他ギルドの挑戦者達①
「皆さん、本日もギルド:クラウンの訓練施設へようこそ!」
昼メシを掻き込んでマスタールームのモニター前に陣取れば、今日もキーツの高らかなアナウンスで開場が宣言される。
「今日来てくれた皆さんは本当に運がいい!今日はなんと他のギルドの冒険者達がチャレンジしに来てくれてるんだ!約1週間後に行われる武闘大会にも参加する猛者の戦いっぷりを、一足お先に見る事が出来る貴重な機会、是非お楽しみを!」
そう、今日からは1日おきに他のギルドから冒険者を受け入れる予定になっている。今日はスライム・ロードとジョーカーズ・ダンジョンが他のギルドからの挑戦者だ。
おお~っ!というどよめきの中、早速スライム・ロードに4人の挑戦者達が飛び出してきた。
バトルマスター:男:レベル65
魔法戦士:男:レベル62
格闘家:男:レベル60
魔術師:男:レベル58
うっわ…イカツイ…むさい…。
こいつらがジョーカーズ・ダンジョンじゃなくて本当に良かった。男4人中3人がムキムキの大男だ。しかも体中にかぎ裂き状のデカい傷が入っている。
きっと厳しい戦いを何度もかいくぐってきたんだろう。
残る一人は魔術師で、これまたひょろ長い。丸眼鏡で瞳は見えず、何を考えているのかさっぱりわからない感じだ。
「なんだこりゃ。草原にスライムってナメてんのかコラ」
「タリぃ。こんなんでレベルが上がるかっつうんだ」
「噂のダンジョンも大した事ねぇなぁ」
「…………」
入るなりスライム達にガンを飛ばし、威嚇しながらブツブツ文句を垂れる挑戦者達。ガラ悪りぃな。
心なしかカフェにもガラが悪い観客が多い。早くも下卑たヤジが飛んでいる。もしかしたら色んなギルドから、冒険者やらギルドマスターやらが偵察に来ているのかも知れない。
う~ん一般客…特に若い女の子達が怖がって客足が鈍らないといいけどな。
心配しながら見ていると、今度はジョーカーズ・ダンジョンにも挑戦者達が入ってきた。
戦士:男:レベル51
アーチャー:女:レベル52
格闘家:男:レベル70
呪符使い:男:レベル81
「おーおー、一丁前にちゃんとダンジョンになってるじゃんか 」
「ギルドの中にダンジョンって新鮮!」
「あはっ、楽しみねぇ!ねぇシャウ?」
「うるせぇ、うぜぇ。話しかけんな」
……あれ?呪符使い…表示は男だが…見た目はキレイ系お姉さん…これはまさか。
「あ~んもぅ、シャウったらツンデレさんなんだからぁ。照れちゃって…かぁわいいっ!」
格闘家らしき男の酷い悪態にも怯まず、呪符使いは、あはっ♪と笑って格闘家の額をツンツンと人差し指でつついている。
これはあれだ…オネェってヤツだな。
性別を飛び越えちゃった人達だ。
「デレた事は一度たりともねぇだろうが!触んな、キモい」
鬼の形相で格闘家がわめく。
格闘家の毒舌っぷりも凄いが、それを一切気にしないオネェ呪符使いも凄いな。
「はいはい、そこまで~!ブレイクブレイク!」
男戦士が陽気に二人の間に割って入る。
「いつも仲良いですねぇ」
女アーチャーがニコニコと恐ろしい事を言い放ち、格闘家から睨まれた瞬間。
ガチっ…と、何か嫌な音がした。
「うをぉおぉぉ!?」
「ひゃあっ!!」
「きゃぁあぁぁぁ!!」
悲鳴と同時に巻き起こるバシャー ーーン!ドボーーーン!という派手な水音。
デジャヴだ…。
これ…おととい出したばっかりの水路のダンジョンじゃねぇか?
思わずゼロの方を見ると、ゼロは拳を握りしめ、「この前不発だったから、グレードアップしてリベンジ!」と燃える目をしていた。
いやいや…結構鬼畜だから…この水路ダンジョン…。さらに何やらかしてるんだよ…。
よそのギルドから来るから水路の事知らないだろうとでも思ったんだろうが、いきなりこのダンジョンは酷いだろう…。
思わず憐れみのこもった視線を水路でもがいている挑戦者達に送る。
…あれ?
水路に落ちてるの、3人だけ…?
「危ねぇ…!こんな広範囲の落とし穴…かなり鬼畜な造りじゃねぇか!」
なんと、格闘家はこのトラップを回避したらしい。水に落ちる事なく、岸辺でボヤいていた。さすがにレベル70ともなると、こんな酷いトラップも俊敏に回避できるんだろうか。
「ちょっと!あたしを足場にして跳んだでしょ!酷いじゃないの、シャウ!」
「スマン、無意識だ」
「レディを足蹴に自分だけ助かるなんて、ほんとサイテー!!」
プリプリ怒りながら岸辺に泳ぎよるオネェ呪符使い。格闘家からは何やら負のオーラが漂っている。
「レディとか脳みそ腐ってんじゃねぇか?いっぺん死ね!」
眉を釣り上げてそう言い放った格闘家は、岸に上がろうとしているオネェ呪符使いを容赦なく蹴り落とした。
いや、マジで酷いな。こいつ…。
見た目キレイなお姉さんを足蹴って…。




