ジョーカーズダンジョン、2日目⑯ 10/18 1回目
「はわわ…ど、ドクロがいっぱい…!」
ドクロがいっぱい…?
なんのこっちゃ。
視点が今ひとつ定まらないガキンチョの目の動きを追ってみる。
あ、なるほど。
周り中に俺の半スカル顔が映りこんでる。
こりゃ怖いかもな、視覚的に。全面鏡張りのボス部屋が、こんなところで役立つとは。
両手を高くあげて威嚇してみれば、ガキンチョは涙目でへたりこんだまま後ずさる。
さっきの勢いが嘘みたいだな。
「ちょっとチィちゃん、魔族でしょ!ビビってないで戦ってくれよ~!」
男召喚師ヒドい事言ってるな。ガキンチョだけど涙目の女だぞ?…まぁ、涙目にさせてるの俺だけど。
ガキンチョは激しく頭を振ってイヤイヤをしている。
「ムリっ!ドクロ怖い!怖いよぉ~!!」
あ、泣き出した。
「ちょっと!ちっちゃい子が泣いてるのよ!?可哀想だと思わないの!?」
女魔術師ちゃんが眉を吊り上げて怒鳴ってくる。え、俺!?俺が悪いのか!?
しかもその見た目ガキンチョ、言っても300年とか生きてたりしないか?…とは思うものの、絵面的には幼女を虐めてるみたいにしか見えないのも理解できる。
……仕方ない。
俺はフワリとガキンチョの側に降りた。
「おい、ガ…」
「ひぃっ……ぅぅうああああぁぁぁ!」
尻もちをついたまま、どうやってか凄いスピードで後ずさり、ガキンチョは号泣しながら消えた。
え…まさか、杖に戻っちゃったのか?
「~~~~~なんてヤツ!許さない!」
ああっ!誤解だ女魔術師ちゃん!
俺はただ声をかけようとしただけで…。
言い訳する間もなく、矢継ぎ早に火球が飛んでくる。怒りに任せて女魔術師ちゃんが火球を作っては投げつけてくるからだ。
「降りてきなさいよ、卑怯者~!!」
冗談じゃない。
見た目はアレだが死神の姿じゃ攻撃手段ゼロだぞ?
それっぽく見えるだけで大鎌は多分なまくらだと思う。俺の変化レベルが上がれば素材とか再現できるかもしれないが、今は無理だ。
空中をヒラヒラと逃げ回っていたら、聖騎士まで聖魔法を放ってきた。魔法まで操れるとは器用なヤツだな。
男召喚師はもうガス欠みたいだから、残るは聖騎士と女魔術師ちゃんだけだ。一気に勝負をつけてやる!!
とはいえこのままの姿じゃ分が悪い。
なんかいいのあったかな。回復は別として、もう魔法も武器も下手に使いたくない。
自然に力押しでいけるヤツ…
俺は今朝練習した諸々を思い浮かべた。
色々思い出していたら、フッ…とチビ達の顔が浮かんでくる。そういやあいつらが喜びそうなのにまだ変化してねぇな。あいつらが喜びそうなの…喜びそうなの…
ま、ロボだな。
どうせなら、見た目ゴッツイどデカロボがいいだろう。俺はここぞとばかりに巨大ロボに変化した。
もちろんボス部屋の中で動けるくらいには抑えたが、威圧感はハンパない筈だ。聖騎士も女魔術師ちゃんも口をあんぐりとあけて、惚けた顔で俺を見上げている。
いやぁ、いい反応してくれるなぁ。
驚きで動きが止まった二人に、サイドから渾身のパンチを叩きつける。巨大な拳になすすべなく吹っ飛ばされた二人に、今度は上から拳を振り下ろす。
ズシーーーーン………
拳を振り下ろしただけで、かなり重そうな重低音が響いている。
あ、からくも横に転がって、直撃を避けたらしい。小癪な。
俺の拳を躱そうと、ごろごろ転げ回る二人を追って、俺の拳もズシーーーン、ズシーーーン、と振り下ろされる。
軽くモグラ叩きみたいになってきたんだが。
「あっ…!」
ついに女魔術師ちゃんがスピードについていけず、遅れをとった。恐怖の表情で、迫り来る拳を見つめている。
ゴメン!でもこれも勝負だから!
一切容赦なしで、俺は拳を振り下ろした。
「危ないっ!!!」
鋭い声が聞こえたかと思えば、拳があたる寸前で女魔術師ちゃんが拳の下から転がりでてきた。
瞬間の出来事で俺も何が起こったのか分からない。でも、拳には確実に何かあたった感触があるよな…?
拳をあげてみると、なんと拳の下では男魔術師がノビていた。しかしまぁ、どことなく満足そうな顔で気絶してるなぁ。
「ショウさぁ~ん!!」
女魔術師ちゃんが涙目で叫ぶ。
そうか、男魔術師が拳があたる直前で、女魔術師ちゃんを突き飛ばしたんだな。
魔力も使い果たして戦力外だった癖に、にくい事をする。ちぇっ…男魔術師、どこまで男前なんだよ。
「ショウの犠牲を無駄にするな!これでカタをつけるぞ!!」
聖騎士が叫ぶ。
女魔術師ちゃんは目に涙をためて一生懸命頷いた。
望むところだ!
こっちもジリ貧だからな、もう長くは戦えない。最後の決戦といこうか!!
胸の前でズガーン!ズガーン!と拳を叩き合わせて気合いを入れる。ついでに回復魔法を唱えて体力も全快、準備は万端だ。
さぁ、どんと来い!!




