ続きそうだもの。こんな所でリタイアするよりマシよ」
焦った声で止める毒舌格闘家を尻目に、オネェ呪符使いは取り出した呪符に印を結んでいく。なんと手首にナイフをあて、滴り落ちる鮮血を呪符で受けた。
呪符から淡い浅葱色の煙が立ち昇る。
「お久っ!なんの用~?」
呪符から出て来たのは何ともエロ可愛い女の子。グロい召喚方法だった割に、思いの外フレンドリーな登場だ。




