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道中

作者: アーモンド
掲載日:2011/08/18

 視界と言うのは、人が思ったよりも広くは映ってはいない。その証拠に、人は見えていないものがある。

 それは、ある晩の事だった。私はいつもの様に自転車に乗り、帰路に着いていた。夜道と呼ぶには、余りに街灯の光で明るく照らされたその道は、随分と見慣れたものだった。私がこの道を通るようになったのは、まだ梅雨に入る一歩手前の頃で、春の過ごしやすさに名残惜しさを感じてしまう時期の事だった。新しく始めたバイト先までは自転車で10分程度の所にあり、雨の日でも構わず自転車を走らせていた。

 明るいその道の途中、一ヶ所だけ規則正しい間隔で設置してある街灯が途切れている場所がある。それまでの道、そしてそこからの道が明るいが故に、そこの暗さが嫌に目についてしまう。毎回そこを通る度に横目で見てしまう内に、そこに細長い道が続いているのが分かった。人一人なら容易に入れる幅なのだが、人二人が並んで通るにはキツい幅である。が、視界の悪さも手伝って余計に狭く見えてしまう。

 その道を通る様になり、1ヶ月が経とうとしていたある日、私は見てしまった。いや、目に映り込んできたと言う方が正しいのだろう。すっかり興味を失っていたその細い道の先に、白い服を着た女が居たのだ。普通なら暗すぎて見えるはずのない道の先。だが、この時の私にはハッキリと女だと分かったのだ。ただの見間違いだと言えばそれまでなのだが、私は再びこの道に興味が湧いてきてしまったのだった。

 


 私が小さい頃住んでいた町で、こんな話があった。

 子供が一人で道を歩いていると、突然見知らぬ若い女性に「君のお家はどこなの?」と声を掛けられるのだと言う。そこで自分の家までその女性を案内すると、玄関の手前で女の姿が消

える。そんな、オチも教訓もない話がその町では語り継がれていた。ある家では、案内しなかったらその子供はどこかへ連れ去られてしまったり、案内した日の夜、その子供の家に女が乗り込んできて家族を殺してしまう等、その家庭により諸説あると言う。私の家では先に語った、何をするでもなく消えてしまうと言う結末だ。

 なぜこんな話をするかと言えば、私の目に映った白い服の女がその話に出てくる若い女のイメージと妙に合ってしまったからだ。どちらも実在するのかどうかも分からない存在であり、もちろん顔も見たことがない。それなのにこんな事を考えてしまうのは、私の頭が可笑しくなったのだろうか。


 

 とうとう私は、あの道の事を日常生活の中でも考えてしまうようになった。人の興味、好奇心と言うものは恐ろしい。自分で自分をコントロールすることが出来なくなるのだから、おぞましい。そして、おぞましいと同時に素晴らしき人間の力の一つだとも言える。世界に人工的な光をもたらしたのも人間の興味や好奇心、そして事実を知ろうとする探究心なのだから。

 とは言うものの、私の場合は少しだけ具合が違っていた。自身でも分かるくらいに狂気的であるのだ。オカルトを研究する人間のそれと似ている。心霊やらの研究をする人間の中に、時より見かける恐ろしい症状があると聞く。四六時中その事ばかりを考えていると、有りもしない幻覚を見始めると言うのだ。この話が本当かどうかを確める術は無いが、十分にに考えられる事である。人の視覚のほとんどは脳が勝手に造り出していると言われる昨今、益々その話には信憑性が出てくる。勿論、私個人の意見を言わせてもらえばそんな話は論議する程の事ではないと言いたい。何故なら、見間違いや幻覚などは実際に起こりうる現象であり、その幻覚の内容が恐ろしい幽霊であっても、全長五十メートル程の怪物であっても、大差ないのだ。要するに、そもそもが存在し得ない物をあれだこれだと論議しようと、明確な答えなど出ないと言うことだ。随分と回りくどい言い方になってしまったが、結局私が何を言いたいのかと言うと、私が見た白い女が幽霊であっても、見間違いだったとしても、変わりないと言うことだ。


 それからと言うもの、私があの白い服の女を見ることは無かった。しかし、またしばらく経ったある日の事、あの道の入り口に、白い花束が供えてあったのを見た。私にはその白い花束とあの女が関係しているのではないかと思った。もし本当に関係があったのなら、私が見たあの女はやはり幽霊であったのかもしれない。そう考えると、私はとても貴重な体験をした事になるのだろう。

 いつも通っている道で、そんな不思議な出来事があった。そんな一言で片付けられてしまう。それがどうしようもなく寂しく感じられるのは、私だけだろうか。









ここまで読んでいただいた皆様に、まずはお礼を言いたいです。


この作品を皮切りに、どんどん短編を書いていきたいと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文体は落ち着きがあり、非常に、うまいと思います。リズム感もよく、スムーズに読めました。
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