ジョーカーズダンジョン、2日目⑱ 10/19 1回目
うん、周りのスライム達込みでかなり可愛い。
しかし良かった、スラっち完全に立ち直ってるみたいだな。スライム達も嬉しいのか、いつもよりも跳ね方が元気がいい。もうスラっちは心配ないだろう。
むしろ心配なのは俺だよ。
今日は実はヤバい場面がちょいちょいあった。あの魔族のガキンチョなんか、思いがけない勝ち方したけど、普通に戦ってたら確実にもっと手こずってたし。
圧倒的にスキルが足りない事を痛感した。姿をいくら変えられても、俺本体が弱いと何ともならないんだよな…。
「あー、俺もスキル教室に通おうかな」
「何?突然」
あ、思わず口から出ちまったらしい。ゼロに怪訝な顔をされてしまった。
「いや…戦う時に攻撃手段が少なくて、結構困るからさ。スキルアップしねぇとな、と思って」
「お、ちゃんとその考えに至ったか」
ニヤニヤしながらカエンが俺の頭をぐりぐりと撫でる。
「そうねぇ、ジョーカーズ・ダンジョンのボスともなると、スキルも変幻自在じゃないと興醒めよねぇ」
興醒めまで言うか!
ちくしょうルリ、容赦ねぇな、くそぅ…。でも事実だ。ぶっちゃけ俺もそう思ってるし。
こんな時は本当にスラっちが羨ましいよ。俺が死ぬ気で苦労して覚えるスキルも、スラっちだったら一瞬で覚えられるし。
「……スキルチケット使う?」
「…え…?」
耳を疑う言葉に、思わずゼロを2度見。
スキルチケット…あったな、そんなの。
「なんだそのスキルチケットって」
「えーと…なんでも1つ、スキルがDPなしで付けられるチケットだよ。まだ使うアテもないから…」
質問した癖に、ちゃんと答えたゼロにカエンはジト目を向けている。
「便利過ぎるだろ…あんま甘やかすな」
カエンに軽く小突かれているゼロを尻目に、俺は真剣に考えこんだ。
なんだよその悪魔の囁き…。
すげぇ使いたい。でもズルい気もする。それにここで使っちまったら、本当に何か必要なスキルが出来た時、物凄く後悔するかも知れないし。
うわ、めちゃめちゃ悩むんだけど!!
「…か…考えさせてくれ…!」
悩んだあげく絞り出すように言ったのは、そんな情けない言葉だった。
無理だ…すぐには決められない。でも強くなりたい…!
頭を抱える俺を見て、ゼロは笑いながらこんな提案をしてくれる。
「ハクとスラっちなんだけど、今日からボス戦で勝った時に、その分の経験値を毎回入れてあげようと思ってるんだよね」
え…いいのか?そんな…。
「ハクもスラっちも強くなりたいって気持ち強いし、でも単にどかっと経験値振り込まれるのもなんか微妙なんじゃないかなって思ってたからさ。戦って勝った分経験値入る方が実感あるかと思って」
それはありがたい!!
俺もそれが気にかかってたんだ。
これまでは戦わせて貰えなかったから半ば諦めてたけど、今は違う。戦って勝った分だけ経験値が入るなら、それが一番しっくりくるしな。
「いいなぁ…ぼくも戦いたい…」
呟く声に振り返ると、ユキがしょんぼりと項垂れていた。耳もシッポもシュンと垂れて、尋常じゃなく可愛い。
「ユキも戦いたいんだ?」
ゼロに聞かれて一生懸命頷くユキ。普段ワガママ言わないから、よっぽど戦いたい…成長したい気持ちが強かったんだろう。
「ぼく…ぼく、成長して強くてかっこいい幻狼になりたい。それで、皆の役に立ちたいんだ」
強くてかっこいいユキとか想像出来ないけど、成長したいって気持ちは痛いほど分かる。
「そっかぁ。もしかしてルリやグレイもそう?」
「私は主人の世話が出来れば充分ですが」
ゼロの問いにグレイが淡々と返す。ルリは…珍しく言い淀んだ。
「う~ん…戦いたいっていうか成長はしたいわよね。でも私が召喚に応じたのって、あまりにも単調な毎日に我慢できなかったからだから…今はまぁまぁ満足よ?」
まぁ毎日色んな事あるから退屈とは無縁の場所ではあるな。ゼロは明らかにホッとした様子だ。確かにルリなら不満があったらはっきり言うか。心配して損した。
それから夜までは俺を除く皆で武闘大会のアイディアラッシュ。そろそろ真剣に考えないとヤバいしな。
俺も一緒に考えて欲しいとゼロに頼まれたが、今日だけは遠慮させてもらった。
スキルチケットを使うかどうかは別として、俺は自分が早急に身につけるべきスキルを検討する必要があるからだ。生死に直結するから、こっちが最優先だと思う。
だから今はダンジョンカタログと真剣ににらめっこ中。
しっかしめちゃめちゃいっぱいあるな…。
ピックアップ基準は2つだけ、ダンジョンメンバーに教えて貰えそうなのと、汎用性があって純粋に覚えてみたいもの。
スラっちの「開眼」みたいな便利スキルはそうは多くないが、覚えてみたいものだけでも相当な数がある。
その日俺は深夜まで、黙々とスキルをピックアップし続けた。




