ジョーカーズダンジョン、2日目③ 10/11 1回目
ゼロは呆気にとられた顔でモニターを凝視している。
「水路のフロアなのに水に入らないで攻略とか、あんまりじゃない!?」
ゼロはこれでもかというくらい、不服そうな顔をした。…そうか、頑張って水の中にモンスターとか宝箱とかトラップとか…いっぱい配置したんだろうな、多分。
それをあり得ない方法でショートカットされれば、ダンジョンマスターとしちゃ無念だろう。それだけ裏をかいた、いいアイディアだとも言える。
モニターの向こうでは、さらに真剣に議論が交わされていた。
「ショウが途中で溺れたりモンスターにやられたりしたら転移も出来ない。安全の確保が最優先だ」
「そこそこ泳げて水中でも戦える護衛つけて飛ばすっきゃねぇだろ」
「泳ぐ事考えると武器や防具が軽いヤツ…っていったらやっぱサンだな。ちょうど偵察に行ったからダンジョンの先も分かってるだろうし、適役かもな」
「…そういや連絡遅いな。どこまで行ったんだ」
「まさかモンスターに襲われてるんじゃ…」
へのへのもへじ達に嫌な空気が漂い、沈黙が落ちる。それぞれが嫌な想像をしているのかも知れない。
とぼけた声が、その沈黙を破った。
「あ、ヤバ。通信用の魔石渡すの忘れてたわ」
ひょろい召喚術師が首をすくめ、ペロリと舌を出す。
「へ!?じゃあいつ、通信手段なしで飛んでったわけ!?」
「そうなるね。今頃連絡出来なくて困ってるかもね」
かもね、じゃないだろう!
格闘家、哀れだ…。
「ていうかそもそもショウが一緒に行けば、転移で戻って来れたんじゃね?」
「…だよな。俺も今思った。 」
魔術師も唇を噛んでいる。逆にひょろい召喚術師はのんびりした様子で杖をクルクルっと回し、何事か呟いた。杖に口付けたところを見ると、とりあえず何か策があるんだろう。
杖からは小さな愛らしいフェアリーが飛び出した。召喚術師の体の周りをクルクルと円を描いて飛んだ後、指令を待つように小首を傾げて空中で待機している。
召喚術師は通信用の魔石をフェアリーに渡すと「サンの元にこれを届けて」と指令を出す。
フェアリーは一生懸命頷くと、ヨロヨロフラフラしながら、魔石を運び始めた。明らかに重量オーバーな感じがするけど大丈夫なんだろうか。
右に左によろめくのは仕方ないとしても、時々ガクンと高度が下がり、水面スレスレになったりもして、かなり危なっかしい。
頑張れフェアリー…!
フラフラヨロヨロしながらも、フェアリーは水路の上を飛び、けなげに格闘家の後を追う。向こうに見える壁までなんとか辿りつき、右へ折れた。
ここからは未知の領域だ。格闘家はどこまで行ったんだろうか。カメラはフェアリーを追っていく。
すると。
向こうから猛然と泳いでくる格闘家の姿が見えた。
可哀想に。通信手段がなくて困ったあげくに、泳いで戻る事にしたんだろう。しかも泳ぎは決して上手くない。
フォームはあれだがスピードはそこそこ出ているようで、格闘家はぐんぐんフェアリーに近づき……通り過ぎた。
……えーーーー!??
フェアリーに気付いてない!?
泳ぎに必死で、周りを見る余裕がないのだろう。フェアリーとすれ違い、今度はぐんぐんと距離を離していく。フェアリーも慌てたようにUターンして戻ってくるが、フラフラヨロヨロの飛び方じゃ追いつける筈もない。
「あーーーーっと!!なんとフェアリーに気付かず、すれ違ってしまったようです!これは残念です!!」
キーツのアナウンスが入る間にも格闘家との距離はみるみるうちに離れ…角を曲がった格闘家は見えなくなってしまった。
モニターの視点を慌ててへのへのもへじ達に合わせて見れば、案の定こっちも異変に気付いたらしくザワザワとしている。
「あれ!?おい、あれサンじゃねぇか?」
「うわ、フェアリーに気付かなかったか…。ヤベェ」
「あいつ見た目落ちついてんのに意外とドジっ子だよな~」
…いや、渋いおっさんにドジっ子とか…キモい。
その時。
突然格闘家の姿が水中に消えた。
「サン!!?」
「溺れた!!??」
「モンスターか!?」
へのへのもへじ達が騒然とする中、格闘家は浮いたり沈んだりしている。
「こりゃヤバい!どっちにしても助けに行かねぇと!!」
身を乗り出した聖騎士の肩を、男魔術師がガツッと掴み、首を振って見せた。
「俺が行く」
間髪入れずに聖騎士が反論する。
「ダメだ。お前がいないとこの先の攻略が絶望的だ。俺が行く」
「モンスターだったらどうするんだ!泳ぎながら戦えるのか!?」
答えに詰まる聖騎士。魔術師は後ろを振り返り、叫んだ。
「ペッパー!さっきの巨人を召喚して、俺をサンのところまで飛ばしてくれ!俺がサンを確保して、速攻で転移で戻る! 」
どうしたんだ男魔術師。さっきまでへのへのもへじに見えてたのに、ちょっとカッコ良く見えなくもないぞ?




