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ゼロのダンジョン、進化中!  作者: 真弓りの
王子様の視察

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エルフたちの頑張り

魔法の基礎は反復練習だ。


体内を巡る魔力を一カ所に集め、放出する。まずはそれが出来ないと、どんな魔法も使えない。


ルリはさっきのスライムにその基礎を教えているらしい。真剣に話しているルリの前で、始終スライムはプルプルしつつ、時々飛び跳ねて見せている。あの動きはなんなんだろうな。



「わかった? じゃあ、出来るまでやめちゃダメよ?」



ついに説明が終わったのか、ルリがそう言い置いて、こちらに戻ってきた。思いのほか上機嫌だ。



「あのスライムちゃん、分かってんのか分かってないのか謎だけど、すごい頑張ってプルプルしてるわ~」



そう言ってくすくすと笑っている。ちょっと可愛くなってきたらしい。


そこに「マスター!!」「聞こえますかぁ~?」華やかな、可愛らしい声が響く。


モニターを見れば、地下一階のロビーから、シルキーちゃん達が手を振りながらぴょんぴょん飛んで「気付いてアピール」していた。


そんな巨乳で飛び跳ねたら、目のやり場に困るんだが。


ほら見ろ、ゼロが真っ赤になってるじゃないか。うちのマスターはウブなんだ。ちと自重するように後で言っとかないとな……。


気を取り直し、ゼロが尋ねる。



「なに? どうかした?」


「カフェが整ってきました~! 料理も作ってみたのでぇ、味見がてらお昼にしませんかぁ~!?」



おお、それは楽しみだ。ぜひ行かねば!


出て来たのはカフェらしい軽食が多かった。家庭的な優しい味だが、盛り付けが色鮮やかで綺麗だ。ただの野菜サラダでも、器と盛り付け次第でオシャレに見える。俺達は褒めまくりながらデザートまで完食した。中でもアップルパイは絶品だ。甘すぎず、シナモンの香りが効いている。


ただ、ここは冒険者たちの訓練所になるわけだから、客になるのは駆け出しとは言え冒険者が圧倒的に多い。ガッツリ食べたい彼らからすると、量もメニューも物足りないだろう。


エルフやシルキー達とは食う量がそもそも違うしな。一品あたりの量を増やし、ステーキなどの肉料理をメニューに増やすようにアドバイスする。


元気のいいシルキーの中では、大人しくて目立たない水色の髪の子が、真剣な顔でメモをとっていた。


あまりに真剣な様子を不思議に思って見ていると、さっきモニターの向こうでブンブン手をふっていた、オレンジ色の髪のシルキーが、元気良く話しかけてきた。



「料理はあの子がほとんど考えたんですよ! デザート系は桜色の髪の子。皆得意なとこを活かして、助けあってやってます!」



彼女は一人一人の得意な事を、嬉しそうに説明する。きっと彼女がまとめ役になっているのだろう。一通り説明し終わると、彼女はゼロに向き直った。



「それでマスターにお願いがあるんです。エルフさんたちとも話したんですけど、私たちにも名前を付けてくれませんか?」



人数が多いから互いを呼び合うのにも困るし、お客様から聞かれた時にはもっと困る……言われてみればその通りだ。受付やカフェなら死ぬような事もなさそうだし、いいんじゃないか?


ゼロも同意見らしく、珍しくあっさりと名前をつけた。


8人のシルキーたちは、桜、若葉、ひまわり、オレンジ、いちご、桃、桔梗、紫陽花。髪色で覚え易いように決めたんだろう。


まとめ役はオレンジ、だな。覚えた。


彼女たちは、互いに名前を呼び合っては笑い合う。とても楽しそうだ。たかが半日で、強固なチームワークが出来あがっている。



「うん、やっぱりこのフロアは、シルキーたちに任せて大丈夫みたいだね!」



満足な様子で頷くと、ゼロはエルフたちを連れて、ご褒美ルームへ移動した。


ご褒美ルームは今はまだ、洞窟のようなだだっ広い空間に、大きな回復の温泉と、聖なる泉があるだけの、素っ気ない空間だ。まぁ、スライムが2匹隠れてはいるが。


ゼロはそこに、温泉を中心にしたエルフ達の故郷のような森と、花が咲き乱れる草原を造りあげた。もちろんダンジョンの中だから、上を見るとむき出しの岩肌で違和感は拭えないが。


それでも冒険者からすると、薄暗いダンジョンを歩き回り、自分のレベルからすると強敵であるボスを倒すと、この美しい草原に来るわけだ。


なかなかの空間だろう。



エルフ達も嬉しそうに顔をほころばせている。シルキーちゃんたちのようにはしゃぐのではなく、穏やかに笑い合っているのが印象的だ。


美形揃いの彼らには、ダンジョンをクリアした冒険者へのプレゼンターを任せる予定だが、ゼロには他にも考えがあるみたいだ。



「皆はエルフだから、基本的には弓と魔法が得意なんだよね? どんな魔法が得意だとか、他の戦闘スキルもあるとか、教えてくれない?」



ゼロの問いかけに、長身で俺よりも濃いめの銀髪の男が口火を切る。



「私は風属性の魔法が得意だ。戦闘系のスキルは弓も含めあまり得意じゃないな」


うん、いかにもインテリタイプだ。彼はエアルと名付けられた。



「オレ、ナイフ得意だよ! オレは魔法のほうがキライだな~」


やんちゃそうな短髪巻き毛の男はエッジ。



「俺は弓が一番得意かな。あとは投具ならなんでも。的を狙う系が得意だね」


やや長めのサラサラヘアに爽やかな笑顔の男はダーツ。



ゼロはうんうんと頷きながら、熱心に特技を聞いてはそれにそった名付けをしている。プレゼンターになんで特技が必要なのか、俺にはいまひとつ分かりかねるが、この様子ならゼロ的にまぁ満足出来る内容なんだろう。次は女性陣の聞き取りだ。



「わたくし、回復魔法と水属性の魔法が得意ですわ」


おお! エルフの初期レベルで2系統いけるのは頼もしい。淡い水色の長髪が美しい彼女は、ミズキと名付けられた。



「あたしは剣の方がいいな。魔法は肉体強化しか知らない。エルフでは珍しく肉弾戦タイプ!」


ポニーテールの胸までスレンダーな元気娘はヤイバ。



「わ、私、木属性魔法で……補助系が、得意です……」


会った頃のゼロばりに挙動不審なおどおど娘はコノハ。肩までのふわふわヘアに堂々の巨乳だ。



「良かった、結構バラけてるね。皆にはダンジョンクリアの副賞として、冒険者の1日家庭教師をして貰いたいんだよね」



ゼロの言葉に、エルフ達は唖然としている。そんなの、俺でも驚くわ。


冒険者と戦うもんだと思って召喚されたら、戦うんじゃなくてプレゼントをあげるんだと言われたあげく家庭教師とくれば、そりゃ驚かないほうがおかしい。



「それで皆には、教え方のプロ! ハイエルフのルリから教え方をレクチャーして貰います!」



ええっ!? と驚いているのはもちろんルリだ。初耳だろう。俺も驚いた。



「あっ、戦闘系スキルの人はハクが先生ね。まずは先生から教え方のOKを貰ったら、僕のとこに来てね。で、僕に教えてみて、僕がそのスキルを習得できたら合格!」



ムチャ振り過ぎだろう! 俺、そもそも他人に何か教えた事ないし!


それにゼロが習得できたらって、なにその合格基準。


そもそも人には向き不向きがあってだな……言っちゃ悪いがゼロ……おまえ、正直言って戦闘系スキル、できそうなイメージ一切ないぞ?


難易度高くないか!?



俺たちの困惑を一切気にもとめず、じゃあ頑張ってねと言いおいて、ゼロはユキを連れてご褒美ルームを出ていってしまった。


残されたルリと俺は、途方に暮れてお互いに顔を見合わせる。まぁでも、やるしかないのか……?


つーか、家庭教師が出来るように教えるって……。


戸惑い気味の俺達とは対照的に、エルフたちはやる気まんまんだ。彼らも早くマスターであるゼロに認められたいんだろう。その日俺たちは、深夜までエルフたちの特訓に付き合わされた。



クタクタに疲れてマスタールームに戻ると、ゼロが満面の笑顔で出迎えてくれる。



「お疲れさま!どう?いい感じ?」


「どうもこうもないわよ~! あの子たち、ムダに張り切っちゃって。こっちがもう大丈夫って言っても全然聞かないのよ~!」



そう。ゼロの前で恥をかきたくないのか、彼らは自分たちでハードルをかなり高くあげていた。俺たちはそれに付き合わされていたわけだ。



「そっか、皆頑張ってくれたんだね! 明日が楽しみだな」



腹ペコの俺たちに食事を用意しながら、ゼロは本当に嬉しそうに笑っている。



「今日ね、僕も頑張ったよ? 二人がいない間にカエンに稽古付けて貰ったし」



カエンが「よう」と腕をあげ、俺と目が合うと何かを投げてきた。


危ねえな、もう。


って思ったらコレ、ダンジョンコアじゃねえか! こんな大事なモン、投げんじゃねぇよ!



「ハク、お前メシ食う間、それ大事に抱えてな」



意味がわからない。


カエンのニヤニヤ顔を見て、俺はゲンナリした。こんな顔をしている時は要注意だ、ろくな事がない。



「いや、出来るだけ……そうだな、寝る時も肌身離さずだ。お前今日からこの部屋でコア抱いて寝な」


「なんでだよ!!」



キレる俺に、ゼロが事情を説明してくれた。



「確かにその方がいいかも。あのね、ダンジョンコアに属性つけたいんだ」



なんでも、俺たちを待っている間に、ダンジョンをもっと強化出来る方法がないかと検討していたら、面白い方法を見つけたらしい。


コアに属性をつける事でダンジョン自体にも属性がつき、さらにコア自体にも特殊能力がつく。



「そんで、どうすれば属性がつくかコアに聞いたら、何かの属性を吸収し続けて、一定量を超したらって言うじゃねえか」


「もう、やってみたくて!」



ああ……またゼロの目が生き生きしてる。


俺はため息と共に、ダンジョンコアを母鳥レベルで抱き続ける覚悟をした。



「ダンジョンコアはマスタールームから出すのは危険過ぎるからな、この部屋だけにしろよ。あとハクは、魔力に余裕がある時はコアに注いどけ」



言うだけ言うと、カエンはおもむろに席を立つ。今日はシゴキはなしかとほっとしていたら、カエンはなぜか俺の肩をポンと叩いた。


耳元で囁かれた言葉にぞっとする。



「信用してくれるのは嬉しいが、マスターひとりにすんなよ。ゼロなんざオレ様が本気出しゃ瞬殺だぜ?」



そのままカエンはその場からフッと姿を消した。オレは、カエンが消えた空間を見つめて立ち尽くす。


本当にカエンの言う通りだ。


自分の迂闊さを呪いながら、俺は二度とゼロの側を離れるまい、と誓った。

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