浄化2【灯る火】
薄暗い早朝、修平は車上泊先から外に出た。冷たい風が肌を刺し、吐く息が白く染まる。長年妻に依存し暴力で支配し妻の給料を搾取し続けた結果、妻は家を出ていた。家計も家庭も任せてきた彼女は長年の修平の支配から子供たちを置いて逃げ出して行った。
修平は妻が出ていってやっと働き出したが、給料はギャンブルに使い果たし金が無くなると残った子供たちに依存した。まだ高校生だった子供たちのアルバイトの給料を搾取し、自分の生活を維持していた。感謝も顧みず、ただ自分の欲望を優先する日々。
その結果、子供たちは成人とともに家を出て、かつてのことを恨み、縁を切った。今、残っているのは、わずかな財産もなく、孤独な車上泊の日々。後悔はない——と思っていたが、胸の奥には、漠然とした不安がくすぶっていた。
足は自然と神社へ向かう。鳥居をくぐると、空気が変わった。朝露に濡れた草の匂い、冷たく澄んだ空気。光の粒が舞い、肩に触れるたびに、わずかに胸が和らぐ。小鳥のさえずりが遠くから響き、御神木の葉が風に揺れてさらさらと音を立てる。
社務所では、真白が箒を手に静かに掃除していた。気づき、穏やかに微笑む。
「おはようございます。こんな早朝に、珍しいですね」
「落ち着く場所を探しててね。ここなら、誰にも邪魔されずにいられるかと思って」
真白は頷き、静かに言葉を返す。
「人は、自分の居場所を探して歩くものです。でも、居場所は誰かが作ってくれるものではありません」
修平は肩をすくめ、苦笑した。
「そうかもしれないな。俺は後悔はない。ただ…これからが不安で」
「不安というのは、未来に光が届く前触れかもしれませんね」
二人は御神木の下に歩み寄る。木漏れ日が修平に差し込み、葉の間からこぼれる光の粒が肩に落ちる。空気は静かで、遠くで鳥が羽ばたく音がする。修平は息を吐き、肩の力を抜いた。
「これ、温かいですね…」修平はぽつりと言った。
「光は誰のものでもありません。届くべきところに届くものです」
「届くべき…か。俺の光なんて、もう残ってないと思ってた」
「残っていないと思うのも、あなた次第。まだ小さくても、届く光は必ずあります」
修平は目を閉じ、深く息を吐いた。妻が出ていき、子供たちに依存し給料を搾取していた自分を振り返る。反省や後悔の芽が、心の奥に顔を出す。完全な変化ではない。だが、この小さな光が、残りの人生をどう生きるかを考えるきっかけになる。
「…ありがとう」
修平は静かに頭を下げ、鳥居をくぐり歩き去った。
社務所の扉の前に立つ真白は、彼の背中を見送る。心の奥で祈った——
「どうか、この光が無駄になりませんように。修平が、自分の人生を立て直せますように」
風が頬を撫で、葉が光を揺らすたび、修平の胸の奥にかすかな温もりが灯った。消えかけの火のようだが、確かに暖かい。
光の粒と真白の願いは、まだ見えない未来へと続いていた。




