変化の可能性を追及してみる① 10/9 1回目
「おー怖っ!怒るなって、褒めてるんだぜぇ?」
「褒めてるとは思いたくない」
二人の会話を聞きながらスケッチブックを見ていたら、美女の横に可愛い狐の絵もあるのに気が付いた。
しかし…何故しっぽがこんなにあるんだ?
扇みたいに広がって、ふわふわのしっぽが1、2…9本も描かれている。
あ、よく見ると美女にも描いてあるな。
「ゼロ、これしっぽだよな?なんでこんなにしっぽが多いんだ?」
「えっしっぽ!?見せてください~!!」
マーリンにスケッチブックをもぎ取られてしまった…。
「ああ、それ九尾の狐。僕の世界で有名だった…想像上の…モンスターみたいな感じ?」
いや、俺に聞かれても。
「何千年も生きた、しっぽが9本ある狐で…妖艶な美女に化けるって話があったから」
ああ、それでこれか。
確かにしっぽもっふもふで、動物で…ついでにカエンお好みの美女だな。
納得していたら、マーリンが輝く瞳で俺の顔を覗き込んできた。
「狐さんすっごく可愛いですぅ。ハクさん、変化してみてくださいっ!」
まあ、いいけど。ユキのもふもふ感を思い出しながら、スケッチブックを睨む。
…こんな感じか?
一瞬の間の後、マーリンの絶叫が響き渡った。
「きゃあぁぁぁぁ!!!もう超可愛い~~~っ!!もっふもふの、ふわっふわですぅ~~~っ!!」
あっという間に抱き上げられ、撫で回され、しっぽに頬ずりされるフルコース。
マーリンは至福の表情だが、こっちは大変だ。体中触られて、くすぐったくてしょうがない!!
必死で暴れてみたが、日々の錬金で鍛えたマーリンの腕は、俺の体をがっちり抑えこんでいる。これ、軽い拷問じゃねぇか!?
「ちょっと…やめっ…くすぐったい!!…やめ…やめろって!!!」
しっぽで思いっっきり頬っぺたを叩いてやった。
「痛っ!?」
一瞬腕が緩んだ隙に脱出!
マーリンは恨みがましい目で見ているが、俺は悪くないからな?
…しかし…体中を撫で回されるのが、こんなに苦痛だったとは。
今までユキを何の気なしに撫で撫でしてきたが、反省だな。これからは頭をちょっと撫でるだけにしよう。
…そう決心しつつ、俺は真面目に戦闘モードとしての適性を検討する。
まぁ悪くはないが…。
「しかしこの変わった服は…なんか戦い辛そうだけどな」
「…そうだね。つい十二単とか描いちゃったけど、服は別になんでもいいのか。…ハクはどんなのがいい?」
どんなのって言われても…ゼロに尋かれ、ちょっと困る。
「…そりゃ動きやすい服だ」
俺の答えにゼロも困った顔をする。
でも見るならまだしも、自分が着る服に別に好みなんかねぇしな…。
「動きやすい服かぁ。やっぱりズボンの方がいいのかな?」
呟くゼロに、あちこちからブーイングの声があがる。
「却下だ、却下!!」とカエン。
「それはちょっと…興がそがれますな」え…グレイまで?
「ええ~?ヒラヒラする、フリルたっぷりのミニスカートにしましょうよ!黒髪ストレートロングに映えてきっとお人形さんみたいに可愛いですよぉ?あっ、黒レースのタイツとか合わせるといいかも~!」
ヤバい。マーリンの妄想がどんどん膨らんでいく。どんだけ可愛いもの好きなんだ。
なんだか疲れる…。もう好きにしてくれ。俺は諦めて、黙々とメシを食い始めた。
皆メシそっちのけで話すから、メシも冷めてきてるし、珍しく皿の中身も減ってない。これじゃシルキーちゃん達に心配かけちまうからな。
食ってたら、横からブラウが二カッと笑って寄ってきた。
「ハク!オレ、カッチョいいの思いついた!!」
お前もか。
でもゼロを囲んで、たかが服にあーでもない、こーでもない、と意見を戦わせているいい年した大人達よりはマシかも知れない。
しかも、カッチョいいのの方が俺もテンション上がるしな。
「なんだ?」
「あのさ、ゴッッっつい剣に変身して、それで戦うんだ。人もいないのに剣だけ襲いかかってきたら、すっげえ怖いじゃん!!」
「それは……ありだな!!」
即答した俺に、ブラウはビックリしつつも凄く嬉しそうだ。
「ホントか!?」
「ああ、変化のピアスで変えられるのは姿と体積…あとは触り心地くらいだからな。見た目でインパクトあるやつがいいんだ」
実は能力は何にも変わらないから、挑戦者から見かけが変わっただけだと悟られないように、俺は細心の注意を払って戦っている。
だからブラウの案も、そのままは難しい。
剣みたいに切る系のスキルは持ってないから、やるとしたらハンマー系に変化した方がいいだろう。
「オレ、またなんかカッチョいいの考えるな!」
「ああ、頼む。お前達チビっ子組の方が頼りになりそうだ。あっちの大人は煩悩まみれだからな」
凄い勢いで描いてはページをめくるゼロを横目で眺め、俺はため息をつく。
あれ…どんな事になってるんだろう。
また特訓とかさせられるんだろうか。
気が重い…。




