第三クールはスライム祭り!⑬
挑戦者達がキラキラ光り、ケガが治癒すると共に、魔族魔術師から黒いオーラが解き放たれる。
……お怒りのご様子だ。
相当痛かったんだな。
「あんにゃろう…!一瞬で黒焦げにしてやる…!」
魔族魔術師の両手に、ハンパない量の魔力が集約されていく。
「ヒュージエクスプロージョン」
小さな声で唱えると同時に、不思議スライムの周囲に丸いバリアが出来、その中で激しい爆発が何度も繰り返される。
ひぃ~……
ドン引きするレベルの激しさだ。
その証拠に、周りの戦闘が一時中断されて、全員の視線が不思議スライムに集中している。
漸く爆発が収まり、バリアが解けると、不思議スライムはプスプスと小さな音をたてながら、体から煙をたなびかせていた。
あれだな。
元々、体が真っ黒だから分からないけど、多分黒焦げなパターンだろう。…可哀想に。
「フン、オレの勝ちだ」
腕組みして、魔族魔術師が言い放った途端、不思議スライムから閃光が放たれた。
激しい爆発音。
光でモニターは真っ白になり、暫くの間視界が奪われた。
「……これは…、自爆でしょうか…?黒いスライムが、自爆しました!!」
キーツの緊迫した声が響く。
見れば、不思議スライムがいた場所を中心に、蜘蛛の巣状にひび割れが出来、その場にいた全員が、壁際に吹っ飛ばされている。
「痛て…あんにゃろう…!最後になんて事しやがる。」
ボヤきながら魔族魔術師がなんとか立ち上がり、全体回復魔法を唱えた。
「あ~…やっと一匹か。ま、厄介なヤツは片付いたな。 」
魔族魔術師は酷い事を言っているが…。
それにしても、スラレンジャーに動きがない。このままじゃ挑戦者達にやられちゃうじゃないか。
ピンクは何やってんだ…?
…と思ったら、端っこでピクリとも動かない。まさか、不思議スライムの爆発で、気絶しちゃったのか?
いや、確かに、防御力は紙レベルだけど!
味方の自爆で気絶するって…。
しっかりしろよ、ピンクちゃん!
実際、爆発のダメージはそこそこ大きいようだ。防御力が高い他のスライム達も、それぞれに傷を負っている。
不思議スライム…味方を巻き込む攻撃、多過ぎだな…。既に戦えるスライム達はあと3体だけだ。
ガキーン!ガツッ!っと、硬質な音があちこちで響く。 防御力が高い3体だから、直接攻撃は効き目が薄いようだ。
今は青スライムとは盗賊くんが、黄色スライムとは女戦士が、そして赤スライムとは弟戦士が戦っている。
魔族魔術師は、3つの戦いを少し見つめたあと、ナイフでの戦いで分が悪い、盗賊くんから助ける事にしたようだ。
「どいてろ。俺がやる」
言うが早いか、右手に魔力が集まる。
「マグマ」
真っ赤な溶岩に襲われた青スライムは、ひとたまりもない。あれだけ弟戦士と盗賊くんが手こずっていたのに、ほぼ瞬殺だった。
「ーーおし、あと2匹」
不思議スライムが居なくなった途端、魔族魔術師は余裕たっぷりの表情を見せている。
そこに、弟戦士の悲痛な叫びが響き渡った。
「おぅあっちぃぃいぃぃっ!!」
残念ながら、なぜかやっぱり緊張感はないんだな…。
どうやら弟戦士は、至近距離で赤スライムの「蒸気噴射」をモロに浴びたようだ。顔や手が真っ赤になって、重度の日焼けのようになっている。
魔族魔術師は「ちっ!」と舌打ちすると、すぐに回復魔法を唱えた。さすがにヤバいと思えば率先して動くらしい。
回復したと思ったら、今度は赤スライムが真っ赤に光り始め、その小さな体から、信じられない熱風が巻き起こる。
弟戦士に向かって放たれた熱風は、延長線上にいた魔族魔術師と盗賊くんまで巻き込んで、吹き荒れた。
仲間が次々に倒され、危機感が増したのか、矢継ぎ早に強力な攻撃を繰り出す赤スライム。
「さすがレッド!カッコいい!!」
ゼロも興奮して、よく分からない声援を飛ばしている。
「くはーっ!あっちぃ!!何だよこいつ!防御力もハンパねぇくせに、魔法系まで充実してんのかよ!!」
「厄介だな」
弟戦士と盗賊くんが、苦々しい表情で赤スライムを睨みつけた。
「まぁでも、火属性だろう…?」
魔族魔術師は不敵に笑う。
余裕の表情で詠唱を始めた時、赤スライムの体から、今度は大量の霧がもうもうと発っせられる。
たちまち濃霧で何も見えなくなる。
「!?ミストか!」
「何も見えねぇ!!」
「ちょっと、何よ!この霧の量…!ビショビショじゃないのよ!」
「ホント、雨レベル…」
挑戦者達の困惑の声が聞こえてくる。
「ちっ…煙幕系、好きだな…」
魔族魔術師が呟く。
「グリード!手荒でいいから、さっきみたいに吹き飛ばして!」
女戦士の声に「仰せの通りに」と呟いて、風を起こす。 もちろん暴風だが、なかなか霧がはれない。
薄くなっても、また濃霧に。




