チビっ子と変化のピアス
28日目の朝。
なんだか、不穏な気配で目が覚めた。
なんだ!?
なんなんだ、いったい!?
目を開けると、なぜか見慣れた顔・顔・顔が俺を覗きこんでいる!
「~~~~~~っ!!??」
驚きのあまり、寝起きとは思えない素早さで、ベッドの端に逃げる俺。いったい、何なんだよ!
ルリとマーリンは恋する乙女のように、トロンとした瞳に蒸気した頬、顔の前で手を合わせるという、オプション付きだ。
「ああ~起きちゃった。可愛かったのに」
「うふふ、寝返りすら可愛いですね~!」
なんだ、こいつら…。人の寝起きガン見するとか、趣味悪過ぎるだろ!!…ていうか、なんで急に…。
ハッとして、自分の手足を見てみると、案の定またチビ龍に戻っていた。
そうか…。寝てる間に効果が切れて、今の本来の姿であるチビ龍に戻っちまったんだな…。
朝っぱらから寝てるところをガン見されるとか、ホントに勘弁して欲しい。あとでゼロに、ちゃんと部屋を造ってもらおう…。
しかも、ブラウとユキのちびっ子コンビまで、キラっキラの瞳で俺を見ている。
「ハク、早くメシ食って、変身してみてくれよ!!」
だよな…。お前らはそれだよな…。
「ハク、おはよー!今日のゴハンはエビの豆乳みそおじやだよ~!お味噌汁も、漬け物もあるって!」
ユキの朝メシ中継も、今日は短縮バージョンだ。よっぽど早く食って、早く変化して欲しいんだろうな…。
まぁ、ガキンチョのワガママは仕方ない。
食うのに不便だから、とりあえず人型(もちろん大人バージョン!)に変化し、メシを掻き込む。
ブラウとユキのちびっ子コンビが、食卓の横でずっと見ているからだ。うずうず、うずうずしているのが丸わかりだ。
焦るっつーの…!
「おっしゃ!じゃあ、何になって欲しい?」
メシを食い終わった俺は、早速変化してやる事にした。このままじゃ、ずっとキラキラお目々で付きまとわれるハメになるからな。
「あっ!カフェに行こ!トマス達も見たいって言ってたんだ」
ブラウにグイグイ引っ張られる。
カフェのチビ達まで見たがってんのかよ…。昨日から、軽く見世物になってる感じなんだが。
仕方なくカフェに移動し、6人ものチビっ子達の前で変身大会を催すハメになった。
「面白そうだね~!実況しよっかぁ?」
「では、私めは効果音を!」
調子にのって、キーツとイナバまで参戦してくる。…もう、好きにしてくれ…。
「それで?何に変化すりゃあいいんだ?」
もう、一刻も早く終わらせたい。
「スライム~!!」
チビ達が一斉に叫ぶ。
スライム!?造形の難しさ、ゼロだぞ?
「おーーーっと!最初の変身は、なんとスライムだぁ!!このイケメン、ハクくんが、小さいプルプルスライムに本当に変身出来るのかぁ~~!?」
キーツがムダに声を張り上げる。
イナバの場を盛り上げる演奏もあって、反論出来る空気は一切ない。
まあ、いいけど…。
スライムのまあるい形、爽やかな空色、プルプル、ツヤツヤした質感、滲み出る愛らしさ。思い出せる限りのスライム感を思いだし、俺は魔力を込めた。
全身がキラキラと光り始める。
イナバの奏でる効果音も、次第に大きくなり、嫌でも空気を盛り上げるけど…ぶっちゃけそんな大層なもんじゃないんだけどな…。
ひときわ眩い光と共に、俺の体は理想の通り、変化した。
「おおお~~~完璧!完璧にスライムだぁ~~!!」
キーツがわざとらしく、デカい声で叫ぶ。
チビっ子達は一斉に、俺に飛びかかってきた…。
プニプニ、ふよふよ、ビヨ~ンビヨ~ン、と…押したり引っ張ったり、好き放題だ。
「おーっ!!ホントに変身したっ!」
「すご~い!何にでもなれるの!?」
「次!でっか~いドラゴンになってくれよ!」
「えーーっロボ!ロボがいいよ!」
…散々チビ達に振り回されてしまった…。
ぐったり疲れてマスタールームに帰ると、ゼロが笑いながらハニーミルクティーを淹れてくれる。
ホント酷い目にあった…。
「モニターで見てたけどさぁ、ホント凄いね。ボス戦、どんな姿で戦う気?」
「そっか、まだ何も決めてないな。武器が武器だから、人型には近い方が違和感ないだろうな」
「うわー超楽しみ!まぁ、ハクの状態異常盛り沢山ダンジョンは、オープンはまだ先だし、じっくり考えてよ」
……おいおい、嫌な名前のダンジョンだな。まさか正式名称じゃないだろうな……。
「昨日カエンと、ダンジョンの構想かなり練ったんだよ!ハクの意見も聞きたいからさ、今日のお客さんが帰ったら作戦会議しよう!」
「へ?今じゃダメなのか?」
「なんかカエンがね、今日は早く戻るから待ってろって。よっぽど楽しみなんだね」
はぁ…別にまぁ、いいけどな。
それよりも今は気になってる事があるし。
「ゼロ、ゆうべは色々あって忘れてたんだけど、俺、ステータス見たかったんだよ」




