ジョーカーズダンジョン、2日目⑥ 10/12 2回目
へのへのもへじ達は頑張っていた。
…いや、正確に言うと男魔術師と格闘家が必死で頑張っていた。
「オエ…気持ち悪くなってきた…」
男魔術師がさすがに弱音を吐く。
可哀想に魔術師は、さっきからずっと巨人に投げ飛ばされては遥か遠い水路に着水し、格闘家に守られながらヨロヨロと次の陸地まで泳ぎ…陸地に辿りついたら転移を利用して、自分が進んだところまで仲間を連れてくる…という悲しい戦法を繰り返している。
マジで涙ぐましい努力だ。
延々と続く水路。泳げないヤツとギリギリ泳げる程度のヤツで構成されたこの9人パーティーは、できる限り水に入らないと言う選択をしていた。
「こいつら本気で水路攻略しない気なんだな」
「ホント酷いよ。水の中には宝箱もモンスターもやる気全開でスタンバってるのに…」
ゼロが激しく嘆いているが…宝箱のやる気はほぼお前のやる気だろう…。
しかしこの戦法のおかげで、いったんは溺れたカナヅチ達まで、なんとか一緒に先に進んでいけている。…いやぁ、なかなかやるな。
「ああ~…水路のフロアが終わっちゃうよ…」
ゼロの無念そうな声。この水路、けっこう自信作だったんだろうな…。
「ずっと泳ぎっ放しも可哀想だから、途中途中に休める島を置いたのがいけなかったのかな…」
早速ひとり反省会を始めているが、次のダンジョンが心配になるような事を呟いている。
悔しさのあまりバランスが悪いダンジョンを造ったりしないように、落ち着いたところで諭さねぇとマズいよな。
「うわぁ~~~~っ!!!」
「ひぃっ!なんだ、これはっ!!」
考えていたところを、けたたましい悲鳴で遮られる。見れば水路に浮かぶ男魔術師と格闘家は、恐怖で顔を引きつらせていた。
これは…首長竜??
水面からは首から上だけが見えているが、顔の部分が相当高い位置にある。水中にある体はいったいどれくらいデカいんだか…。
「と…とにかく早く岸に上がれっ!!泳ぐんだ!」
渋いおっさん…格闘家が渋く叫ぶ。男魔術師に檄を飛ばし、自分は男魔術師を守るように首長竜から視線を離さない。
確かに戦法として男魔術師が岸に辿りつかないと意味がない。男魔術師は猛然と泳ぎ始めた。
そもそも泳ぎが下手くそな上に疲れ果てているというのに、男魔術師は本日一番の泳ぎを見せている。
そんな中、格闘家はなんと首長竜の方向に勢いよく泳ぎ始めた。
「あ、首長竜…そっか、ここは避けて通れないんだっけ」
ゼロの呟きに不穏なものを感じた俺は、思わずゼロを問いただす。
「どういう意味だ?」
「あ~…えっと、このエリアの鍵なんだよ、この首長竜」
意味が分からん。
「鍵…?」
「うん。この首長竜を倒せたら、次のエリアへの鍵が開く仕掛けになってるんだ」
なぜに、そんな仕掛けに…。
満身創痍の男魔術師と格闘家を見るとつい同情の気持ちも湧くが、よく考えれば俺はこのへのへのもへじ達の最後の敵なワケだから、むしろこいつらに感情移入するのは良くないんだよ。
ダンジョンモンスターとして!
そしてジョーカーズ・ダンジョンのラスボスとして!
気持ちを切り替えたところで、ちょうど男魔術師の手が岸辺に届く。
力を振り絞るように、男魔術師はプルプルと震える腕で岸辺に自分の体を持ち上げた。ヨロヨロと土を踏みしめ…ハァハァと荒い息をしながらも小さく詠唱し…消えた。
速攻でへのへのもへじ達をわんさか連れて戻ってくる男魔術師。ビックリするくらいの速さだったが、まぁ急がないと格闘家が危ないしな。
それにしても、転移、マジで便利だ。
「うおぉぉぉぉ!!」
うおっ!?なんだ!?
突然の叫び声に、思わず視線を彷徨わせる。
あっ…
俺の目に映ったのは、放物線を描いて水面へと落ちていく、渋い格闘家の姿だった。
「グオォォォォォォ!!」
首長竜が豪快な雄叫びをあげる。
やっぱり見た目めちゃくちゃ強そうだ。
「サン!!」
「俺が行く!!」
言うが早いか、聖騎士が水路に飛び込んだ。渋い格闘家は、幸いへのへのもへじ達がいる岸辺に近いところに落ちて来ている。
なんとか助けられるかも知れない。
「こっちに扉がある!!あいつらが戻ったら即、先に進むぞ!!」
「きゃーーーっ!!首長竜、サンを狙ってる!?」
「早く!早く戻って!!」
首長竜は首を緩くふり、聖騎士達をじっと見つめた。




