Bank teller
いつもと変わらない、週明けの月曜日。銀行に入行して4年。渉外担当だった俺が、この支店に来て窓口担当になり、もうすぐ3ヶ月になる。最初はどうなる事かと不安もあったが、徐々に窓口業務にも慣れ、銀行に来店されるお客様の名前や顔も覚え、会話も楽しめるようになってきた。
ただ、仕事面では充実していても、今一つ、何かが満たされていない……そう、しばらくの間、恋をしていないのだ。
大学の時から付き合っていた恋人も、お互いの仕事が忙しすぎて、結局、別れを選ばざるを得なかった。
気がつけば、自宅と銀行との往復の毎日。そろそろプライベートも充実させてもいいんじゃないか…。
{(ピンポ―ン) 3番のカ―ドをお持ちのお客様。1番の窓口までお越し下さい}
機械的な声がロビーに響き渡る。
『おはようございます。いらっしゃいませ』
『おはようございます、和泉さん。入金と振込の手続き、お願いします。』
青葉設計事務所の経理の如月さんだ。
『かしこまりました。お掛けになりまして、少々お待ち下さい』
如月さんは、ウチの支店の女子行員の間で話題になっている〔お客様イケメンランキング〕の中で1・2位を争う程の美貌の持ち主だ。栗色の髪と瞳。細身のス―ツを着こなし、物腰柔らかそうに話し掛ける姿は女性はもちろん、同性である俺でも、ついつい見とれてしまう程だ。
(…っと、見とれてる場合じゃないや)
入金しようと通帳を開いた時、1枚のメモが挟まっていた。
(なんだろ?何か書いてあるけど…)
【和泉さんへ
個人的な事で申し訳ありませんが、2人きりでお話したい事があります。今夜、時間ありますか?
連絡待ってます。
090-1234-XXXX 如月】
メモを見て、顔を上げると、如月さんと目が合ってしまった。思い切り、照れた様子の如月さんを見ていたら、こっちまで赤面してしまいそうな勢いだ。
さりげなく下を向き、入金と振込の処理を済ませた。
『青葉設計事務所様、お待たせ致しました』
如月さんを呼ぶ声は、緊張していつもより上擦っている。
如月さんもまた、ぎこちない感じで窓口の方へ近づいて来る。
『では、こちら、お通帳と、振込領収書のお返しです』
通帳の表紙には、俺の携帯番号を書いた付箋が付いている。
『……俺も、個人的に如月さんと話がしたかったんです。…きっと、お互い…考えてる事、同じですよね?俺、すごく嬉しいです。今日の夕方、連絡します』
どうやら……俺も、今日を境にプライベートで充実した日々が過ごせそうだ。