濃いめの挑戦者達⑯ 10/5 2回目
「あっ!ホントですぅ~!かぁわいい~!」
女召喚師は相変わらず能天気なコメントだ。キャーキャーと楽しそうにはしゃいでいる。
「プチドラゴン…が、ボス…かしら…。」
「いや、ここのダンジョンはスライムですら激強だからな。油断は禁物だ。」
呆れたような声の女盗賊に、バトルマスターが返した言葉は思いのほかマトモな事だった。…軽くびっくりだな。
少しからかってやるか。
「確かに見た目通りとは限らないよな」
一言だけ言葉を発してみる。挑戦者達は驚愕に目を見開いた。
「しゃべった!?」
「やっぱりただのプチドラゴンじゃないよ!」
面白いくらいびっくりしてるな。驚いてるところ悪いが、早速手合わせ願おうか。
翼をはためかせ、弧を描くように飛ぶ。
「あ!どこ行った!?」
衝撃だ。
俺の小さな体はこのトリッキーな鏡部屋に簡単に溶け込んでしまうらしい。思わぬ効果をあげている。
4人の前までハタハタと飛び、目の前で女豹の獣人に変化して、そのまま勢いよくムチを振るった。
ビシビシビシビシっ!!!
「ぐあっ!?」
「きゃあっ!!」
小気味良い音が響き、バタバタと挑戦者達が倒れていく。
またとないチャンス!
立ち上がれずにいるところを、至近距離で存分にムチを振るった。
突然。
ムチがいきなり重くなり、ぐっと引っ張られる。
あり得ない…!
バトルマスターがムチを掴んで引き寄せている。まさか、ムチの軌道を読んだとでも言うのか!?
引っ張られた拍子にバトルマスターに近付いたら、ヤツはなんだか潤んだ瞳で俺を見ていた。…何か…呟いてる?
「美しい…」
きもっ!!怖っ!!
思わず手元のボタンを押した。
バリバリバリバリっ!!!
電流が流れ、ムチを握っていたバトルマスターは煙をあげながら倒れこむ。
一瞬触れるだけで電流が威力を発揮できるよう、ムチの電圧はかなり高い。ムチをしっかりと握っていたバトルマスターの受けたダメージはかなりデカいだろう。
バトルマスターの手がムチから離れた隙をついて、一気に距離をとる。
なんか目が怖かったし!
男魔術師は慌てて回復魔法を唱え、女性陣は突如現れた女豹に戸惑いを隠せない。
「何…?この女、いつ現れたの…?」
「え?あれ?さっきのプチドラゴンちゃんはぁ?」
残念そうに呟いたが、さすがに切り替えも早い。
「まっ、とりあえずは目の前の敵、撃破ですよねっ!」
笑って杖を掲げる。
呪文を唱えて杖に口付けると、真っ赤な髪のイケメン精霊が現れた。なんか見た目カエンみたいだな。
イケメン精霊は出てくるなり、値踏みするように俺を上から下までじっくりと見ている。
「えらいベッピンさんが相手やん」
そう言いながらも「ま、だからって手加減はせぇへんけどな」と、無造作に火球を投げつけてくる。
危なっ!
それでも火球ごときを避けるのは簡単だ。軽く体を躱して、次々に飛んでくる火球をいなす。
ふっ…と影がさしたと思ったら、首があった位置を手刀が高速で通り抜けた。反射的に避けたからいいものの、今のは地味に危なかったぞ!?
「ほぅ、ベッピンさんな上に戦闘もなかなかいけそうやねぇ。あんた、結構好みやで♪」
イケメン精霊は楽しそうに言ってくる。
…ダメだ。バトルマスターといい、この女豹獣人の姿は俺の精神的ダメージがきつすぎる…。
俺は無言で巨大ドラゴンに変化した。
「うおっ!?なんだ!?」
「突然ドラゴンが現れた!?」
バトルマスターを回復して助け起こしている最中だったからか、男魔術師は状況が掴めていないようだ。
「違う!ベッピンさんがドラゴンに変化したんや!!」
イケメン精霊が補足する。
俺は話す隙を減らせるよう、強烈なブレスを放った。眩しい閃光のブレスだ。
辺りが光で覆われ、挑戦者達が目を抑えたのを瞬間的に確認し、俺はどでかいシッポを振り回す。俺のシッポに弾き飛ばされた挑戦者達は、面白いくらいブッ飛んだ。
「くっ…」
飛ばされながらもバトルマスターは諦めていない。壁直前で空中で体勢を整え、壁を蹴ってそのまま俺に飛びかかってきた。
背中から脇腹にかけて、斬撃が俺を襲う。
こいつ、やっぱ戦闘のセンスはホンモノだな、ちくしょう!
振り向きざま、俺も鋭い爪でバトルマスターの体を薙いだが、全身鎧に阻まれ体を吹っ飛ばすだけにとどまった。
その瞬間、ナイフが数本俺の体に突き刺さった。肩から腕にかけて、5本も刺さっている。
くそっ!痛てぇし!
カエンとの特訓じゃ打撲系の痛さばっかりだったから、ナイフや剣の裂かれるような痛みは慣れない。余計に痛い気がする!
魔術師爺さんの姿に変化し、回復魔法を唱えた。
「ええ!?今度はお爺さんになった!?」
「樹人…かしら?」
「幻術か!?」
驚愕している挑戦者達に、スターセイバーをお見舞いしてやる。魔法は不得意だが、これだけは特訓したしな!




