武闘大会も準備中。③
27日目の朝。
「ハク、おはよー!今日のゴハンはパンプキンスープと焼きたてクロワッサンだよ~!スクランブルエッグもつけちゃうから、早く起きて~!」
ユキの朝メシ中継…だんだん情報が詳しくなってきたな…。
「んー…。すぐ行く…」
一応答えるものの、目があかない。夕べ、頑張り過ぎたか…。
布団の中で眠気と格闘する事10分。
なんとか起きて、食卓についた。
「お、起きたか。あと5分遅かったら、ブラウの出番だったのになぁ」
「明日はオレが起こしてやるぜっ!」
「遠慮する。ユキ、明日も頼むな!」
そんなに何度も飛び乗られてたまるか…!
カエンとブラウの攻撃をかわし、ユキの頭をなでなで。…癒されるなぁ。
マスタールームは焼きたてクロワッサンのいい香りで満たされていて、覚醒してきたら途端に腹が空いてきた。食卓について早速クロワッサンを頬張っていたら、ゼロが満面の笑顔で駆け寄ってきた。
「おはよう、ハク!」
「おはよ、なんか機嫌がいいな」
「うん!いい事思いついた!あのさ、今日のスターセイバーの特訓なんだけど、ちょっとやり方を変えてみようと思うんだ」
へぇ…。これだけ笑顔って事は、かなり自信がある方法なんだろう。正直かなりヤバいと思ってたから、なんだって試してみたい。俺の覚えがあまりにも悪いから、色々考えてくれたんだろうな…。
申し訳ないやら、ありがたいやら…。
「前にさ、下級魔法を覚えてからだと、その上位の魔法は習得しやすいって言ったよね」
そう言えば、そんな事言ってたな。
「スターセイバーにも、下位の魔法があるんだよ。スターレイピアっていうんだけど…僕もそっちから先に覚えたんだよね」
なるほど!やってみる価値はある!
…気がする。
「サンキュー、ゼロ!確かにそっちの方がいい気がする。とりあえず、やってみたい」
そう答えたら、ゼロはめっちゃ嬉しそうに笑った。かなり手間かけさせたから、なんとか習得して、早く役に立ちたいんだけどな…。
よし!
さっさと食って、さっさと練習するか!!
メシを食ったら早速スターレイピアの練習に入る。
ゼロが呪文の言葉と共に、一言一言が示す意味から説明してくれた。
不思議だ…。
スターセイバーの時はちんぷんかんぷんだったのに、この呪文はちゃんと耳に入ってくる…。
一言が短いからなのか、昨日まで難しい呪文と戦ってきたから簡単に感じるのか…。理由は不明だが、呪文が理解できる。
それでも最初はつっかえつっかえで、上手く魔法が発動しなかったが、1時間程でキラキラと魔法が形になり始め…。
俺はなんと、2時間しないうちに、スターレイピアをマスターしてしまった!
こんなに短い時間で魔法をマスター出来るなんて、俺の人生で初めてだ。
すげぇな、ゼロ!!
「やったね!ハク!!おめでとう!」
いやもう、全てゼロのおかげだ!
スターセイバーも覚えられる気がしてきた!
上機嫌で昼メシを済ませ、上機嫌で本日の挑戦者を見守り、お客様が帰ったのを見計らってすぐにスターセイバーの特訓に入る。
ゼロが、スターレイピアの呪文を元に、呪文が増えた部分とその意味をひとつひとつ丁寧に教えてくれた。
なるほど、昨日までとは違って、理解は出来る。不思議なもんだな。
何度か魔道書を見ながら文字を目で追い、ボソボソと口にしてみる。うん、いい感じだ。いける気がする…!
その時、受付が急に騒がしくなった。
突然の怒鳴り声。
「失礼する!」
この声はカルアさんだな。
相変わらず道場破りみたいに威勢がいい。
そういえば来るって言ってたか。
おお!
久しぶりに見ても美人!
黒髪にハリのある褐色の肌。健康的なダイナマイトボディは健在だ。
目の保養になるな~。
「ハク、行こう!」
おっと、見てる場合じゃないな。
ゼロに急き立てられるように、カフェに向かう。心なしかゼロは顔色が悪いようだ。
「えっと…お久しぶりです」
ちょっぴりモジモジしつつ、挨拶するゼロ。カルアさんは微笑ましい、という表情で見ている。
今日はカルアさん一人なんだな。
「久しぶりね、ゼロくん。今日は相談があって来たの。悪いけど、ちょっと時間ちょうだいね」
相変わらずゼロには優しいカルアさんだ。
応接室に通すと、シルキーちゃんがコーヒーと本日のおすすめケーキ、ティラミスを持って来てくれた。
騎士団長なんて男勝りの仕事をしていても、やっぱり女性。甘いものは好きなんだな。幸せそうな顔で食べている。
「カルアさん、あの…」
「なぁに?」
言い辛そうなゼロに、満面の笑みで答えるカルアさん。
「すみません!…申し訳ないんですけど、1ヶ月で熟練冒険者に勝てるような特訓って、どうしても思いつかないんです!!」
ええ!?
いきなり、一言の前置きもなく、本題に入った!?
カルアさんも驚いた表情で一瞬固まってしまった。次いで、深いため息が漏れる。




