第1話「視聴者ゼロの令嬢配信、突如バズる」
王都フェルメール邸――。16歳の貴族令嬢、リアン・フェルメールは今日も屋敷の書斎でスマートフォン片手にため息をついた。
「はぁ……今日も視聴者ゼロか……」
リアンは趣味で始めた配信「リアンのまったり王都ライフ」を画面に映す。王都のカフェ情報や領地の小ネタを紹介するだけの、完全なる自己満足配信だ。コメント欄はもちろん空っぽ。通知音も一切鳴らない。
「まあ、仕方ないか……まだ誰も知らないし……」
だが、リアンはふと思った。「せっかくだし、今日は少し本音を話してみようかな……」
カメラの前で、少し眉をひそめてつぶやいた。
「この王都の領地、もっと効率よく農作物を回せたらいいのに。役人たち、もう少し頑張ってくれたら助かるのにね……」
その瞬間、画面のコメント欄が一気に動き出した。
――「え、令嬢、それ本気ですか?」
――「領地改革案、聞きたい!」
――「この配信、もっと教えてください!」
リアンは驚きのあまり、スマホを握りしめた。「え……? 視聴者が……増えてる!?」
普段はゼロの数字が、見る見るうちに百、二百と跳ね上がる。コメントは同時に流れ、画面は文字の嵐になった。
「み、皆さん……どうして急に……?」
「どうやら、令嬢の本音発言がツボだったみたいです!」
リアンの侍女、リサが小声で報告する。
「本音……って、これ、ただの愚痴なんだけど……」
しかし、コメント欄には具体的な提案が次々と並ぶ。
――「この畑、排水溝を増やせば収穫量が上がります!」
――「役人の配置を変えれば税収も安定します!」
リアンは目を丸くする。まさか、配信の視聴者たちが領地改革のアドバイスをくれるとは思ってもいなかった。
「こ、これは……試してみる価値があるかも……!」
その日から、リアンの配信は単なる趣味の枠を超え、王都でも注目される存在となる。コメントに応え、領地の改革案を試し、商業や農業に工夫を加えるたび、視聴者数はさらに増えていった。
そして、リアンは気づく――。
「私、もしかして……異世界で、配信を通じて影響力を持てるのかも……!」
小さな書斎から始まった配信が、やがて異世界の政治や商業にまで影響を与える――そんな日常が、今、幕を開けようとしていた。